二重人格の螺旋連鎖
どうせ、中の人は皆常連であろうし、そんな変な人たちではないというのは、分かった気がした。
実際にお金を払って、中に入ると、踊り子のファンが、前の方で歓声を上げている。まるで小さなファッションショーでもやっているかのように、舞台から、中央部の突出口が完全に舞台になっていて、かぶりつきの客が、どこに座っていても、一番先頭であれば、触ることができるくらいの位置である。
踊り子が出てきて、隠微な踊りを披露している間、奥から男のナレーションが聞こえる。
「いかにも、これがストリップというものだ」
と、以前ドラマで、ストリップ小屋の様子が描かれていたが、さほど変わりはないようだった。
風俗ではないが、流行りのものとして、以前に何度か、メイドカフェに行ったことがあった。
以前ドラマなどで、もう10年くらい前になるか、メイドカフェの女の子がわき役として登場する話として登場したメイドカフェというと、いかにも、
「萌え萌えキュンキュン」
と言った感じのロケであったが、最近のメイド喫茶に行ったことがあったのだが、テレビでやっていたメイド喫茶とは、明らかに違っていた。
テレビでやっていたのは、まるでハーレムでもあるかのように、一人の客に、二人か、三人のメイドが張り付いている光景だったのだ。
「メイドカフェってこんなにケバいんだ」
ということで、元々、引っ込み思案な自分には、さすがにこの雰囲気に一人でいくのは無理だろうと感じていた。
しかも、自分一人に数人のメイドがついてくれているのだから、誰かと一緒にいける雰囲気ではないと思ったのだ。
「まるで、お酒のないキャバクラのようではないか?」
と感じた。
「正直、メイド喫茶に行くくらいだったら、キャバクラの方がいいのではないか?」
と感じたほどの雰囲気は、ちょっとあざといのではないかと思ったが、まんざらウソというわけではないように思えたのだ。
だが、実際に行ったメイドカフェはそんな雰囲気ではなかった。嫌がる桜井を、一度悪友が強引に連れてきたことがきっかけだった。
実は贔屓の女の子がいるようで、一人だと恥ずかしいから、ついてくるだけでいいから、一緒に来てほしいということで、半分、断り切れないのを知ってか、ほとんど、強引に連れてこられたのだ。
もっとも、そんな悪友がいたからこそ、ソープなどに一人で入ってみるという勇気が養われたのかも知れない。なんでも、食わず嫌いではいけないということを、その悪友が教えてくれたのだった。
実際に入ったメイドカフェは、本当に普通の喫茶店という雰囲気といってもよかった。テレビで見た時のような、あるでメルヘン王国の王子様にでもなったかのような錯覚も店だったが、確かにピンク色を貴重にした壁だったりはするが、そんなに派手というわけでもない。
壁がシックな色だったら、バーだといってもいいくらいの店の作りで、カウンターに7〜8人が座れるくらいで、テーブル席の2人がけが3つほどあると言った、
「土曜か日曜だったら、いっぱいで入れないのではないか?」
と思うようなこじんまりとしたところで、そもそも、土日でも、フロア担当が3人体制で、奥の厨房が一人ともんあると、これ以上客が入れば、パニックになってしまう。
メイド服に身を包んだ女の子は、ただの給仕だけではなく、お客さんの会話の相手であったりをしなければならない。まるでスナックの女の子をイメージしてくれればいいのではないだろうか。
客は、どうしても、ほとんどがヲタクと言ってもいいだろう。あまり近づきたくない雰囲気の人たちばかりだが、そもそも、こういうお店は、
「コンセプトカフェ」
の括りになる。
だから、店にはそれぞれのコンセプトがあり、実際にテレビで見たような、いかにも王国であるかのような、
「萌え萌えキュンキュン」
と言った店であったり、
「この店のように、客とメイドが会話を楽しむ雰囲気の店の大きく分けて二つになるのではないか」
というのだ。
前者の店は、正面にステージがあったりして、メイドが定期的な時間になったら、簡単なショーのようなものをやったりして、全体で盛り上がる感じの店で、後者の店として、全体で盛り上がるわけではなく、本当にスナックのように、客とスタッフがそれぞれ会話をし、自分に女の子がついていない時間は、店にあるマンガを見たり、スマホをいじっていたりという客も少なくはない。
ただ、これだけで、他に何もないのであれば、客は来ないだろう。だが、食事がおいしいとか、スイーツがおいしい。あるいは、紅茶の種類が、紅茶専門店顔負けなくらいに揃っているなどと言った。普通の喫茶店のコンセプトを生かした店も結構あったりする。
実際に、こういうメイド喫茶のような店は、10年から15年周期で、ブームが訪れるという。その間は、細かいマイナーチェンジを繰り返しながら、周期が巡ってくると、また昔のようなブームがやってくるというのだ。
最近でこそ、風俗に行くことが多くなったので、足が遠のいてしまったメイド喫茶であったが、
「たまにはいいかな?」
と思うようになった。
最後の方でよく言っていたメイドカフェは、メイドという総称のような形で言われているが、そのコンセプトは、ナースであった。
ナース服で出迎えてくれるところで、そこは、ヲタクも多かったが、それ以外には、芸術に造詣が深い人が多かったのだ。
趣味で、絵を描いているとか、マンガを描いているという人、さらには、ポエムなどを書いている人もいるということで、そういう人と話をするのが大好きな桜井は、一時期よくいっていた。
半年くらいは通っただろうか?
店には最近あまり行かなくなったが、そこで知り合った人と、LINEなどで話をすることがあり、情報をくれたりはしていた。
その頃から、桜井も絵を描いてみることにした。へたくそではあるが、描き上げると結構満足感があるものだった。
描き上げたものを、ネットに上げたりもしていた。無料投稿サイトの中には、小説が基本であるが、マンガであったり、絵画を上げられるところも、数は少ないがあったりする。それを思うと、自分が、その店に嵌った理由が後になってから分かったような気がしたのだ。
そういう意味で、芸術的なことに造詣が深かったのだが、この時ストリップというのを見るまでは、
「セクシーなお姉ちゃんのちょっとエッチな踊りを、おじさんたちがかぶり付きで、見ているだけのものだ」
としか思っていなかった。
だが、考えてみれば、おじさんたちは、毎日のように来ているという。
「毎回同じ踊りだったら、何度もその子の踊りを毎日のように見ているのだから、普通なら飽きるのではないだろうか?」
それなのに、毎ステージ、毎日、そして、連荘でやってくるのだ。よほどの暇人か、踊り子のファンを自認しているということであろうか?
いくら自認しているとはいえ、そんなに毎日のように来ていれば、普通なら嫌になってしかるべき、何か引き付けるものがあるということなのではないだろうか?
と感じていると、ダンスや、そのパフォーマンスには、絵画に通じるような芸術的なものが感じられた。