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二重人格の螺旋連鎖

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 なぜなら、桜井にとって、最初の風俗が、ソープだったということもあり、
「風俗とは、ソープのようなものなんだ」
 という考えが頭の中にあるのだった。
 だから、デリヘルというもののシステムを理解しても、自分から利用してみようとは思わないのだ。
 大きく分けると、店舗型とデリヘルの一番の違いというのは、
「店舗型は、女の子が部屋を用意していて、客がその部屋に赴くというものであり、デリヘルの場合は、客が部屋を用意していて、そこに女の子が訪ねてくる」
 というものだ。
 他にはそれほど大きな違いはないだろう。もちろん、サービス内容は違うが、ここでの違いの中とは別格のものである。
 つまり、桜井の場合は、待っている女の子に迎えられるように女の子の部屋に帰ってくる。これこそ、癒しなのではないかと思うのだった。
 それまで考えたことのなかった、
「結婚生活とは、こんなものなのかも知れないな」
 と思うのだ。
 結婚生活を続けるのは、エネルギーがいるが、何と言っても新婚であれば、仕事から帰ってきて、
「あなた、お帰りなさい。ごはんにする? それともお風呂?」
 などということこそが新婚の醍醐味だと思い、それこそが、一番求めている、
「癒し」
 というものなのだろうと思うのだった。
 確かに、新婚の間はそれでいいだろう。楽しくて仕方のない毎日が過ごせる。だが、ピークは最初だけで、あとは徐々に右肩下がりとなって、癒しも興奮もなくなる。そのうちに、結婚生活というのがマンネリ化していき、子供ができると、奥さんは子供だけにかかりきりになるだろう。
 それは当たり前のことだと桜井は思う。しかし、癒しは興奮というのは、もうどこにもない。
 ちょっと何かあれば、奥さんは猜疑心や嫉妬が強くなったり、子育てによるヒステリーで、身動きが取れなくなる。
 そんな奥さんをコントロールできないのは、夫の責任と言われ、結婚したことを後悔するようになるだろう。そうなってしまってからでは遅いのだ。だから、
「煩わしいものには、最初から手を出さない」
 というような、ドライな考えを持っている人が、結構な割合で一定数いるような気がしているのだった。
 ラブホテルを一人で利用する男の中には、そういう感情から、ここを利用しているということを自分なりに理解し、納得したうえで、利用している人も多いような気がするのだった。

                 捜査経緯

 殺された男というのは、所持品などから、吉野という名前のサラリーマンで、年齢は32歳だということが分かった。
 殺されてから、何かを物色した跡がないことから、金銭を狙ってということではないのは分かった。もっとも、このような状況での殺人に、金銭を狙うという可能性は限りなく低い。それこそ歩いているところを狙う方が確実であるし、逃亡もすぐにできるだろう。
 何しろ、今回の犯罪は、密室で行われていて、
「いつ、どこから入って、いつ、どこに逃げたのだろう?」
 ということがまったく分からない。
 ただの金銭目的に、そこまで手の込んだことはしないだろう。動機という点では、怨恨などの方が、よほど確率としては高いように思えるのだ。
 この男の身元は、財布の中にあった免許書ですぐに分かった。さらに、レシートの山の奥に、ラブホのサービス券がたくさん出てきた。
 そもそも、この男、整理整頓に関してかなり無頓着なのだろう。レシートであっても、サービス券、あるいは、会員特典のスタンプカードなど、無造作に、財布の中に突っ込まれていた。
 それによって分かったことは、
「この吉野という男は、ラブホの常連だ」
 ということであった。
 しかも、サービス券は一軒のラブホだけではなく、いくつものラブホがあった。それを見て最初に刑事が考えたのは、
「デリヘルの常習者なのではないか?」
 という思いであった。
 刑事としても、昼間にラブホに一人で入る客のほとんどが、デリヘルの利用客ではないかということは分かっているつもりである。
 だが、その後でラブホの人間に聞くと、殺された男が利用していた時間帯。あの部屋に入る、
「連れ」
 と呼ばれる女の子が訪ねてきたわけではないという。
「確かに入室時は、一人だったということは分かっていますので、デリヘルを呼ばれたということはないと思います」
 ということであった。
 ラブホの人間も、どういう客が利用するかというパターンは分かっていたので、
「お金を使わずに、時間いっぱい、ここで過ごすという人も結構いるので、そういう人の一人ではないでしょうか?」
 というのだった。
 それを聞いて刑事は、思わずため息をついた。
「何とも虚しいものだ。本当であれば、女性と連れ立ってくるのが本来の目的のはずなのに、ホテルに風俗嬢を呼んだり、無駄遣いをしないという目的で、一人昼間の暇な時間をここで過ごすという人のことを考えると、嘆かわしい気分になってしまう自分がいるんですよね」
 と、刑事は言った。
 言ったと同時に、自分がまるで、昭和のおじさんのような、
「その時の若者と、自分たちが若者の時代とを比べて、嘆かわしい気分になってしまう」
 そんな思いを、まさかラブホで思うことになるとは?
 と、刑事は感じたのだ。
「そんな長い時間、一体何をしているというのだろう?」
 と刑事が呟くと、
「それは個人の自由ですからね。ベッドは広いし、お風呂も広い。テレビもアダルトビデオも映る範囲で見放題ですからね。ゲームだってあるし、これで一日数千円で遊べるのであれば、嬉しいですよね。お腹が減れば、ルームサービスもあるので、ラブホと思うから虚しいのであって、ビジネスホテルだと思えば、別に気にすることはないんじゃないでしょうか? 今の若い人というのは、そういうものではないかと、私どもは思っているんですよ」
 と、ホテルの人間はいうのだった。
「これは時代の流れがそうさせたわけではなく、以前からこういう部屋があったらいいという若者はいたと思う。それをラブホに求めたのは、ラブホがデリヘルなどの出現で多目的に使える施設だということが分かったからなのかも知れませんね」
 とでも言いたいのだろう。
 どちらにしても、ホテル側はそれで儲かるのであれば、それに越したことはない。今の時代は、昭和の一時期に比べて、ラブホテルのイメージも変わったものだ。
 昔は、ラブホテルというと、イメージとしては、車で連れ込む、
「モーテル」
 と呼ばれるものが多かった。
 だからなのか、考えてみれば、高速道路のインター近くには、必ずと言っていいほどのラブホテルが点在しているではないか。だから、車を走らせていて、ラブホテルのネオンサインや看板が増えてくると、
「インターチェンジが近いんだな」
 と思ったものだった。
 さらにラブホテルというと、特に田舎の峠の途中にあるようなモーテルでは、犯罪関係の臭いがした。昭和の刑事ドラマなどのDVDなどを借りてみたり、有料放送のドラマなどで、昔の刑事ものをやっていたりするのでそれを見ると、
「連れ込んだ女の子に麻薬を注射したりするシーン」
 を見たりした。
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次