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耽美主義の挑戦

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「そうでしょうか? じゃあ、もし、今度はそんな助け合いだけしかない暖かな世の中なんだと思っていると、実際に自分たちが災害に遭うと、皆が助けてくれるものだと思ってしまうでしょう? でも、災害というのはそんな甘いものではない。すべての人に平等であるなどありえないんですよ。そのことをちゃんと報道しないと、下手をすれば、人間不信が渦巻いてしまう。放送局によっては、そういうところまで放送するところもあるようですが、結局は権力に押し潰されてしまう。そうなった時、誰が正確な報道をして、本当の助けをするんですか? それを私や舞鶴さんは考えていたんです。つまり、人間は、孤独の中でも生きていかなければいけない。その強さを前提に持つことを考えているのが、発展形における、個人至上主義というものなんですよ」
「うーん、なるほど」
 と、深沢刑事は納得しているようだった。
「孤独と、孤立というのは違うんですよ。孤独というのは、孤立していても、孤立していなくても、ありうることなんです。孤独というものが、精神的なものだからですね。集団の中にいても、孤独な人はたくさんいます。それは、集団の中にいれば、孤独なんて味わうことはないと思っているからなんですよ。集団というのは、たくさんの主義主張があったりします。自分たちと違う思想を持った人がいれば、自分たちの方がメジャーであれば、相手を迫害したりするくらいのことはやってのけるでしょうね。それが、今まで教育で受けてきたこと、学校や会社で身をもって経験してきた。多数決という発想なんですよ、それが民主主義の考え方であり、その場合の少数派と呼ばれる人たちの考え方は、まったく無視されることになる。それだけならいいのだが、少数派に属していた人たちは、反対派ということになり、下手をすると、悪というレッテルを貼られてしまうということになるんじゃないですか? そうなってしまうと、集団の中に、善悪というものが存在することになり、そこで、内紛のようなものが起こってきたり、悪と名指しされた、少数派を、正義の名のもとに、迫害したりするんじゃないですか? だからこそ、民主主義、資本主義と言われる国では、争いが絶えない。だからと言って社会主義がいいとは言いません。彼らは、粛清によっての排除で、善悪が表に出てこないからですね。だから、民主主義がいいんだというのであれば、それは、ただの消去法として残ったものが、民主主義だったというだけのことでしかないですからね。まるで、今の政府と同じじゃないですか」
 と、次第に話が難しい方に流れていくのであった。
「なるほど、個人主義というのは、人間、一人一人が強くなるということが大切で、大前提だということですね? その状態での助け合いであれば、より強固な意識が生まれてきますもんね。足場を固めていない状態で、助け合いというのと、最初に足場を固めたうえで助け合いというのであれば、同じ助け合いと言っても、重みが違うことになりますよね? 土台がしっかりしていれば、いくら上がグラグラしても、何とかなる。もし安定していなければ、数人を巻き込んで表にはじき飛ばされそうになれば、全体を助けるために、その数人を犠牲にしないといけないということになってしまう。最初から足場がしっかりしていれば、そもそも、そんなことにはならないということですよね?」
「そういうことです。何か危機がくるかも知れないと分かっているのに、できるだけの装備をしておけるだけ、個人個人がしっかりしているのと、何かが起これば慌てふためいて、人が助けてくれるのを待っているしかないという、そんな他力本願な状態と、どちらが、いいとお考えですか? もし、何の準備もしていなかったから、簡単に滅んでしまった団体があったとすれば、まわりはどう感じます? ああ、可哀そうだということになりますか? 違いますよね、何の準備もしていなかったんだから、自分たちが悪いんだということを言いますよね。他人事のように簡単に見て、それを他人事で済ませるから、その場に自分たちが陥った時、何もできずに、他力本願でしかない。前は無視されたのに、自分が当事者になったからと言って、助けを求めても誰が助けてくれますか。基本的に、最終的には、個人の生命力がものをいうんですよ。何かあっても、政府が助けてくれないことは、皆もう分かり切っていることじゃないですか。以前、世界的な伝染病が流行って、日本も医療崩壊した時、政府の伝染病対策大臣がなんと言ったか覚えていますか?」
「というと?」
「あの時に、政府の大臣はこう言ったんですよ。今は最大級の災害が襲ってきているのと同じなので、国民の皆さん、自分の身は自分で守ってくださいって言ったんです。あの時、世間はどうでしか? 国が緊急事態宣言などというものを出して、戒厳令が存在しない中でロックダウンができないが、最高級の、私権の自由を奪っておいて、世間では自殺者も増えたような政策をしている最中にですよ。国が、国民に自分の身は自分で守ってくださいなどという、とんでもないことを言ったんです。完全に、政府としての、仕事を放棄したようなものですよ」
 という。
「確かに、あの時は我々も怒りに震えましたね。あれは絶対に口にしてはいけないことでした。言っていることと、やっていることが完全に矛盾していましたからね。国民の命を守るのが政府の役目なのに、それを言ってしまうと、完全に突き放しているのと同じですからね。だけど、もっとびっくりしたのは、あの時は確かに医療崩壊などがあって、それどころではなかったのかも知れませんが、マスゴミも大して大きく報道をしていませんでしたからね。それは、本当に不思議でした」
 と刑事がいうと、
「それは、政府が情報統制をしたんじゃないですか? やつらにとっての最大の優先順位は、政権の維持ですからね、政権が維持できないのなら、国民の命がどうなろうと、関係ないというのが、本音なんじゃないですか?」
 と、海江田はいうのだった。
「本当に有事だったということですね、マスゴミや政府が情報統制を行うというのは、亡国への末期だということになるでしょうね。かつての、あの大東亜戦争の時代のようにですね」
 と、深沢刑事も持論を展開していた。
 だが、さすがに、これ以上、海江田氏の論調に乗ってしまうと、自分たちを見失ってしまう。聞き取りをしていたはずなのに、いつの間にか思想の話に追い込まれてしまったということであろう。
「これは、どうもすみません、私も少し興奮してしまって、余計なことを言い過ぎたかも知れませんね」
 と、深沢刑事の気持ちが分かったのか、海江田の方から、歩み寄ってくれたようだった。
「ああ、いえ、私どもも少し前のめりになってしまいましたね。まあ、今後どこかで、個人的に、このようなお話ができると私としては嬉しいように思いますが、とりあえず、我々の捜査にご協力ください」
 と深沢刑事が言った。
作品名:耽美主義の挑戦 作家名:森本晃次