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マイナスの相乗効果

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「そうなんですよ。それが、交換殺人の一番のネックだったんですよ。でも、第二の日医者が、今回の事件で行方不明になった人だということになれば、話は変わってくる。行方不明になったのは、もちろん、今里が殺されるので、放っておけば、あなたが疑われるから、ほとぼりが冷めるまで、どこか遠くにいてくださいということを言ったとすれば、花園は隠れているでしょうね? 彼が、戸籍売買に一役買っているんだから、そんな状態で、今度は殺人事件にでも巻き込まれると、まるで王手飛車取りになってしまって、結局、どっちに転んでも、いいことはない。だから、身を隠すのが一番だったわけです。そして、今度は、本当の花園氏が困るわけですよね? 戸籍を売買した相手が、行方をくらましてしまうと、自分の立場が危うくなる。本当はそんなことはないのだけど、戸籍売買に殺人事件が絡んでくるとなると、頭が回らなくなる。助言してくれる人の言い分を全面的に信じてしまう。だから簡単に騙されることになり、行方不明である花園店長を毒殺するに至り、自分も、密かに消されてしまう。しかし、死体が発見されなければいけない理由がそこにはあった。実はそれは、半年前の今里が殺された事件と同じなんです。今里の死体発見のために扉が開いていたというのは、同じ理屈だったんですね。だから、本当をいえば、今回の事件は交換殺人ではあるんですが、直接関係のない事件なんです。半年前の事件に、花園店長は絡んでいるわけではなかった。その証言をしたのは、佐久間氏だったわけでしょう? それを考えれば、この事件の全容を考えたのは、佐久間氏ではないかと思うんです。かなり込み入った犯罪ではあるが、連続しているように見えて、実は連続していない事件。キーワードが、戸籍倍場合だったということでしょうか?」
 と新山刑事は言った。
「うーん」
 と言って、まだよく分かっていないと言った先輩刑事に、新山刑事は少し考えながら、
「今度の事件でもう一つ言えるのは、交換殺人というのが、最後までバレてはいけないことであるというのは分かり切っていることではあるんですが、昔の探偵小説などでは、例えば、死体損壊トリックがあったとしますね? それに一人二役が絡むことで、犯人が存在しない、いわゆる犯人だと思われた人間が殺されているということになり、絶対に捕まることはないんですよ。そして、犯人も死んだことになっているので、こちらも捕まることはない。つまりは一人二役ということが犯罪を完全なものにするわけです。でも、一人二役という犯罪にはデメリットがあるんですよ。というのは、少しでも、事件に一人二役というのがバレてしまうと、その時点で犯人の負けになるわけですね」
 というのだった。
「なるほど、死体損壊、つまり顔のない死体のトリックというのは、被害者と犯人が入れ替わるという法則があるからね。もちろん、小説の中だけだけどね、それをあまりにもこだわりすぎると、事件は迷宮入りしてしまうが、逆に、これが一人二役トリックが絡んでいるということになると、様相は変わってくるし、犯人にとっての敗北だということだね?」
「そういうことなんです。今回の事件は、交換殺人に、さらに戸籍売買というキーワードが絡んできた。そうなった時、普通は、交換殺人というのは、ありえないという法則のようなものがあることから、除外されがちなんだけど、それでも、やっぱり交換殺人というものがバレた瞬間から、どんどん計画はほころびていって、最初に、交換殺人はありえないということで警察が頭から消してくれれば犯人の勝ちだが、逆だと、犯人の負けになってしまう。完全に諸刃の剣なんですよ」
 と、新山刑事は言った。
「まだ、事件がよく分かっていないんだけど、戸籍売買というものだって、警察に分かってしまうと、犯人の負けなんじゃないのかい?」
 と先輩刑事に言われ、
「いや、これは逆に、マイナスの相乗効果で、プラスになったりするのと同じで、二つのマイナスがまるで、抗体反応を起こすかのような働きをする場合がある、特に警察のように、証拠や証言を固めて、そこからしか推理をすることができないと思われている人間には、なかなかそれを突破することができない。まるで結界のようなものではないかと思うんですね。でも、その結界を突破することよりも、どのような突破方法を見つけるかということが大切なんです。それを分からずに、何でもかんでも突破できたと考えたとすれば、それは、無謀な突破であり、事件解決に対して、むしろ逆効果になるんですよ。最初のうちは、うまく推理が働いて、どんどん先に来ることができるんだけど、奥に入っていくうちに、実は後ろに下がれない状態になっていることに気づかない。それは実は恐ろしいことであり、底なし沼に嵌っているのに、腰あたりに水が来るまで気づかなかったのと同じなんですよ。ただ、底なし沼の場合、足を踏み入れた瞬間に、すでにどうしようもなくなっているということなんだけど、それが分からない。だから、ちょっとでも、身体が浮いてくると、そこから何とかなると思うんでしょうね。でも、実際にはどうすることもできずにはまり込んでしまう。今回の事件はそういう事件だったんじゃないでしょうか?」
 数日後に、身元不明の遺体が、実は、本物の花園氏であることが、以前、彼が少年時代に犯した万引きの際の指紋で、判明したのだ。
 これにより、事件は一気に解決。そして、戸籍売買の一団も、一斉検挙された。
 不思議なことに、その中に、佐久間は含まれていなかった。
 この事件で、佐久間と、行方不明になり、最後は死体で発見された、偽物の花園教授という人物は、一体どういう役目を果たしたというのだろう?

                 (  完  )
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作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次