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マイナスの相乗効果

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「ええ、その通りなんです。だから、あの人の手腕は本当に素晴らしいんです。その人がまさか、こんなに簡単に殺されてしまうなど、想像もしていませんでした。今のところ、水面下で進んでいるので、恨んでいる人はいないと思われていますが、実際に、その水面下で進めていく中で、一人の人が急に行方不明になってしまったんです。もちろん、まわりはまったく今里さんとの関係を知っている人はいないので、今里さんの名前が出ることはなかったんですが、今里さんが殺されたとなると、話は変わってきます」
 と、佐久間は言った。
「ほう、その人は誰になるのかな?」
 と聞かれて、佐久間が答えるには、
「F市の歓楽街に当たる一部に、コンセプトカフェや、フェチバーなどの集まっている一帯があるんですが、その中にある一軒のコンセプトカフェの店長をしている人で、花園店長という人が、数か月前から行方不明になっているんです。会社の人が、警察に捜索願は出しているはずですので、調べてもらえば、失踪した時期などは分かると思います」
 というではないか。
「まだ、見つかっていないということかな?」
「はい、私の情報では、まだ見つかっていないようですね。彼は雇われ店長だったのですが、最初は、店舗の経営があまりうまく行っていなかったことで、雇われ店長ということでしたが、根が真面目な人だったのか、結構責任を感じていたようなんです。そこで、いろいろなところに相談を考えていたようで、今里さんにも相談を持ち掛けていたんですね。今里さんは、他では皆から門前払いを食らったという、花園店長を受け入れ、彼独自の助言をしたようなんです。その時、ゆっくりかも知れないけど、会社の状況は回復していくはずだという今里さんの言葉を信じて仕事をしていると、実際に少しずつうまく行くようになって。彼は今里さんを、まるで神のように崇めるようになったんです。その時、恩着せがましいようなことを言い出したんですが、全幅の信頼を置いている花園店長には、そんな思いはまったくなく、どこまでもついていくという気持ちになっていたようなんです。そこで、今里さんは、手中に花園店長も収めることができて、表向きは店長をしながら、実は、私と同じ諜報工作のようなこともするようになったんです。同じような手口で、今里さんはどんどん味方を増やしていったんですよ。さすが、今里さんというところでしょうか?」
 と、佐久間氏は言った。
「その花園店長が失踪したというのには、何かわけがあるんですか?」
 と聞かれた佐久間氏は、
「どんな理由があるかは分かっていません。我々に関係しての失踪なのかも分からないし、何と言っても、今のままでは、警察も、たぶん、今里さんと花園店長の接点を見つけることはできないでしょうから、二人が捜査の上で繋がるということはない。しかも、警察は事件性がないと、捜索願が出ている人をいちいち探したりはしないでしょう? そうなると、一歩間違えれば、どちらも迷宮入りになってしまう。もし、二人の関係が、今里さんの死に関係がなかったとしても、何かのきっかけになるかも知れない。花園店長の人間関係などから、繋がってくるかも知れませんからね。だから、一言耳に入れておこうと思ったんです」
 と佐久間は言った。
「あなたは、急いで私どもを追いかけてくれましたが、何もあそこまで慌てなくても、後でゆっくり、警察を訪ねてくれてもよかったのに」
 と刑事がいうと、
「本当ならそうなんでしょうが、私は思い立ったことをその場でやらないと、少しでも時間が経つと、一気に精神的に冷めてしまうんです。だから、私のようなものを、今里さんは諜報工作の仲間に入れてくれたんだと思います。私のような人間が一番ふさわしくないように見えますからね。だから、きっとこの時追いつかないと、もうわざわざ警察に情報提供しようなんて思わないはずなんです。追いつけなかったら、まあいいかって感じですね」
 と佐久間は言って笑った。
 刑事とすれば、
「市民が警察に協力するのは当たり前のことではないか?」
 と思い、その感情で、佐久間を見つめると、佐久間は、今度は少し開き直った様子で睨みながら笑った。
「警察に市民が協力するのは当たり前とお考えのようですね。さすがに警察は傲慢なところだ。警察は捜索願にしても、市民が目の前で人がいなくなったと不安に思っていても、事件性がないからと言って、何もしない。市民が知らないと思って、いかにも捜索しているような顔をする。ちゃんと最初から、警察はそんなに暇じゃないとでもいえば、いいものを、もっとも、昔の警察はそうだったんでしょうがね。だけど、今は市民の警察を謳っているから、大ぴらに市民を刺激できない。実に卑怯なんだ。警察組織という隠れ蓑に隠れて、いるだけだ。だけど、市民は警察が思っているほど、警察を信用なんかしていない。毎日のように警察の不祥事がネットや新聞に載れば誰が信用するというんでしょうね? 本当におこがましいとはこのことだ」
 とそれまでの雰囲気は完全に一変した佐久間だった。
 佐久間の様子を見て、警察は、
「この男、激情家なのだろうか?」
 と感じた。
 警察はなるべく何も言わないつもりだったが、顔に出てしまったにしても、そんなにひどいわけではなかった。それをいかにも、この時とばかりという感じだったので、最初からこのタイミングを狙っていたのか、それとも、刑事の表情をずっと観察していて、あわやくばという瞬間を狙っていたのか、どっちにしても佐久間には作為的な感じがありありだった。
 そう思うと、彼が何をそんなに興奮したのかは別にして、警察をどこかにミスリードしたいという意識があったのか、そう思うと、この証言をどこまで信用していいものかということを考えてしまう。
 とりあえず、これ以上佐久間と話をしていると、混乱するだけだったので、なるべく早く切り上げたいと思っていると、相手の方が、
「じゃあ、今日はこのあたりで」
 と言って、あっさり、来た道をゆっくり歩いて帰っていった。
 その様子を見ていると、背中がくたびれたように思い、追いついてきた時の気概は一切感じない。
「あの走ってきた状況も、演出の一部だったのかな?」
 と考えるようになると、彼の証言以外も、どこからどこまでが本当のことなのかということを考えてしまうのだった。
 署に戻って、捜索願の話をしてみると、
「ええ、確かに、花園さんという方の捜索願が出されていますね。出されてから、二か月ほどしか経っていないので、見つかったというわけではないですね」
 というのだ。
「事件性に関しては?」
「捜索願を出した人の話ですと、トラブルに巻き込まれたという話もないし、いなくなった理由にもピンとくるものはないということだったので、我々としても、緊急性はないと思って、今のところ、捜索はしていません」
 というではないか。
 そうなのだ。警察というところは、前述のように、事件性や、自殺の恐れでもない限り、緊急性はないとして、敢えて探すということはしない。話を聞いていると、借金があるというわけでもないし、人間関係で怪しい人と付き合っていたり、恨まれているようなこともないだろうということだったという。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次