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マイナスの相乗効果

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 実際に警察が来た時、彼の顔は、顔面蒼白であったのは、すぐに分かった。かなりの小心者だということであろう。
 ただ、今のところ、この男の身元を示すものが何もない限り、判断のしようがなかった。そんな時、その2日後に、行方不明になっていて、半年前の事件にかかわりがあると思い、捜索していた人間が、他殺死体で発見されたのだ。その事件も謎が多く、この事件などは、謎どころか、身元すら、分からないのだから、どうしたものなのだろうか?
 他殺死体というものが、どういうものなのか、自殺とどこが違うのか?
 そんなことを、若い頃に考えたのを思い出していた。
「自殺だから、仕方がない」
 だとか、
「自殺なんて、自分たちの仕事ではない」
 などと考えていたのは、若さゆえのことだったのだろうと、思ったほどだった。
 そんな時先輩が、
「そんなことばかり考えていると、自分を追い詰める」
 というのだった。
 1年目はがむしゃらに突き進んでいたが、2年目くらいから、どうにも考え方が変わってきた。それまでは、間違った考え方であっても、ほとんど否定されることはなかった。突き進んでみて、結果、違っていたということなのだが、先輩は、間違った答えを後輩が出すということをわかっていたかのごとく、先輩は先輩で答えを用意してくれている。つまりは、尻ぬぐいまでしてくれているのだった。
 だから、一年目はがむしゃらにできた。
 しかし、2年目からはそうもいかない。間違っていると思ったら、先輩は、
「それは間違っているという指摘はしてくれるのだが、どこが、何が間違っているのか」ということを教えてはくれない。
「それは自分でちゃんと発見しなければいけないんだ」
 と言われるのがオチだったのだ。
 今では、その頃の教訓がいかされて、先輩から期待もされ、後輩にも指導ができるようなったと思っているが、まだまだ先輩に及ばないところが多かった。
「とにかく、自分からいろいろ思ったことを言ってみるといい」
 というのが先輩の意見だった。
 最初は、どんな発想であっても、間違っていると思ってしまうと、それよりも先に進まない。
 しかし、先輩の話していることであっても、それをすべて正しいとは思わず、自分オリジナルの意見を出すようにすればいい。先輩の意見にばかり合わせていると、自分が先輩になった時、何が正しいのかが分からなくなり、率先して発想を出さなければいけない立場になった時、まったく発想が出せない刑事になってしまうと、
「そんなのは、刑事でも何でもない。誰にだってできることだ」
 と言われてしまうに違いない。
 だから、先輩の意見をそのまま受け入れるのではなく、どういう発想から事件を掘り下げていくのかというところを見るようにしていた。
「答えは、そこにあるとは限らない」
 という発想に至ることができたことで、何か、それまでに見えなかったものが見えてきた気がしたのだ。
「身元不明の被害者が誰なのか?」
 ということをそのまま考えると見つかるものも見つからない。
 当然、捜索願や、やくざやチンピラなど、身元不明の死体で上がりやすい人たちを考えて地道に捜査するというのも、捜査のいろはとしては重要なことであるが、常識的な発想以外で、どういうものがあるかということを考えるのも、刑事の仕事だと思っていた。
「そのために、今までいろいろ経験したのでhないか?」
 というものである。
 この若い刑事、新山刑事は、学生時代、ミステリーが好きで、よく探偵小説を読んでいたりしたので、どうしても、そっちの発想に走り勝ちなのを、なるべく抑えようと思っていたのだが、先輩刑事と話をしていると、意外と、昔読んだ推理小説や探偵小説などの話を刑事の経験と一緒に絡めて考えるのも、悪いことではないかのように思えるのだった。
 新山刑事は、学生時代ミステリーサークルに所属していて、自分でも、ミステリーを書いて、同人誌のようなものをサークルでも発行していた元々、ミステリーが好きだということもあったが、それよりも、自分で作品を書いて、投稿するというのが好きだったのだ。
 だが、彼はプロになろうとは思わなかった。
「刑事になりたい」
 という思いが中学時代から強かったことが理由なのだが、それはやはり、刑事ドラマなどの影響が大きかったのだろう。
 だから、キャリア組というものには最初からあこがれることはなかった。それでも、
「えらくならないと、自分がやりたいことはできない」
 という泥臭さもドラマの中で見てきた。
「どうして、それでも警察官になりたい」
 と思ったのかというと、自分でもよく分からない。
 警察官になることが、自分にとってどういうものなのかもわからなかったので、ただ、
「警察官になりたい」
 という思いだけで、中学、高校時代を過ごしてきたので、大学に入ってから、自分の進みたい道を変えることへの勇気はなかったのだ。
「こんなことなら、最初からなかったほうがよかったのではないか?」
 とも考えたが、それは、夢だと思ってきたことが、いつの間にか自分を拘束してしまっていることで、気が付けば、逃れられない運命を自分で築き上げてしまったのだということになってしまったのだ。
 その時、自分が何について悩んでいるのか、何を悩まなければいけないのかという、
「大いなる謎にぶつかってしまった」
 と考えるようになった。
 それは、大学時代まで、何になりたいのかなどまったく考えず、胃が付いたら、就職した先が、別にやりたいことでも何でもないことだったという結末に至ったとしよう。
 もし、そうなると、
「したくもない仕事をさせられている」
 という意識を持つことで、自分の逃げ道を作ってしまったことに気づくのだった。
「どうせ、自分が最初からしたいと思った仕事じゃないんだ」
 と思うことで、
「いやなら辞めればいいんだ」
 と考えることで、自ら、逃げ道を作っていることに気づいているのに、気づかないふりをしていることだろう。
 しかし、気づいていないこととして、
「一度辞めてしまったら、今まで以上の条件はありえない」
 ということを、本人はわかっているつもりなのだが、理解はしていないのかも知れない。そして、もう一つの問題は、
「一度逃げ出してしまうと、逃げ癖がついてしまい、我慢をすることができなくなってしまう」
 ということであった。
 それでもいいと思っていると、成長はないと言われるが、仕事に対して、
「何を正著しなければいけないというのか?」
 と考えるのだ。
 そもそも、やりたいという意識があって飛び込んだ世界でも何でもない。
「仕事なんて、生活していければそれでいいんだ」
 と考えさえすれば、そのうちに、自分に合う仕事が見つかるかも知れないと考えるのだ。
 確かに生活ができればいい。自分が何者であっても、別にどうでもいいではないか?
 もし、自分が警察官になっていなかったとすれば、そういう感情を持って、どこかで仕事をしていたかも知れない。
 その時点で、仕事に対して執着はない。そして、自分の存在自体に執着すら持てていないかも知れない。
 そんなことを考えていると、今回の身元不明の死体も、
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次