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耽美主義の挑戦

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 その次に、優先するのが、自分の中にある性的欲求を表に吐き出して、それを個性だとまわりに思わせることである。
 だから、自分を必要以上に大人っぽく見せようとするのだし、実際に大人っぽく見える。
 それは、自分の中の感情が形になって現れているからで、そこまでリアルな感情が自分の中で形となって現れるのは、個性派である感情を、自分で分かっていて、隠すことができないからではないだろうか。
 そんな感情が渦巻く中で、敦子はどうやら何かの感情に気づいたのではないかと、深沢刑事は感じたのだ。
 ここまでまるで妄想を抱いているかのように感じているのだが、初めて会った人間にそこまで思わせるというのは、それだけ、思いが強く、表に発散させる感情が、湧き出ているからなのではないだろうか。
 それというのが、
「個性という感情に、個人主義が混ざることで、覚醒してしまって、内部だけで収めておくことができないのだろう。
 それが、敦子という女性の特徴で、その思いがどこから来ているのか、まわりにはたぶん皆想像がついているのだろうが、分からないのは自分だけではないかと思うことで、普段はバランスが取れているのではないかと思うのだった。
 敦子には分からないその感情。それが嫉妬ではないだろうか。今の段階では、誰に対してのどういう嫉妬なのかということは分からない。
 嫉妬というのは、いろいろ種類もあるし、パターンだってあるだろう。
 しかし、そのパターンは大きく分けると、ほぼ二つになる。
 一つは、才能というものであり、もう一つは、性的感情を含んだ、恋愛感情ではないだろうか?
「恋愛感情というものは、その中に性的感情を含んでいるのか、それとも、性的感情の中に恋愛感情を含んでいるのか、時として分からない場合がある」
 というのは、そのどちらのパターンもあり得るからである。
 それを思うと、彼女が悩んでいるとすれば、恋愛感情に性的感情が織り交ざってしまっていることに、自己嫌悪のようなものを感じていて、あくまでも、自分が性的感情などを抱く人間ではないと、自分で納得したいというところから悩んでいるのではないかと思えた。
 そもそも、恋愛感情の相手が誰なのか分からないが、先に性的興奮を覚えたから、相手を好きになるのか、それとも、好きになった相手に対して、初めて性的興奮を覚えてしまったことで、自分がまるで変態にでもなったかのように思うのであろう。前者であれば、それは自分が最初から変質者であったということであれば、
「遺伝からきているのかも?」
 という言い訳をすることができるが、後者であれば、急に性的感情を抱いたことで、
「私は、今まで正常だったのに、急に変態になってしまったのは、何かの病気なのだろうか?」
 と考えてしまうに違いない。
「病気であれば、仕方がない」
 と思えたのだとすれば、それが言い訳となって納得できるのだろうが、融通が利かないほどに真面目であれば、変態になった理由を自分で納得させることができなくなるのだ。
「一体、君は誰に嫉妬心を抱いているんだい?」
 と聞かれて、一瞬口をつぐんだが、自分から話すと言ったのだと思った敦子は、しっかりと答えた。
「さくら子さんにです。たぶん、さくら子さんは、舞鶴さんとお付き合いをしているんじゃないかと思うんです。もし、これが以前の私だったら、遠慮して譲っていたかも知れないんですが、今回はそれができなかったんです、たぶん、一番の理由に、個性至上主義の舞鶴さんと、耽美主義を掲げている二人が、普段は喧嘩しているように見えて、実際に付き合っていると知ったからです」
 というではないか。
「じゃあ、二人が表向きには喧嘩をして、世間を欺いていると、君は思ったんだね?」
 というと、
「ええ、そうです」
「じゃあ、二人がただ仲良かっただけなら、自分は身を引いたと?」
「ええ、今までの自分だったら、そうだったんです。私は好きになった人にもし、彼女がいたのだということが分かれば、諦めてきたんですよ。だって、もし、付き合うようになったとしても、ずっと私のことを愛してくれるという保証がないからですね」
「でも、それは誰にでも言えることではないんですか?」
「ええ、そうなんですよ。でも、それだけに、少しでも怪しい素振りが見えているわけなので、かなり裏切られる信憑性は高いわけではないですか。つまり、分かっていたことでダメになったとすると、後悔をするのは、分かっていた場合じゃないですか? そうなると、もう次にはいけないんですよ。自分が信じられなくなってですね。それが私には一番怖いんですよね」
 というではないか。
 それを聞いた深沢は、
「なかなか、奥深いところで、しかも、リアルな想像をしておられる。そんな深くまで考えることができるのは、相当冷静でなければできないでしょうね。そういう意味では、すごいと思いますよ」
 と深沢刑事が言ったは、それは、ある意味皮肉が籠ったセリフであった。
 裏を返せば、
「私には、そんな恋愛は、決してできない」
 ということを、言わんばかりだったのだ。
「ということは、あなたたち3人は、三角関係だったということなのかな?」
 と言われたので、
「そういうわけではありません。私が考えていただけですが、確かに二人は付き合っていたんだと思います」
 と敦子が言ったのを聞くと、
「じゃあ、二人が付き合っているというのは、あなたの妄想かも知れないと?」
 と聞くと、
「いえ、限りなく付き合っていると言ってもいいと思います。以前、舞鶴さんの後を付けた時、二人が楽しそうに待ち合わせをした場面を見てしまいましたから」
 というのを聞いた深沢刑事は、
「ということは、あなたは、舞鶴さんに対して感情を抑えられずに、ストーカー行為をしていると、結果的に二人が待ち合わせをしている場面にぶつかったというわけですね?」
 と言われ、敦子は、ストーカー行為を自分から白状してしまったことに、ハッとしてしまったが、
「言ってしまったものは、しょうがない」
 と思い、開き直った気持ちで、
「ええ、そうです。そんなものを見せられると、嫉妬心が燃え上がらないわけはないじゃないですか」
 と、あくまでも、
「自分は悪くない」
 と言わんばかりにわめきたてている。
 完全に、自分を正当化することに必死になっているが、その時は、自分のストーカー行為は棚に上げていた。ということは、彼女は、話をする時、
「簡単に、自分のことを棚に上げることができる人だ」
 ということなのだろう。
 それを思うと、
「どこまで彼女の証言を信じていいのか見極めないといけない」
 という思いと、
「思いつめているだけに、意外と勘が鋭くなっているのかも知れない」
 という思いが交錯しているように思えるのだった。
「ところで、今回、舞鶴さんが殺されたことで、何か心当たりがありますか?」
 と深沢刑事が聞いてみた。
 その趣旨としては、
「自分が激しい嫉妬を覚え、ストーカー行為に及ぶほどの相手が殺されたというのに、平然と仕事に来ているという心境を考えた時、何かを知っていると考えるのは、自然なことではないだろうか?」
 と案じることであった。
作品名:耽美主義の挑戦 作家名:森本晃次