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マイナスの相乗効果

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「核心部分に近づこうとすると、急に霧に包まれたようになって、分からないんですよね?」
 というような話を、社員のほとんどから聞けた。
「じゃあ、堅物なんですかね?」
 と聞くと、
「堅物という感じでもないんですよ。ただ正直、協調性のないのは間違いないと思うんですけどね」
「じゃあ、女性関係とかは、どうなんでしょう?」
「そうですね。何とも言えないかも知れないです。朴念仁というわけでもなさそうだったからですね」
 ということであった。
「そうですか、ありがとうございました」
 と言って、刑事二人が、
「どうも、会社では収穫がなさそうだな」
 と言いながら、会社を出て、車に乗り込もうとしたところだった。
 後ろから一人の社員がやってきて、
「どうしたんですか?」
 と、走って追いかけてきたのか、息を切らしている男に声を掛けた。
 何とか息切れの状態を元に戻して、
「実は二人の刑事さんにお話ししておこうと思いまして」
 というではないか。
 後から密かに追いかけてきたということは、どうやら、他の社員に聞かれたくないということであろう。
 話の内容が聞かれたくないということなのか。それとも、告げ口のようなことをしている自分を見せたくないのか。つまり、それほど、会社自体が保守的な会社で、告げ口をすることで、それ以降の自分の立場が悪くなるということが考えられる。そういう意味では、皆知っていることを、彼が抜け駆けをして、話そうと感じていたということなのか。もしそうだったとすれば、被害者の今里という男は、社員からあまり慕われていたわけではないということであろう。何しろ、警察の捜査に非協力的だということだからである。ただ、それも逆にいうと、被害者のプライバシーを守ろうとしているともとることができる。
 そんないろいろな考えを抱きながら、とにかく、警察に進言しなければならないと思ったことは事実なようなので、信憑性があるかも知れない。だが、こちらも、
「逆も真なり」
 という言葉があるように、その裏に何かが隠されていないとも限らない。
 警察の捜査としては当たり前のことだが、とにかく、すべてを鵜呑みにして、捜査に組み込まないようにしないといけないのである。そういう意味で、情報も多すぎるのは、混乱を招くということもあり、取捨選択という意味で、実に難しいというところであろうか?
「とにかくは、聞いてみないと始まれない」
 まさしく、その通りだった。
「実はですね、今里さんが、ずっと秘密にしていたということがあったので、一言話しておいた方がいいと思いまして」
 とその男は慌てて切り出した。
「あなたは?」
 と警察はまず、男の正体を知らないことには、その話の信憑性も分からないと思ったのと、男の挙動から、今のままでは、話が支離滅裂になりそうだったので、いったん、落ち着いてもらうことにした。
 しかし、この男は、少々落ち着いても、話し慣れていないように見えるので、ある程度の話が前後する状態は覚悟しておいた方がよさそうだった。男は、膝に手をついて、必死で呼吸を整えていたが、この話をするべきかを最後の最後まで迷ったことで、刑事に追いつくまでに、かなりのスピードが必要だったことが分かったのだ。
「私は、この会社で、これは自称ですが、殺された今里さんと、一番仲がよかった親友だと思っている、佐久間というものです。今里さんは、エリート中のエリートと言われていますが、そのせいもあって、かなりまわりに敵が多いんです。それで、私のような、会社ではどうでもいいような人間に話をして、ストレスを発散させたかったんでしょうね。今里さんという人は、結構、まわりに対して敵対心を抱いていたんですよ。まわりが今里さんに挑戦的なら、今里さんも、受けて立つという感じですね。でも、いくら彼が万能のような人間といっても、相手が束になってくれば、なかなか難しい。そこで彼の考えとしては、自分ができることは攪乱戦法だと思っていたんです。相手の共倒れを狙うような感じですね。そこで私は、どうでもいいような立場ですから、今里さんの心をうち明けやすい人間ということで選ばれたんですが、今里さんにしてみれば、特殊工作員のような形にしたかったんでしょうね。スパイをさせてみたり、場合によっては、わざと仕事を失敗させて、相手を混乱させたりですね。私がさすがにそこまではというと、大丈夫だ。君くらいであれば、何かあっても、君が責任を取らされることはない。この会社はブラック企業なので、君が今のまま過ごしていこうというのは、たぶん甘いかも知れない。きっと、会社の派閥の道具に利用されて、その責任を押し付けられ、駒として捨てられることになると思うというんです。だから、今の彼に協力すれば、彼と会社に革命を起こせるのではないかというんですよ。私も、このままではまずいと思っていたので、今里さんの言い分には納得できるものがありました。だから私は今里さんについたんです。それで、会社の人間の目を欺きながら、少しずつ、やりがいも見つかったようで、会社にいるのも充実していたんですよ」
 というではないか。
 会社の中で、どうでもいいような立場にいるということは、先ほど会社に行った時にまわりを見て、ひとりひとり見た中で、特に彼は、本当に目立たず、どうでもいいような立場にいることは分かった。だからこそ、彼が走ってやってきたのを見た時、ビックリもしたし、正直、怖いとも思ったのだ。
「なるほど、あなたの生きがいは、今里さんとともにあったということなんですね?」
 と刑事がいうと、佐久間は、いかにも楽しそうな顔になって、
「ええ、そうなんです。だからですね、今里さんが密かに会社にも黙っていろいろな計画をし、会社に対しての背任行為ギリギリのことをしていて、今里さんとすれば、下準備がきちっとできてさえしまえば、表に出た時には、もうそれは背任行為ではないどころか、会社の救世主として頭角を現し、今里さんの成長の芽を摘もうとしている連中のお株を奪うことができると考えていたんです。もちろん、それはかなり、水面下でしかも、着実に行う必要がある。会社内では私がその一番手なんですが、会社の外にも今里さんを応援している人もいるらしいんですね。もちろん、表立ってのことはできないのですが、情報提供くらいのことはできたようで、今里さんの学生時代には、そういう経営に長けた人はたくさんいて、すでに社長に収まっている人、政界や財界に顔の利く人というのもいるようで、そんな人たちから密かに情報を仕入れていたんです。その中で、いくつかの会社、それも小さな会社に働きかけて、自分の力になってもらえるような地盤を作ろうとしていたんですね」
 と、佐久間はいうのだった。
「なるほど、かなり壮大な感じですが、たぶん、水面下ですべてがうまくいけば、今里さんは、素晴らしい経営者であり、コンサルタントとしての地位も確たるものにできたんでしょうね」
 と刑事がいうので、
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次