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二重人格の螺旋連鎖

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 さらに、食事だって、ルームサービスがある。結構おいしいものがあったりもする。下手をすると、そのあたりのビジネスホテルよりも、おいしかったりするではないか。それを思うと、夜中作業の出張族にとって。ラブホというのは、実にありがたいものである。
 今回のこの人はどうだったのだろう? 入ってくる時にも、荷物はほとんどなかったように見えた。
 部屋に残っている荷物もちょっとだけだ。ということは、出張族ではないということなのか?
 出張ではないとすれば、ただの休憩というのはありなのだろうか?
 昼間暇で、どこに行っても金を使うだけ。
 だったら、ラブホのサービスタイムにいて、眠い時は寝て、お風呂にも入り放題。あだルドビデオだって見放題。
 しかも、食料を持ち込んだっていいのだから、ラブホで、一日ゆっくりするという人も中にはいるかも知れない。結構、いろいろ楽しめるものもあったりする。
 何よりも、お金を使わなくてもいい。
 大体5000円もあれば、普通に一日遊べるではないか。どこかに遊びに行って、食事をしたり、何かを見たりしていると、それくらいのお金は普通に使う。彼女でもいれば、そんな値段では足りるはずもない。何しろ、二人分を払わなければいけないからだ。
 しかも、毎回同じところなどというと、嫌われてしまう。嫌われないようにしようと気も遣い、お金も使うことになるのであれば、彼女がいても、却って疲れるのであれば、本末転倒だというものだ。
 だからこそ、彼女を作らない人も多い、桜井のように、
「癒しを求めるのであれば、ソープでいい」
 と思うようになるのだろう。
 ソープだと煩わしいことはない。
 下手に相手を好きになってしまうと、自分が苦しいのだが、そこは割り切ってしまうしかない。
 そういう意味で、いつも同じ人に相手にしてもらうよりも、毎回違う人の方が新鮮だというものだ。
 ソープなどの風俗では、一度遊んだ相手を、もう一度指名したりすると、
「本指名」
 という言葉で呼ばれる。
 普通であれば、リピーターなのだから、リピーターを大切にしないといけないという観点から、本指名ほど割引がついてもいいのだろうが、ほとんどの店で、
「本指名不可」
 と、割引サービスには書いてあったりする。
 一体、どういうことなのだろうか?
 普通のサービス業であれば、新規開拓も確かに大切であるが、それ以上に、リピーターの方が確実なのだから、そちらを大切にするのが普通ではないかと思うのだが、なぜ、リピーターにこれほど冷たいのか、理解できない。
 ただ、一つ思い浮かぶこととして、
「本指名を女の子が受けた場合、女の子には、リピート代を支払わなければいけない仕組みになっている」
 ということであった。
 つまりは、リピーターの獲得は、それぞれの女の子の仕事であり、それ以外は、スタッフの仕事だということだ。スタッフは新規獲得のため、ネットでの公式サイトを充実させたり、サービス価格を設けて、客に来てもらおうという努力をするということだ。
 そして来てもらった客を逃がさない努力は女の子がするということになるのだろうが、ただでさえ、安くない価格設定で、割引がないとなると、さすがに安い方に走るのは、騒然の心理ではないだろうか。
 だから、桜井のように、指名をせずに行く客も多いのだ。
「今日は誰に当たるんだろう?」
 というのもドキドキで、同じ相手からもう一度相手をしてもらうのとは違った楽しみがある。
 相手は、自分にリピーターになってもらおうとして必死になるのは、当たり前のことである。リピーターになってくれれば、リピート代が出るのだから。
 しかも、店によっては、
「本指名ランキング」
 なるものを発表しているところもあり、そこに乗ると、指名客も増えるというものだ。
 これは、女の子のテンションを爆上げするものとなるだろう。
 要するに、初めての相手でも、リピートした相手でも、
「基本的には女の子のサービスは同じではないか?」
 という考え方である。
「癒しを求めるのに、彼女のような煩わしいものはいらない」
 と思っている桜井のような人間には、基本的に、
「本指名」
 というのは、似合わないと思っていた。
 だが、気に入った女の子がいて、
「この子であれば、彼女にしても、煩わしいことはないはずだ。絶えず俺のことを考えてくれている」
 という、気持ちになったことがあった。
 その時は、初めて、
「本指名」
 というものをしてみた。
「わぁ、嬉しい。また来てくれたんだぁ」
 と言って、抱き着いてくれる。
 桜井は、
「俺のことを覚えてくれていたんだ」
 と思い、彼女にそういうと、
「ええ、もちろんですよ」
 と言って、以前遭った時にどんな話をしたのかということまで、覚えていてくれたのだ。
 さすがに、サービス業というのは、こうでなければいけないのだろうが、それ以上に、覚えてくれていたことが嬉しかった。
 だが、もっと言えば、受付の際に、
「本指名」
 であることが分かっているので、そのことを教えてもらい、そして前にいつ来たのかも情報としてもらえば、女の子の方で、いつ、誰が来て、どんな会話をしたのかというメモでも取っていれば、そのくらいのことは容易に分かるだろう。
 だが、もしそうだったとしても、彼女はそれだけ、この仕事に対して一生懸命だということなのだろう。だからこそ、本指名した時に喜んでくれたのも、本心からだと思うと、こちらも彼女を応援したくなる。
「本指名というのも悪くないな」
 と思ったのだが、桜井にとっての本指名は、その時が最初で最後だったのだ。
 今後、
「もう一度会ってみたいな」
 と思う子が現れて、本指名するかも知れない。
 それは、今のところ何とも言えないと思っている桜井だったが、やはり、店側の本指名に対しての考え方には、疑問符しかないのだった。
 しかも、その考え方はこの店だけではなく、他の店の料金体系や、イベントなどのページを見ても、やはり、
「本指名不可」
 と書かれている。
 それを思うと、この業界というのは、他とは違う特殊なものなのか、それとも単純に、頭の悪い人が昔に作った制度が伝統として受け継がれてきたのかということであろう。
 しかし、そのことについて、ネットではおかしいという人も若干名いるが、そのことを、声を大にして叫んでいるのをまったく聞くことはない。
「こんなものなんだ」
 ということで、客側は皆諦めているのだろう。
 あるいは、
「そっちがその気なら、誰が本指名などするものか」
 と思うだろう。
 しょせんは疑似恋愛であり、その時だけの癒しを求め、その余韻で、しばらく酔うことができればそれでいいのだった。
 これはデリヘルにおいても、同じことのようだ。
 風俗といえば、デリヘル専門の人もいるようだが、桜井のように、店舗型人間には分からない。
 確かに、本番という意味でいえば、店舗型しかないが、それ以前に、
「デリヘルのどこがいいんだ?」
 という、単純な思いであった。
 ただ、この件に関しては、
「最初に見たものを親と思う」
 という、ツバメなどの動物の本能を思い浮かべてしまう。
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次