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二重人格の螺旋連鎖

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 だが、入った以上、せっかくだから、新鮮さが得られることを期待しようと思うのだった。
 目の前の公演が終わって、次の準備の間に、ライトが明るくなった。といっても、そもそもの照明を暗めにしてあるのだから、公演の最中の、怪しげなライトから比べれば、少し明るいという程度だろうか?
 しかし、目がだんだん慣れてくると、やはり、あまり明るいものではない。客席を見渡すと、半分くらいの客が帰ったのか、それとも、ロビーで休憩をしているのか、中は清掃員の人が、ごみを拾っていた。この光景も、いかにも昭和を思わせた。
 先ほどまで、かぶり付きで見ていたおじさんたちは、いつの間にかいなくなっていて、別の集団が、前に陣取っている。
「違う女優の演技になって、その女優のファンの人たちだな」
 と思った。
 帽子をかぶっていて、汚いジャンパーを着ている。手には新聞が握られていて、耳には赤鉛筆が刺さっている。
 どうやら、ストリップを見る前に、競馬か何かに集中していたのだろう。
 そうやって考えると、
「ここに来るおじさんたちというのは、暇だから来ているのだろうな」
 と思っていたが、実は、結構忙しいのかも知れない。
 場所はいつも決まっているのか、実にスムーズに迷うことなく座っていた。女優もファンがいつも座る場所が決まっていれば、
「どの人にはどういう体勢を取れば、サービスになる」
 ということも分かっているのだろう。
 毎回同じ踊りなのか、それとも何度かに一度新たな踊りに更新されるのか、そもそも、おじさんたちが、踊りの部分を気にしているというのか、とにかく、分からないことばかりであった。
 女優が出てくるのが早いか、ナレーションが早いか、いや、ファンの口笛が早いのか、桜井にはすべてが同じに見えた。女優が登場し、いよいよ彼女の公演が始まった。桜井にとっては、ここからがスタートだったのだ。
 音楽にはどうしても馴染めない。いかにも、エッチなダンスという感じの音楽で、女性はカツラをかぶっているのか、いかにも、ケバケバしかった。
 最初は、まるでポールダンスでも踊っているかのようだったが、やはり昭和の世界には似合わないのか、次第にそれが妖艶に見えてくる。だが、踊り自体のは、嫌悪感を感じあい。
 どちらかというと、踊りが芸術的に感じられた。
 だが、その踊りも、次第にマンネリ化しているように感じた。飽きてきたといってもいいだろう。
 そう思ったのが相手に分かったのか、彼女はパターンを変えた。
 それまでは、全員に向かってまわるように踊っていたが、例の突き出した舞台の正面にやってくると、お尻をついて座ったのだ。
 すでに、いつの間にか上半身は何もつけていなかった。最初は確かに、ひらひらのついた黄金のブラをしていたはずなのに、いつ外したのか、今はしていないのだ。
 それを見た時、
「これはすごい」
 と思った。
 まるで、マジックのようではないか。
 きっと、見ている方が無意識に彼女の踊りに誘導されるかのように、ブラを外す瞬間、別の方を見せるというテクニックを使ったのだろう。
 ずっと、エッチな踊りだと思っていたが、その見解を変えなければいけないようだったのだ。
 ダンサーが、かぶり付きの客の前に座ると、待ってましたとばかりに、かぶり付きになる。
 まだ、下着をつけたままなので、ご開帳というわけではないが、客の横顔を見ていると、その視線は、股間に向いているわけではない。彼女の顔を見上げていた。
「なるほど、タイミングは彼女のアイコンタクトにあるのだろう」
 と、桜井は感じると、彼女の表情よりも、ファンのおじさんの視線に目が行ってしまった。
 おじさんの視線がそれまで見上げていたものが、真正面の神秘な部分に向けられた時、
「ご開帳」
 されていたのだ。
 もちろん、まわりの客は口笛を吹いたり、拍手したりと、いかにも、
「ブラボー」
 と叫んでいるかのようだった。
 ダンサーの女の子は、目の前のおじさんの帽子を奪い取り、自分の股間を隠したり見せたりしていた。
 帽子を取られたおじさんは、最初から分かっていたくせに、わざとらしく慌てて見せる。そんな様子を見ていると、
「このおじさん自体が、この店のスタッフなんじゃないか?」
 と思わせるほどであった。
 だが、だからどうだというのだ。スタッフだろうがどうだろうが、もうどうでもいいと思えてきた。そのあたりが、以前見た成人映画の女優のわざとらしさに昭和を感じたあの時と、そんなに変わらない気がしたのだ。
 またしても、昭和を感じながらおじさんとダンサーを見ていると、その息がぴったりあっているようで、それだけに、
「このおじさんは、彼女の良さを引き出すことが最大限にできる人なんだ」
 と感じたのだ。
 そう思うと、彼女とおじさんの間に、いやらしい関係はないのではないか?
 と思えてきた。
 まるで、女優とマネージャーのような関係? あるいは、女優と、荷物持ち? 昭和であれば、そんな関係もありなのかも知れないと思った。
 彼女の名前は、
「明美」
 というのだそうだ。
 歓声の中に、名前を呼んでいるファンがいたから分かったのだった。
 ひょっとすると、彼女はここがフランチャイズではなく、全国を行脚しているのかも知れないと思うと、おじさんは、全国どこでも、彼女がいるところに出没しているのではないかと思った。
 彼女のダンスに魅了されたのは確かであったが、そう思えば思うほど、おじさんが気になってきた。
「何がきっかけで、今のあの場所に陣取るようになったんだろうな?」
 と考えた。
 そう思うと、楽屋にいる彼女と、そこを訊ねてくるおじさんの姿が見えた気がした。それが、舞台の打ち合わせなのか、それとも、小間使いとしての仕事なのか、どちらもありだと思うと、不思議な感覚に包まれるのだった。
 おじさんの中には、彼女を、まるで自分の娘のように慕って見ている人がいる。それ以外の人たちは、女の身体を舐めまわすように見ているのを思うと、その心境は幾ばくかのものかと思えば、やり切れない気持ちになることだろう。
 だが、女の子は必死になって踊っている。まわりを見る余裕がないわけではない。自分に与えられた仕事を一生懸命にやっているのか、ストリッパーという仕事に誇りのようなものを持っているのか、どちらにしても、この仕事に嫌悪感があったり、まわりの客のいやらしい目に耐えられなくなると、いかに仕事だとはいえ、次第に病んできて、舞台に立てなくなるかも知れない。
 それだけ図太い神経を持ち合わせているということだろうか。それとも、まわりを見る目が、次第に養われてきたのかということである。
 一生懸命に踊っている彼女は、しっかりと前を向いているように見えるので、決して嫌がっているかのようには見えなかった。
「これが私の天職だ」
 と思っているかどうかまでは、その表情から察することはできない。
 ソープのようなところで働いている女の子は、もちろん、人それぞれに事情があるのだろうが、相手をしてもらった時は、完全に恋人気分である。
 客の思い込みなのかも知れないが、彼女を作って、煩わしい思いをするよりも、言い方は露骨だが、
作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次