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マイナスの相乗効果

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 本当に被害のひどいところでは、床上浸水どころか、1階部分は完全に埋没し、2階に避難している人もいた。平屋の人は、何とか2階のあるところや高台に避難したりしていたが、ひどいところでは、洪水によって、ビルの屋上に置き去りにされてしまった人もいたりした。
 自衛隊の緊急出動で、ヘリコプターによる救助などが、行われていたのだった。
 それでも、9月はまだまだ暑かった。
「2度やってきた梅雨」
 のせいで、暑さはいつまでも収まらない。9月になってもセミの声は止まらずに、その耳鳴りがしてきそうな声は、
「いつになったら、夏が終わるんだ?」
 と感じさせるほどだった。
「梅雨が2度来たのだから、夏も2度来た」
 ということなのであろう。
 10月の声が聞こえてくると、やっと、セミの声が、コオロギや鈴虫のような秋の虫の声に変わり、身体にまとわりつく汗の気持ち悪さを、感じずに済むと思うと、気が楽だった。
 夏が好きな人はまだいいが、夏が苦手な人間には、この汗がまとわりつく感覚が、嫌で嫌で仕方はないのであった。
 ただ、一つ言えるのは、
「秋があっという間に過ぎてしまうんだろうな?」
 という感覚であった。
 秋というと、子供たちなどには、運動会や文化祭などの行事や、遠足などもあって、毎週何かのイベントがあると言ってもいいくらいであった。
 皆が皆運動会や遠足が好きだとは限らないが、ないならあいで寂しい気持ちになるのも無理もないことだ。
 特に遠足などは、小学生にとっては、学校の外に出て、お弁当を食べるというのが楽しみであった。
 給食のように暖かい食事もいいのだが、たまには、表でシートを敷いて、その上で、友達とワイワイ話しながら、食べるのが楽しかった。普段味わうことのできない自然と接することが楽しかったのだった。
 そんな待ちに待った秋がやってきたのだが、遠足も、豪雨災害を考慮してか、今年は田舎に行くようなことはしなかった。都心部にある、こども科学博物館というところに、社会見学に行くところが多かった。プラネタリウムを見たり、恐竜のはく製は、骨格などの展示が、結構人気だったようだ。
 中学生も同じで、学校からは、ハイキング形式のものはなかった。
 もっとも、まだハイキングコースは、豪雨の影響で荒れ果ててしまっていて、とても、入れる状況ではなかった。ハイキングコースの半分近くは豪雨の影響で、営業ができない状況になっていたのだった。
 F市城西区にある中学校で、住宅街というよりも、マンションが立ち並ぶあたり、つまり、海の近くにあるその中学校で、事件は起こった。最初に発見したのは、いつも一番で通勤してくる、国語が専門の先生だった。
 元々、いつも早く出てくるのだが、その日は、もうすぐ中間テストだということで、試験問題を作成するという目的をもって、その日は、学校に7時前についていた。
 正門を開けて、職員室までいつものように歩いていたが、職員室の手前にある一年生の教室があるのだが、電気がついているようだった。
 用務員の人が普段は、電気がついていれば、消すはずなのに、
「どうしてなのだろう?」
 と思っていると、その先生は教室が気になって、扉を開けてみた。
 教室の後ろから開けたので、教室の中央あたりの席に、机に覆いかぶさるように前のめりに臥せっている人を見かけた。
「おい、誰だ。そこにいるのは?」
 と声をかけてみたが、相手は返事をする様子はなかった。
 おもむろに近づいてみると、黒い上着を着てはいるが、何やら学生服ではないような気がした。
「生徒ではないのかな?」
 と思い、少し前の方にいって、その顔を確認しようとした。
 そして、その顔を見た瞬間、
「うっ」
 と思わず声にならない声が出たのだが、その人は明らかに中学生ではない。
 しかも、目をカッと見開いて、どこを見つめているのか、瞬きをするようには決して見えない。顔色はまるで石のようであり、明らかに死んでいるというのが分かった。
 口からは血が流れ出ていて、とにかく、死んでいるのだろうということだけは察しがついた。
 110番に連絡をし、警察が来るのを待つしかなかったが、何しろいつもよりも、かなり早い時間の出勤だったので、他の先生が出勤してくるよりも、警察の方が早いだろうということは察しがついていたのだった。
 そこにやってきた刑事は2人だった。
 もちろん、鑑識の人も一緒にやってきたが、
「あなたが、第一発見者の方ですね?」
 と聞かれた国語教師は、
「ええ」
 というと、
「じゃあ、のちほど、お話をお伺いしますので、少しそちらで待機をお願いします」
 と言って、国語教師が待機している間、刑事2人が、被害者を覗き込んだその時、2人の刑事が、ほぼ同時に、
「あっ」
 という声を挙げた。
「この男は」
 と言って顔を見合わせたが、どうやら2人の刑事は、その被害者のことを知っているようだった。
 そして、すぐに被害者を見ながら、一人の若い方の刑事が、その様子を見ながら、
「まさか、こんなことになるなんて」
 と言って、悔しさからか、歯を食いしばっている様子が見て取れた。
「君の気持ちはよく分かるよ。私も君と同じ気持ちだからね」
 というのだった。
 刑事が、2人して、被害者を抱え起こしたのを見ていると、今度は国語の先生が声を挙げた。
 さっきまでは、
「誰かに似ている気がするんだけど」
 と思っていた、中途半端なモヤモヤした気分だったが、刑事が抱え起こしたことで正面から顔を見ることができると、それが誰だか分かったのだ。
 しかし、刑事2人は、そんなことは知る由もない。後ろから急に声がしたのでびっくりして第一発見者を見ていたが、被害者を見つめるその目が明らかに異様だったことで、先輩刑事が、
「あなたは、この被害者をご存じなんですか?」
 と、聞かれて、彼は一瞬、
「しまった」
 と思ったが、もうごまかすことができないと思った。
 どうせ黙っていても、すぐに分かることだ。最初から正直に答えておいた方が、刑事の心証だっていいだろう。
「あまりにも表情が変わっているので、違うかも知れないのですが、私の知っている人に似ているんですよ」
 と言った。
 それを聞いた刑事は、
「誰に似ているんですか?」
 と聞いた。
「はい、私がまだ教師の新米だった頃、先輩教師をしていた、花園先生です」
 というではないか。
 そう、二人の刑事も、この男の顔を見た瞬間、
「花園だ」
 ということは分かった。
 しかし、同じ花園でも刑事たちが聞いていた花園というのは、コンセプトカフェの花園店長だったのだ。
 手配写真でしか見たことがなく、警察が知っているのは、あくまでも、捜索願が出され、さらに、別の殺人事件での、参考人として探していた相手だったのだ。
 その事件が起きたのが半年前、今里の殺害事件では、これと言った進展もないまま、半分、迷宮入りになりかかっていたのである。
 半年前の事件で、いろいろなことが分かってきたのだが、どうしても、今里を殺そうというところまでの動機を持った人は見つからなかった。
 皆それぞれ、
「帯に短したすきに長し」
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次