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二重人格の螺旋連鎖

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 そういう文明の発展とともに、出てくる社会問題というのは、いつの時代にもはらんでいるのだ。
「重工業の発達と、公害問題」
「ネットの発達と、個人情報、コンプライアンスの問題」
「バブル経済と、その崩壊後の世界」
 他にももろ刃の剣がたくさんあることだろう。
 桜井が、特に最近、昭和の古き良き時代を気にするようになったのは、歴史に学びたいという気持ちがあるのかも知れないと思うのだった。
 ストリップ嬢の明美を見ていると、あまり楽しそうにしている雰囲気はない。というのは、他のダンサーは、本心からというよりも、妖艶に笑うのである。それが、ぎこちなく感じないのは、それだけ、彼女たちが、一生懸命に踊っているからだと思った。
 踊りに対しての自分なりのこだわりを感じるのだった。それは、彼女たちがどうしてダンサーになったのかにもよるのだろうと思うが、元々、どこかの劇団に所属していて、そこで挫折してしまい、ストリップに流れたという人もいるかも知れない。
 いや、それよりも、ストリップに対して何か感じるものがあって、自らこちらに移籍してきた人がいるとも思いたい。
 だから、仕事とはいえ、ぎこちなくない雰囲気で、妖艶な笑顔を見せることができるのだと感じるのだ。
 明美という嬢についている男性は、おじさんというよりも若い人の方が多い気がした。それに若い男性は、おじさんたちのように、かぶり付きで見ていることもないし、いやらしい目で見ているわけではない。できるだけ無表情になっているのだが、だから、
「明美が踊りの最中に笑顔を見せないのではないか?」
 と思うのだった。
 やはり、あの妖艶なスポットライトを浴びて、隠微な踊りを見せている最中に、微笑みを浮かべないというのは、気持ち悪いといってもいいだろう。
 明美の踊りをずっと見ていたが、結局最後まで、彼女は無表情だった。彼女に対する声援も、前のステージの女性に比べて、まばらなものしかなかった。明らかに、
「この踊り、見るんじゃなかった」
 と思われても仕方がないレベルである。
 そこまで考えるのは、彼女たちが、
「客を楽しませる商売を営んでいる」
 ということが前提だからだ。
 笑顔のない、見せるショーというのも、中にはあるだろう。だが、ステージがあって、そこでパフォーマンスを行うものであれば、必ず、最初と最後くらいは、見てくれた客に対して笑顔を向けるのが当たり前だといえるのではないか?
 それができないと、エンターテイメントで飯を食っている人間とすれば、最悪ではないか。
 もっとも、笑顔を見せてはいけないパフォーマーもあるかも知れないが、ストリップは、
「笑顔が命だ」
 といってもいいかも知れない。
 桜井は、自分が特に最近、何をやっても歯車が噛み合っていないということを自覚しているだけに、癒しを求めて、風俗街にいるのだということをいつも痛感していた。
 癒しというのは、笑顔一つでも違ってくる。ただ、変に媚ってしまうと、相手をその気にさせてしまい、自分の首を絞めることになるので、難しいところである。
「ひょっとして、明美という女性は、過去にそんな思いをしたことがあったのではないか?」
 と感じた。
 もしそうであれば、明美や、そのまわりのファンなのか、取り巻きなのか、まさか見張りでもあるまいが、そんな連中が無表情なのも分かる気がした。
 要するに、明美がストリッパーになった理由は、あきらかに他の人たちとは違い、今までの歴代のダンサーの中でもさらに特殊な理由があったのかも知れない。
 そんな明美のダンスを最後まで見てしまったことを、
「見るんじゃなかった」
 と言って後悔し掛けた桜井だったが、最後の瞬間に、その思いを一気に壊されてしまった。
 もう少しで明美から視線をそらそうとした、その時だった。
 明美は、キリっとした顔つきで、桜井を見つめたかと思うと、急にニッコリと微笑んだのだった。
 一瞬だったが、ビックリして明美の顔から眼が離せないでいると、その後は、今まで通りの無表情だったのだ。
 明美に集中していたので、桜井は分からなかったが、明美に集中していた取り巻きの数人は、明美のその顔を見逃すわけはない。桜井の方に一気に視線が集中したが、桜井の方では、そんなことが分かるわけもない。完全に気持ちは明美に奪われていた。
 反射的ではあったが、顔が赤くなったのを感じた。明らかなテレである。さっきまで、純粋な感じだとは思っていたが、その無表情さがそう思わせているだけなんだと思っていた自分が、まったく別人になってしまったかのようである。
 もし、この状況を桜井が、他人として、まわりから見ていたら、どんな感覚になるだろうか?
 何か危険な臭いを感じるのではないだろうか? それは、やはり、
「歴史に学ぶ」
 という意味で、きっと、12世紀後半の平安京を思い出すのではないだろうか。
 当時の平安京は、藤原氏による摂関政治の力が衰えていて、天皇の皇位継承をめぐって始まった院政というものと、藤原氏の内部争い、さらに、それに武士が絡むことで起こった、
「保元平治の乱」
 において、最終的に残った、平清盛が率いる平家が台頭していた。
 そして、清盛は次第に公家化していくのだが、その時、平時忠という人物が、
「平家にあらずんば人にあらず」
 と言ったという話が伝わっているが、本来の意味とすれば、少し違う。
 しかし、時忠の考え方として、京都の町で、
「禿(かむろ)」
 という集団を組織し、京の街に放ったという。
 彼らの正体は、身寄りのない子供を集めてきて、食べ物による洗脳が行われたのか、髪をおかっぱにし、赤い服を着ていた。
 役目というのは、
「平家に対して、よからぬことを口にするものを見つけ、それを密告することで、彼らには、厳重な処罰がある」
 ということであった。
 まったくの無表情で、人が惨殺させるのを平気な顔で見ているというような子供の集団である。
 だから、京で平家に逆らったり、クーデターを計画している者は、密告されて、惨殺されるのが、普通だったようだ。
 その密告者が、子供というのが衝撃であるが、子供の前なら安心して、秘密を漏らすとでも考えたのか、そのわりに、衣装も髪型も一緒なのだから、彼らが禿であるということはすぐに分かりそうなものだ。
 当時の京では、平家の天下であった。しかし、初めての武家による政権といってもいいので、清盛は自分の死後、平家一門がどうなるのか憂いていた。
 特に、後白河法皇の存在が恐ろしく、とりあえずは、公家化することと、皇室とのかかわりを深くしてさえいれば、平家は安泰だと考えたのだろう。
 しかし、実際には後白河法皇のやり方の冷酷さには、さすがの清盛も一目置いていたことだろう。
 清盛の子供の重盛が亡くなった時、その所領をすぐに没収したのが、後白河だったからだ。
 昭和の香りがするストリップ劇場と、過去の歴史で勉強した約800年前の平安京を比較するというのも何か不思議な気がするが、それだけ、桜井は、歴史に造詣が深いということであろう。
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次