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マイナスの相乗効果

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「まあ、水面下と言っても、やっていることは、表向きと変わりはないんですよ。水面下にする理由はこちら側にあるだけで、自分たちのライバル会社に先を越されないようにしないといけないというコンサルタントのアドバイスから、じゃあ、水面下でということを我々が言い出したんですよ。ひょっとすると、相手も望むところだったので、そういうアドバイスになったのではないかとも思うんですけどね」
 という話をしてくれた。
 どうやら、海千山千の双方が、お互いに腹の探り合いのようなことをしているのだろうと、刑事は感じたのだった。
 そのついでに、花園店長の話を持ち出した。
「花園店長ですか? 話には聞いたことがあります。我々は、花園店長以外の水面下で進めている他の人のことは知らないのですが、花園店長という名前はよく聞きましたね」
 ということであった。
「今里さんは、そんなに花園店長の話を出したんですか?」
 というと、
「いえいえ、花園店長の話を、今里さんの口から聞いたことはなかったんですよ」
 というではないか?
「えっ? じゃあ誰からの話だったんですか?」
「ああ、あれは、佐久間さんからだったんですよ。今里さんには内緒ですってね」
 それを聞いて、思わず刑事は顔を見合わせた。
 佐久間という男が、何か怪しいお所で、彼こそ一番の食わせ物だと思っていたが、あの時に警察に対して花園店長の話をしたのも、水面下の人たちに花園店長の話をしたのも、何か作為があるに違いない。
 しかも、警察の話に対し、水面下の人たちは、花園の話を率先して、してくれた。
「花園店長という人は、コンセプトカフェの店長さんで、しかも宇雇われ店長さんだっていうじゃないですか? ここはコンサルタントの会社で、普通に表で相談するだけで、結構な金額を取られることになるので、小規模な会社から見れば、高嶺の花のようなところなんでしょうが、水面下であれば、そこまでではない。そのことを、雇われ店長でも相談できるのが、この水面下の仕事だということで、きっとたとえとして、花園店長のことを話したんでしょうね。でも、それを話したのは。佐久間さんだけだったんですよ。私としては、大っぴらに今里さんが話してはいけないというルールがあって、それを受け持つ人間として、佐久間さんがいるんだって理解していました。だから、佐久間さんに相談することも、ないわけでは買ったんですよ。そこから今里さんに伝わるようにですね」
 というではないか。
「じゃあ、佐久間さんを仲介役のようにして、うまく行っていたというわけですか?」
「ええ、その通りですね。でも、あくまでも、佐久間さんは、今里さんとの間の仲介役でしかないことから、佐久間さんとの話は、絶対に口外しないことというのが、その話だったんですよ。刑事さんたちは、今里さんの殺された事件を捜査しているんでしょう? だったら、もうこの辺のオフレコは話をしないといけないことだと思って話しました」
 と言って、相手は笑っていた。
 水面下というのは、彼らが言い出したことであるのは意外だったが、そう思うと、今里と佐久間がうまく水面下で動けたという理由も分からなくもない。もし、表に出てきそうになったり、うまく行かなくなれば、最初からなかったことにすればいいだけで、そのあたりも、最初から契約の段階で、取り決めていたことのようだった。
 今回の収穫としては、水面下の人たちは皆。佐久間店長のことを知っていて、お互いに、
「このことは口外しない」
 ということがモラルとなっていた。それが、佐久間という立場であり、水面下では分かってはいるが、佐久間と水面下の得意先が話したことは、他の水面下の得意先には一切関係ないということは、皆には分かっている。つまりは、
「佐久間は、他の会社と相手をする時は別人だ」
 という感覚であった。
 そして、花園のことを、今里が一切口にしないということも、刑事には気になるところであった。

                 第二の事件?

 F市もいよいよ暑かった夏が終わり、秋が感じられるようになってきた。時期を感じるというわけでもないのに、いつのまにか、秋になったと感じるのは、明らかに身体にしみついた何かがなくなったか、あるいは、何かの兆候が出てきたからではないだろうか?
 この時期になって暑くなくなってきたとなぜ感じるようになったのか、最近になって分かってきた気がした。
 それは、明らかな夏を感じなくなったからだ。
 そう、実に簡単なことであり、
「セミの声が聞こえなくなったからだ」
 と分かったのである。
 そういえば、梅雨から夏に変わった時、確かに雨が降らなくなり、急に暑さが身に染みて感じるようになってくると、それが、セミが鳴きだした時期と同じではないかということが分かったからだった。
 確かにセミの声がしている時、身体がセミの声だけでだるく感じられるようになり、動くのが億劫になってくる。それを考えていると、今年の夏は、10月を過ぎてまでも、セミの声がしていたような気がする。最近の夏はどうかしているのだった。
 今年が特に変だった。
 梅雨が明けたのは、7月に入ってすぐだった。例年よりも早く梅雨が明け、想像以上に雨量が少なかったのだ。
「今年は水不足になるのではないか?」
 という懸念があった。
 ここ数年、梅雨というと、梅雨の終わりに突然の集中豪雨が発生し、全国に、被害をもたらしていた。
「線状降水帯」
 などと呼ばれるものが発生し、
「強い雨が、同じ場所に長い間停滞するため、堤防が決壊したりして、洪水をもたらすことになる」
 と言われていた。
 実際に、集中豪雨に見舞われるとことは、不思議と毎年同じ地区に多く、毎年のように、土地が水に浸かってしまったりという被害に見舞われていた。
 車も完全に水没し、そのあたりの車は軒並み、
「お釈迦」
 である。
 お釈迦になり水没したあたりは、豊富な農産物で有名なところが多く、農産物が全滅してしまい、価格が跳ね上がったりということにもなっていた。
 ただ、今年はそのような豪雨が、梅雨の間に降り注ぐことはなく、降水量も少ないという、いつもとは違った夏の始まりだった。
 7月は、普段の夏という感じで、暑さは35度以上の猛暑日など、日常茶飯事という感じで、
「これが8月にでもなったら、干上がってしまうんじゃないか?」
 と言われていたのだが、梅雨の時期の帳尻を合わせるかのように、盆前になると、集中豪雨が、ひどかったのだ。
「まるで、忘れていた梅雨の終わりが、1か月半後にやってきたみたいだ」
 と言われたほどだった。
 交通機関はひどいもので、電車は、ほとんどの路線で運休、路線バスはかろうじて動いていたが、短い区間だけだった。
 しかも、それが、1週間近くも降り続いたので、毎年の梅雨の終わりのごとくであった。
 ただ、今回は、一部の地区の問題だけではなく、広範囲において、満遍なく豪雨となったのだ。いつも被害を受ける場所だけではなく、都心部でも、ターミナルが水に浸かってしまったなどという状態だったのだ。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次