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二重人格の螺旋連鎖

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 今のようなきれいなホテルではない。当時は回転ベッドや、ウォーターベッドというようなものがあった時代だった。
 今は客に豪華と言っても、キレイな部屋が基本であり、ケバケバしいのは、好まれない。そんな時代の違いを、まるで歴史上のことのように思っているのも、不思議な感覚であった。
 さらに、当時は、ラブホテルというと、自殺のメッカだったりもする。女の子一人はお断りというのも、仕方のなかったことなのかも知れない。
 ただ、今から思えば、
「本当に死んでいった女の子たちは自殺だったのだろうか?」
 と考えたりもする。
 それだけ、時代の流れが速かったということか、当時のホテルに、防犯カメラなどが設置してあったかどうか、よく分からない。
 リアルにその頃が、二十代だったとしても、そこまでは分からないだろう。
 そもそも、防犯カメラなのだから、その場所を簡単に知られるようでは意味もないというもの。死角になる場所を探せば、それでいいのである。
 今回の事件において、まだ分からないことはたくさんあった。それでも、ハッキリと分かっていることとしては、身元である。すぐに分かることではあるが、犯人は決してそれをごまかそうという意思はまったくなかったのだ。
 とりあえず、吉野の会社を訪れてみることにした。彼の会社は、そんなに大きな会社ではなく、こじんまりとした事務所で、
「地元企業の営業所」
 として、小さな雑居ビルの一室を借りていたのだ。
 そこは、広さも中途半端で、20人の従業員だとすれば、結構きついくらいのところだった。
 営業所長に話を聞くことができるということで、忙しい中ではあったが、いろいろ教えてもらおうと思った。警察としては、当然の仕事であり、ある意味それに協力するのは、市民の義務といってもいいくらいであったが、結構この会社は露骨なところがあった。
「いいですよ」
 と言っておきながら、終始所長は、イライラしている。
「吉野さんというのは、どういう社員だったんですか?」
 と聞いてみると、
「彼が殺されたのって、ラブホテルだったんでしょう?」
 と質問には答えずに、そう呟いてから、ため息をついた。
 その様子は、いかにも、
「面倒くさい」
 という様子がありありと見て取れるのであった。
「ええ、そうですが? 何か心当たりがあるんですか?」
 と訊ねると、急にキレたかのように、
「そんなものあるわけないでしょう? 変なところに入り込んで、しかもそこで殺されるなんて、恥晒しもいいところだ」
 と、警察を前にして、ハッキリと言ってのけた。
 それを聞いた刑事は、
「なんだ、この会社は? 社員が一人死んでいるというのに、この非協力的な態度は」
 と、思い、こちらも露骨に睨みつけそうになったのを、何とか堪えた。
「吉野さんの仕事に対する態度はどうだったんです?」
 と、聞かれた所長は、
「私は知りませんよ。そんなことまで、社員たちが勝手にやっていることですからね」
 という。
「いやいや、勝手にって、あなた所長なんでしょう? それを管理するのがあなたの仕事なんじゃないんですか?」
 とさすがに、業を煮やした刑事はそういった。
 というのも、相手がこいつでは、何を聞いても同じだと思ったからだ。
 この後は、少しでも早く話を切り上げて、他の人に聞いてみようと思ったのだ。しかし、「それでも、どうせ他の人に聞こうとすると、露骨に文句をいうんだろうな?」
 と、刑事は考えた。
 だから、その日は、まず誰か女性に聞いてみようと思い、業務の終了するという時間まで待って、出てきたところを聞くことにした。
 さすがに、所長としても、会社を一歩出た社員に対し、拘束権があるわけではないので、何も言えないに違いない。
 定時になって最初に出てきた女の子を捕まえて、
「すみません、ちょっといいですか?」
 と警察手帳を提示すると、相手の子もさすがに身構えたが、理由は分かっているだけに、すぐに平静を取り戻した。
 近くの喫茶店に呼んで、話を聞くことにした。さすがに一人の相手に二人はあまりなので、一人一人、それぞれで聞くことにした。
 最初の女の子を喫茶店に連れていった刑事は、さすがに昼間の所長のあの態度には業を煮やしていたので、
「昼間の所長さんなんですが、いつもあんな感じの人なんですか?」
 とたまりかねて聞いてみた。
 ただ、この質問もこれからの質問とも絡んでくることだろうから、したのだった。
「そうですね、あの人はいつもイライラしてますね。人間が小さいんですよ。年功序列で所長になったというのに、所長になったとたんに威張り出した。正直にいうと、セクハラ、パワハラなんでもありの人ですね。今のところ逆らう人がいないから、天下のようになってますけど、そのうちに、天罰が下ると私は思っています」
 というのだった。
「本当は殺された吉野さんについて伺いたいのですが、どうにもあの所長を見ていると、どうも、いろいろなところでトラブルを起こしているのではないかと思って、聞いてみたんです。どうなんでしょうね?」
 と少し立ち入って聞いてみると、
「詳しくは分かりませんが、トラブルが絶えないということで有名だと言いますね。当たり前のことだと思うから、逆に気にもしませんけどね。こっちとしては、別にどうでもいいことで、こちらに、その飛び火が来なければいいんですよ。私も、きっとあの上司にしてこの部下ありなんでしょうね?」
 と言って彼女は笑った。
「この会社は一体どういった会社なんですか? 表向きというよりも、人間関係という意味で聞いているんですけども」
 というと、
「そうですね、一口に言って、皆が勝手にいろいろ考えて行動しているというところでしょうかね? そういう社員が多いというのも言えますが、何しろ所長があれでは、当然のことですよね。この会社は、本当は、出世コースというのは、いかに早く本社に行って、そこでキャリアを積むかということなんですよ。だから、営業所にずっといて、所長になるというのは、完全に出世街道から乗り遅れた人だということになります。だけど、さらにたちが悪いのは、所長はそんな会社の仕組みのことを知らないんです。たぶん、会社が期待してくれて所長になったとでも思っているんでしょうが、所長というのは、正直、外れくじと言ってもいいんですよ。2カ月に一度、本部で所長会議があるんですが、その時には、本部からコテンパンに言われるそうです。この所長だけでなく、どの所長さんもですね。その時はさすがにしばらくはおとなしいですが、立ち直ると、また前と同じことです」
 というではないか。
「じゃあ、部下を指導するというよりも。個人のイライラを社員にぶつけるというような最低な所長だといってもいいのかな?」
「ええ、どんどん言ってください。先ほど刑事さんだってわかりましたよね? あれがこの会社なんです」
 と、彼女も諦めているとはいえ、さすがに苛立ちが表に出てくるようだった。
「ところで、殺された吉野さんと所長は、よくもめていましたか?」
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次