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二重人格の螺旋連鎖

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「それがなかなか、ただの興味本位でしか見ていない人には、見誤ったところが出てくるので、どうしても、勘違いされたり、またそこで、余計なウワサを増殖させてしまったりするんですよ。彼のウワサがたくさんあるというのは、こういうところから、尾ひれがついたものなのかも知れないですね。もちろん、本当のことから、いろいろなパターンでの発想が生まれる。まるで、パラレルワールドであるかのような、可能性の世界になってくると、ウワサなんて、無限に広がるものだといってもいいのではないでしょうか?」
 と彼女は言うのだった。
「なかなか、それも興味深いお話です」
 と、刑事は彼女の想像力に感服するのだった。
「ありがとう。ちなみに、そのストリッパーって誰だか分からないよね?」
 と言われて、
「確か、風俗街に入りかけたところにストリップ劇場があるって聞いたんだけど、そこの明美という女性らしいんだけど」
 と彼女はやけに詳しいことを知っているではないか。
「えっ、そこまで詳しいことを聞いてるの?」
 と聞かれた彼女は、
「ほら、これがさっきの私の疑念のゆえんになるんですよ。これだけウワサが多ければ、これだって、普通ならバラすわけはないので、本当のことではないって思うでしょう? だけど逆も真なりで、ウソの中に本当のことを隠したといえるんじゃないかしら? そういう意味で私は、信憑性があると思うの。そもそも、そんなウワサ、あの人に何か恨みでもなければ、いちいち調べたりはしないでしょうからね」
 というのだった。
 そこまで聞いて、さすがに、これ以上の情報を聞き出してしまうと、収拾がつかなくなると思ったので、一つ一つ潰していくしかない。逆にこの話が本当であれば、彼女の話や感覚から、何が真実なのか、パターンから見抜くことができるような気がした。そういう意味で、彼女との話はここでいったん終わっておいて、彼女の言っているストリップ劇場のある風俗街に行ってみることにした。
 刑事が行ってみると、実際にそこにはストリップ劇場があった。そして、
「明美」
 というダンサーもいるではないか。
 さすがにここまで当たってしまうと、話を聞いた彼女が、
「本当は何でも知っているのではないか?」
 という疑念と、
「いやいや、彼女こそ、発想や推理力が、他の人よりずば抜けていいのではないか?」
 と考えるようになった。
 刑事はさっそく、明美という女性に話を聞いてみることにした。
「さっそくですが、この写真の男性をご存じですか?」
 と聞くと、彼女は、別に驚いた様子も、雰囲気を変えることもなく、
「ええ、知っていますよ」
 というではないか。
 明らかに、無表情さは、彼女の真面目な性格を醸し出しているようで、その顔を見つめて、心の奥底を探ろうとすれば、他の人であれば、視線をそらそうとするが、彼女の場合はそんなことはしなかった。
 それよりも、却って、こっちを睨み返してくるように見え、顔をそらそうとするのだが、まるで金縛りにでも遭ったかのように、顔をそらすことも、目線をそらすこともできなくなってしまった。
 そうしていると、彼女の瞳の奥に映る自分の姿をじっと見ているのだが、その顔が、恐怖に怯えているように感じられ、
「刑事の自分が、恐怖を感じているのか?」
 と思うと、急に相手が怖くてどうしようもなくなった。
 だが、次の瞬間、彼女がニコっと微笑むと、こちらの金縛りは解けて、事なきを得た。
「このままでは窒息しそうだ」
 と思ったことで、
「もう、彼女の視線の中に自分の目を合わせるようなことはするまい」
 と感じたのだ。
 つまり、最初の一瞬で、完全に相手のペースにはまってしまい、どちらが尋問をしているのか分からないくらいの立場になってしまったのだ。それでも、刑事は必死に自分を取り戻しながら、彼女に話を聞こうとする。
「この方とはどういう関係だったんですか?」
「以前、お付き合いをしていました。半年くらいですかね、お付き合いをしたのは?」
「どうして別れることになったんですか?」
 と聞かれた彼女は一瞬、目を下に向けたが、
「今刑事さんも私と目を合わせようとしたでしょう? 彼もその時初めて私の目を見つめたんです。すると、急に呼吸困難になって、意識を失ったんです。そして目を覚ますと、急に私のことを怖いと言い出して、そのまま別れることになったんです」
 と聞いて、何と答えていいのか分からなかった。
 殺された吉野の気持ちも、今の状況から分からなくもない。もし、自分が吉野の立場であれば、本当に恐ろしくなって、別れを切り出すに違いない。しかも、
「ここで別れなければ、別れる機会はもうない」
 と思ってしまったのだろう。
 このまま付き合うのは、食べられるのを覚悟で、アリジゴクの中に入り込んだ虫が、必死にもがいて逃げようとしても、どうしようもない状態しか思い浮かんでこないだろう。
 だが、これは明美が悪いわけではない。なぜ明美にそんなところがあるのか分からないが、本来なら真面目で優しい明美と付き合うことにしたはずではないか。しかも、相手はストリッパーである。世間の目に晒されることになっても、彼女がいいと思ったくらいの女性なのだろう。
 それなのに、いきなりの別れは、彼女にとっても青天の霹靂で、どうしていいのか分からなかったことだろう。
「こういうどうしようもない出来事を、悲劇というんだろうな」
 と、刑事は感じたのだ。
「この人、吉野さんですよね? 彼がどうかしたんですか?」
 と聞かれた刑事が、
「吉野さんは、数日前にラブホテルで殺されました」
 というと、今度は無表情であるが、明らかに顔色は生気のないものに変わっていて、少なからずのショックを受けていることが見て取れた。
「そうだったんですね」
 と、かなりの意気消沈の様子を見ていると、
「この明美という女の子も、やはり普通の女の子なんだな」
 と感じたのだった。

                 大団円

「吉野さんは、どういう人だったんですか?」
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次