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マイナスの相乗効果

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 何と言っても、半年前の事件で、今里という人間は、経営コンサルタントという立派な仕事をしているわけだが、そういう仕事をしていれば、さすがに、すべての会社を救うことはできないであろうし、また、請け負った会社を救おうとするならば、零細企業に犠牲になってもらうというやり方をするものである。
 そうなると、零細企業はどうなるのか? 最悪の場合を考えると、恐ろしい。昭和の時代などは、一家心中などという言葉があったりして、今でもきっとあるだろう。
 しかも、コンサルタントとしては、
「そんな小さな会社にかまっていられない」
 などと考えていて、ほとんど眼中にないということいなると、殺されたとしても、
「心当たりはない」
 ということになるだろう。
 本来であれば、そのあたりまで厳密に探して、捜査すれば、どこかで行きあたっていたかも知れない手掛かりに、ほじくり返せばかえすほど、まるでねずみ算式に心当たりが増えていくのだから、一歩間違えると、果てしなくなり、無限といってもいいかも知れない。
 そんな捜査をしていると、警察も人員が割かれてしまい、他の捜査がおろそかになる。
 よほどの事件でもなければ、人海戦術は使えないのだ。
 だから、
「手がかりがほとんどない」
 ということになって、事件を迷宮入りさせてしまった。身内も、会社の人からも、
「絶対に犯人を捕まえてくださいね」
 などという言葉もなかった。
 関係者からも、そこまで強い要望がなければ、警察もそこまでかまっているわけにもいかない。
「もっと検挙率のいい仕事をしている方がマシだ」
 ということで、捜査本部も解散、きっとあの時の捜査員も、すでに他の事件でバラバラになったこともあって、ほとんど過去のことになってしまったことだろう。
 実際に、今回関わることになった二人も、正直、半分忘れかけていた。新しい事件を追いかけなければいけないと考えていた矢先のこの事件、まさに、ショック状態で、何か刑事として忘れてはいけないものを思い出させる何かを叩きつけられた気分になったのであった。
 新たな捜査本部はできたが、半年前の事件の捜査員は、初動捜査に出た二人だけで、他の人たちは別の事件を追いかけていた。実際に、ここ最近、いろいろな事件が発生し、捜査本部ができないまでも、警察の捜査を必要としたものがあったのだ。
 その一つに。今回の事件が発生する2日ほど前に発見された、身元不明の死体の捜査というのがあった。
 その死体が、事故によるものなのか、事件によるものなのかが分からなかった。
 発見されたのが、城西区から、南区の方に向かう峠のようになったところで、車が何かをひっかけたということで、事故として、最初は届けられたが、どうやら、車が轢いた時点で、その人は死んでいたようで、つまりは、
「死体を轢いた」
 ということになるのだ。
 その死体も、交通事故による死体遺棄なのか、つまりはひき逃げということもありうるとして、交通課から、刑事課に依頼がきたのだった。
「ほぼ、十中八九、殺人ではないか?」
 ということで、司法解剖にも回されていた。
 解剖内容としては、初見の通り、死んだ後で、車に轢かれたということであった。
 その死亡理由は、青酸カリによる中毒死だということであったが、彼が車に轢かれた理由として、山間に車を止めて、そこで青酸カリを服用し、そのままその場で死ねなかったのではないかという分析であった。苦しさから道に飛び出してしまい、そのまま、道の真ん中で絶命してしまった。そこを運悪く車が通りかかったということではないかと考えれば、辻褄が合うであろう。
 ただ、その青酸カリは自分の服用したものなのか、それとも人に飲まされたものなのか分からない。ただ、一つ不思議なこととしては、峠のようなところなのに、この男が乗ってきたであろう車がどこからも発見されなかったということである。近くにバス停があるわけではない。それを考えると、誰かに連れてこられて、その場に遺棄されたのか、もし、そうだとすれば、
「苦しんで道に飛び出した」
 という説はなくなってしまう。
 そして、さらに気になる点がいくつかあった。
 その男の来ていた服装があまりにもみすぼらしいものだったということだ。洗濯した跡もない。ネクタイをしていて、靴もボロボロだ。
「ホームレスの中に、こういう男性もいたりするな」
 と刑事は考えていた。
 そういう意味で、
「もし、ホームレスだとすれば、自殺をするのに、青酸カリなど、どうやって手に入れたというのか?」
 という思いと、
「自殺であるとすれば、自殺の原因は何なのか?」
 ということである。
 何が原因だったのか分からないがホームレスになった時、自殺を考えなかった人が、ホームレスになって、自殺をする心境とは何なのかを考えてみた。
「もう、これ以上、落ちるとことはない」
 と、人生に完全に失望したのだろうか?
 などと、考えてみたが、どうも、この問題は永遠に分かりそうにもなかった。
 それよりも、可能性としては、他殺の方が大きいような気がする。ただ、そうなると、動機がこれまた問題になってくる。
 殺人を犯すということは、犯罪者の方としても、かなりのリスクがあるということで、覚悟が必要なはずである。
 つまり、相手を殺すことで、自分には大いなるメリットがあり、リスクと天秤にかけても、メリットの方が大きいということである。
 例えば、被害者が死ぬことで、犯人に莫大な遺産が転がり込んでくるなどであるが、この場合は、警察の捜査で一番最初に疑われることである。
 何と言ってお、警察が疑うのは、
「被害者が死んで、誰が一番得をするか?」
 ということが、捜査の出発点だからである。
 犯人にだって、それくらいのことは分かるに違いない。
 次は、怨恨が考えられる。被害者の男に自分の大切な人間を奪われた。あるいは、自分自身が得るはずだった幸せを壊されてしまった、などというものである。
 これも、考えられることである。相手を殺すことで、恨みを晴らす。今の日本は仇討や復讐は、法律で許さえていない。だから、いくら相手が殺人犯であっても、その人間を殺してしまえば、自分も殺人犯なのだ。
 これこそ、相手を殺すことで、自分も終わりだという、相打ちになってしまうことを覚悟の上での犯行だといえるのではないか。
 被害者が、ホームレスになっているのは、そんな復讐から逃れるためだとすれば、この怨恨説も理屈に合う気がする。
 どこで知ったのか、自分が殺されるかも知れない。自分は狙われているんだと思っても、警察に相談はできない。
 自分がかつて誰かに何か犯罪行為をしたとして、警察の追及を受けていないのだとすれば、それは自首に近いことだ。
 刑務所の中が安全だともいえるが、さすがに、ここでの自首は自分の人生を棒に振ることになる。
 そこで、一時身を隠すという意味で、ホームレスにカモフラージュしていたというのは、無理のあることであろうか?
 少し無理を感じるが、考えられないことでもない。
 まあ、もっとも、今の段階で何をどう想像しても、それは、架空の妄想でしかないのだった。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次