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マイナスの相乗効果

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 いや、怖気づいたというよりも、我に返ったというべきか。
「俺が、リスクを犯してまで、殺人をしなければいけないのか?」
 ということを感じたからである。
 犯行を計画した人間は、最初に自分が犯行を犯した。つまり、第一の殺人の実行犯だったのだ。
 彼は、自分の計画に酔っていた。
「俺の計画は完璧なものだ」
 と考えることで、完全犯罪が成り立つと思っていたのだ。
 もちろん、それは、机上の空論にしか過ぎないのだが、もう一人の犯罪者になる男も、実に感動してくれたではないか。自分たち二人なら、完璧な完全犯罪を成し遂げることができるというものである。
 これだけ完璧だと思ってしまうと、どうしても、おろそかになってしまう部分が出てきてしまう。それが精神的な部分で、相手がまさか、我に返るとは思ってもみなかった。
 自分が計画通りに犯行を行った。なのに、相手は、行動を起こそうとしない。
 この計画は、実行に入ってしまうと、お互いに連絡を取り合ったり、相談などはしてはいけないことになっていた。なぜなら、
「二人は、まったくの赤の他人でなければいけない」
 というのが鉄則で、計画が出来上がって、実際に行動に入ってしまうと、あとは計画通りに進めるだけだった。
 そのことも、念には念を入れて、何度も話し合ってきたことだった。
 だから、時計が回り始めると、相手が動かないからと言って、相手を促すこともできない。
 しかし、このままでは、自分だけがリスクを負って、相手は、自分の死んでほしい相手を殺してもらえたのだから、もう安心でしかない。主犯の男は焦り始めた。
 だが、いったん、冷静さを取り戻した共犯の男は、今度は、自分が絶対に安全な場所にいることで、今度は気が楽になったことで、その思いをさらに完璧なものにしようと、今度は欲をかいてしまった。
 つまりは、今までは、実行犯が表に出てきていないので、今のままでいれば、主犯が捕まることはない。だが、共犯とすれば、自分が完璧なアリバイがあることから、早く実行犯が捕まってくれる方が安心なのだ。
 だから、自分から主犯に近づくようなそぶりを見せる。
 それによって、共犯と実行犯が知り合いだと警察に思わせ、今まで出てこなかった主犯がクローズアップされてくる。
 ただ、共犯も、そこから先のことは考えていなかった。何しろ動機がないのだ。膠着状態に風穴を開けたというだけのことだった。
 だが、警察はそれでも膠着状態が崩れたことで、少しずつ分かってきたこともあった。
 警察の地道な捜査と、一人の刑事のずば抜けた推理力にて、交換殺人ではないか?
 ということが、考えられるようになった。
 だからこそ、第二の犯罪が起こらないことも説明がつく。ただ、証拠がないので、逮捕することができない。
 もし、逮捕することができても、動機がないので、証拠不十分ということで、不起訴にしかならないことも分かっている。
 推理はできるが、警察にはそれ以上のことは何もできない。
 それが、新山が書いた小説だった。
 自分が大好きな探偵小説とは、おもむきがかなり違っているが、こういう小説も、なかなかいいものだと思っている。
 あくまでも、学生のアマチュア作家が書いた作品という感じで、
「なかなか面白い」
 とは言ってもらえたが、それ以上のことはなかった。
「事実は小説よりも奇なり」
 と言われるが、刑事になってから、もっと大がかりな犯罪もあったというものだ。
 だが、大学時代に書いていた小説が、今の刑事生活に少なからず役に立っているとは思っている。

                 大団円

 今回の事件で、まずは、半年前に起こった、今里という経営コンサルタントが殺害されたという事件であるが、経営コンサルタントというと、会社を立て直してもらった雇い主であれば、それはありがたいと感じるであろうが、それはあくまでも、経営者の段階だけである。
 経営を立て直すためには、痛みを伴うことはしょうがない。社内ではリストラが断行されたり、民事再生をさせることにより、取引先に債権放棄をさせたりすることで、零細企業は、ひとたまりもなく、一気に倒産の憂き目に遭うということもありえないことではない。
 そういう意味で、経営コンサルタントという仕事は、
「どこでいつ、恨みを買っているか分からない職業だ」
 といえるだろう。
 しかし、それを言い始めると、普通の人だってそうだ。本人は意識をしていないにも関わらず、相手に一方的に恨まれることだってあるだろう。
 それは、逆恨みもあるだろうし、本人が分かっていないだけで、まわりは、危ないと思っていることだってあるだろう。
 経営コンサルタントは、えてして、自分が恨まれていることに気づかないものなのではないかと思えるのだが、果たしてどうなのだ。考えてしまうことだろう。
 しかも、彼は水面下でいろいろ動いているという。それこそ、失敗すれば、どうなるか、リスクが大きいのではないだろうか?
 下手をすれば、違法ギリギリのことや、明らかな違法をしているかも知れない。
 その中でウワサとして言われていることがあると、佐久間が話してくれた。
「実は、今里さんは、裏でいろいろな組織と繋がっているというウワサがあったんです。ただ、違法ギリギリのことをするために利用していて、相手も、今里さんを隠れ蓑に、いろいろできるというお互いの利害が一致した時だけ、利用するというものだったんですが、私が耳にしたこととして、戸籍売買を行っているというのは聞いたことがありましたね」
 というではないか、
「戸籍売買?」
 と言われて、
「ええ、不法就労していたり、いろいろな理由で戸籍を偽らなければいけない人に、別人の戸籍を売るんです。交換ということもしていたかも知れません。詳しいことは分からないんですが、その筋の専門家であれば、それくらいのことは今の社会情勢であれば、そんなに難しくはないと言います。もっとも、行政がしっかりしてきて、マイナンバーのようなものが、もっと普及してくれば、さすがに戸籍売買も難しくなるということで、駆け込み需要のようなものが増えてきたということを聞いていました。だから、今里さんは、今のうちにそのあたりをさばいておくというような話をしていましたね」
 というのだった、
 戸籍売買というと、よく耳にする。昔であれば、血液売買であったり、もっとヤバイこととして、臓器売買などというものがあったというが、今の日本でも、そのようなことが公然と行われているとは、思ってもみなかった。
「ということは、戸籍売買にかかわった人なども怪しいということですかね? しかも、その後ろにはその筋の組織が絡んでいるわけでしょう?」
 と新山刑事がいうと、
「そうですね。でも、組織がやったというのは、ちょっと解せないですね。やつらだったら、犯行をくらますことを考えるでしょうから、発見されるようなことはしないと思うんですよね」
 と佐久間は言った。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次