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マイナスの相乗効果

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 と言ったところか、殺人を犯してまでというほどの恨みを持っている人もいなかった。
 ただ、彼のように、
「水面下の人々」
 なるものがいたのだから、恨みくらいはあってもいいとは思ったが、水面下で動いているからこそ、余計に、恨みが深くならないという効果もあった。
 だから、事件は一向に進展しない。今里という人物のことが分かれば分かるほど、事件は迷宮に入っていくのだった。
 そこで手掛かりになると思われたのが、行方不明の、花園店長くらいだったので、花園店長の捜索も同時に行われていたが、どこに雲隠れしたのか、一向にその足取りは分からなかったのだ。
「どこかに高跳びでもしたんじゃないか?」
 とまで言われるようになっていたが、犯人の検討もつかず、唯一の手掛かりになりそうな花園店長の行方も、依然として知れず、もう、迷宮入り、まっしぐらだったのだ。
 そんな時、二人の刑事は、今里の事件に後ろ髪を引かれながら、他の事件を放っておくわけにもいかず。悔しい思いをしながらであったが、頭の中を切り替えるところだったのだ。
 ただ、心境は複雑だ。
 本当は、生きている彼を確保して、事件についての証言をさせるというのが目的だったのに、自殺でもなく、他殺死体で発見されたということは、二人にとっては、やり切れない気持ちだった。
「もし、自殺だったら、理屈は合う気はする。しかし、自殺ではなく他殺だということになれば、さらに、事件が一つややこしくなり、半年前の事件との結びつきをどう考えればいいのか、変に糸が絡み合ってしまう」
 という風に思えたのだ。
 ただ、分からないことがたくさんあった。
 なぜ、ここで、半年前に行方をくらましてしまった花園店長が、他殺死体にならなければいけなかったのか?
「花園さんは、この学校の先生だったんですか?」
 と第一発見者に聞いたが、
「いいえ、花園先生は私が知っている限りではこの学校に赴任したことはないはずです」
 ということだったので、なぜここに死体があったのかということは、疑問として起こってしまうのだった。
 さらに、気になるのは、
「被害者である花園先生は、行方をくらましてからのこの半年、どこで何をしていたのか?」
 ということである。
 逃亡していたのだとすれば、誰かが助けていたとも考えられるが、それが誰だったのかということである。その人が今回彼を殺したのか? そして、半年前の事件でも、やはり、花園が、何かしらのカギを握っていたということなのだろうか?
 いろいろ考えると分からないことがたくさん出てきそうだ。だが、それは捜査本部ができてからのことであり、今は、目の前の犯罪の初動捜査をしなければいけなかった。二人の刑事は、とりあえず、いつものように所持品などをチェックしてたが、確かにポケットから出てきた定期入れや免許証などを見ると、被害者は、花園に間違いないということは分かった。
 免許証の写真はまるで別人のように見える。髭を生やしていて、チューリップ帽のようなものをかぶっている。知らない人が見れば、ルンペンか、植物学者のように見えるのではないかと、両極端を感じたものだった。
 実際に、ウワサで聞くところの花園という人物も、どこか両極端なところがあったようで、
「普段はとても穏やかなんですが、何か本人のスイッチが入るようなことを口にすると。とんでもなく狂ったようにいきり立ってしまうことがあったんです。そうなってしまうとまるで子供がゴネているように、収拾がつかなくなるか、誰からかまわず、ある事ないこと、悪口を並び立て、まわりは、黙ってその場をやり過ごすしかなかったんです」
 という人もいれば、それを聞いていて、
「いやいや、あの人の言葉には皆裏がある。そんな子供が喧嘩でもしているようなそんな言い方をする時って、絶対に何かをごまかそうとする時だったはず。今となっては、そんな気がしませんか?」
 と言われて考えてみると、
「言われてみれば」
 と、それまでであれば、
「いやいや、そんなことはない」
 と言って否定していた人が、急に裏返ったように、相手に従うのだった。
 それだけ、疑っていなかったような人も、言われてみれば、おかしかったと思うほど、自分にも納得のいかないところがあったということなのだろう。
 死因に関してであるが、どうやら毒を盛られていたということである。ちょうど座っているあたりに吐血の痕があり、第一発見者が気づかなかったのは、そこを誰かが拭き取った痕跡があるということだった。
「ということは、被害者は毒を盛られたとすれば、自分で飲んだのか、誰かに飲まされたのかということですよね。自分で飲んだといっても毒を何かの食べ物か、飲み物に仕込まれていたとも考えられる、あるいは、薬のようなものでカプセルの中に仕込まれていたりすると、すぐには毒が変わらない可能性もあるかですね」
 と、若い刑事が言った。
「確かにそうだ。だが、少なくとも、ここにもう一人誰かがいて、この男が吐き出した血を拭き取った人がいるのも確かなんだよな。となると、これは自殺ではなく、誰かに毒を盛られたと考える方が辻褄が合っている。君のは残念だけど」
 と、先輩刑事に言われて、若い刑事は、一瞬、ギクッとなったようだ。
 もしこれが自殺だとするならば、半年前の殺しの犯人が彼であり、その自責の念に堪えかねて死んだということになる。
 だが、そうなると、問題がないわけではない。
 この半年間、どこにいたのか。なぜ、逃亡を図ったのか。そして、なぜ今になって自殺をしなければいけなかったのか。パッと思いつくだけでもいくつもの問題があるではないか。
 そう考えれば、今回の事件は、半年前の事件とまったく関係がないとは言えない。半年も経っているのだが、これは連続殺人だと思っていいのか、少なくとも半年前の事件の捜査は、少なからずはしている。その中で、さらに、今回の被害者である、花園店長を共通で恨んでいる人がいたのか、あるいは、被害者二人にどのような接点があるというのか。以前は、被害者と犯人という見方で見てきたが、今回は見方を90度変える必要がある。(180度変えてしまうわけにはいかないので)
 もう一度、これにより、半年前の事件に関しても、さらに調査をする必要があるのではないかと、二人は感じたのだ。
「毒の種類は青酸カリか何かでしょうか?」
「そうじゃないかな?」
「じゃあ、死亡推定時刻は、いつ頃ですか?」
「今から、6時間くらいまではないでしょうか?」
「ということは、深夜の1時か2時頃ということでしょうか?」
「詳しくは解剖してみないといけないと思うが、そのあたりで落ち着くそうな気がするな」
 というのが、その時の現場の状況だった。
 2人は、待たせておいた、国語の先生に話を聞いてみることにした。
「お待たせしました。まずあなたは、どういう方なのですか?」
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次