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耽美主義の挑戦

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「とりあえず、無難にまじめだと答えておいたが、それを、真面目過ぎると言われると、さすがに否定したくなるような、そんな真面目さだったのだろう」
 と、深沢は考えた。
「真面目だというのは、真面目に見えるということでしょうか?」
 と聞くと、
「そうですね。本当のところの性格的なものは、本人ではないと分からないところだと思いますが、真面目に見えるということは、やっぱり真面目なんじゃないでしょうかね?」
 と言ったのは、
「死人に鞭打つような罰当たりなことはしたくない」
 という気持ちの表れなのかも知れない。
 深沢刑事は、そこで少し会話をやめてみた。相手がどんな表情をするのかを見てみたが、完全にこちらの様子を見計らっているのが、あからさまに感じた。
「どうやら、臆病風に吹かれているようだ」
 と感じ、これから、どんな質問をされるかを怖がっているのだろう。
 自分は別に悪いことをしているわけではないが、下手なことをいうと、自分が犯人にされてしまうかも知れないという思いがあるのかも知れない。
 それよりも、ひょっとすると事件以外でも、何かあるのかも知れない。それを考えると、余計に変なことを言えないということになるのだろうが、彼らにとっては、舞鶴が殺されたことよりも、さらにひどい何かを隠しているのかも知れない。
「舞鶴なんか、どうでもいいんだ。警察に知られると、自分の立場がなくなってしまう」
 とでもいうような、明らかな保身が、所長の頭の中には漲っているのかも知れない。
「舞鶴さんは、お仕事の方はどうでしたか?」
 と聞かれると、
「ええ、真面目にやってくれていたので、おかげさまで、彼の営業努力のおかげで、業績は右肩上がりで伸びていってくれていました。そんな彼がいなくなって、実に寂しい限りです」
 と所長は言った。
 これは、社交辞令なのか本心からなのか、ハッキリと分からない。そもそも、知らない相手を、こちらが知らない人と話をしようというのだ。そもそも、その考え方が間違っているのかも知れない。
 とりあえず、所長の話は、どうしても、一つの皮が結界のようになっていて、
「話をするだけ無駄」
 ということが、分かってくるだけであった。
 そう思って、早々に切り上げて、同僚に話を聞いてみることにした。
「全員一緒だと業務に影響するので、一人ずつか、2人ペアくらいでお願いします」
 と所長から釘をさされたが、こちらも、最初から皆一緒になどと思っているわけでもなかった。
「じゃあ、2人1組でお願いしましょうか?」
 と言って、ペアとすれば、男女も組み合わせの方がいいような気がした。
 女性同士、男性同士だと、お互いにけん制し合って、正直に言えなかったり、逆に同性同士ということで、こちらが聞きたいことと違う発想をされてしまいそうだった。一種の相乗効果のようなものではないだろうか。
 とりあえず、ランダムに選んだ二人からだったが、二人の様子にぎこちなさが感じられたことから、
「この二人は付き合っているのではないか?」
 と深沢刑事は感じた。
 だが、まずは、彼らから見た舞鶴がどんな人物なのかということが知りたかったので、何も気づいていないふりをしたのだった。
「君たちから見た舞鶴さんというのはどういう人だったのかな?」
 と聞くと、まず、男性の方が、
「そうですね。一言で言って、個性至上主義という人ですかね?」
 というではないか。
「個性至上主義?」
「ええ、個性というものを、何よりも大切に考えるということですね」
「個人主義とは違うんですか?」
「個人主義というのは、団体に対しての個人ということですね。個性というのは、切り口が違います。個人であるその人が、もっとも輝ける場所がどこかというのを追求するというんですかね? 要するに、他の人と同じではない。自分だけの世界を追求することなんです。個人であれば、そこに寂しさというものが孕んでくるんでしょうが。個性至上主義は、一人でいても、決して寂しいとは思わない。一人でいることの何が自分にとって一番いいことなのかということが分かれば、それに対して決して努力を惜しまないような人、個人でいても、寂しさがあれば、寂しくないようにするにはどうすればいいのかということを考えぬく人、それが、個性至上主義なんですy」
 と男性の方はいうのだった。
 横で女性は微笑んでいたが。
「確かに、今の彼のいうことは正しいと思う。私も、舞鶴さんのような、個性至上主義に近いんだと思うんですが、舞鶴さんを見ていると、私も何か違うような気がするのよと思ええるようになっていったのよね」
 と彼女は言った。
「じゃあ、あなたはそれを何だと思っているんですか?」
「最初は自分でもよく分からなかったんだけど、その正体が、どうやら、耽美主義というらしいと言われて、本当に言葉の意味も分からないくらいだったので、完全にキョトンとしてしまって、意味を聞きなおしたくらいでした」
「どういう意味だったんですか?」
 と聞かれた彼女は、
「耽美主義というのは、道徳やモラル、秩序などというものよりも、美というものが優先する考え方なんですよ。今ここでいうのは不謹慎かも知れないんですが、これが殺人であっても、殺された人間を美しく、大衆の面前で着飾ることができれば。それは殺人ということよりも、美を追求したということで、自分の中で正しかったと思うことなんですよね」
 というのだった。
「なるほど、以前、ミステリードラマで見たことがあるような気がしました。人を殺して、お花畑の中に晒してみたり、菊人形の首を挿げ替えてみたり。他の人が見れば、気持ち悪くしか思わないが、犯人にとっては、一つの芸術作品になったようなもの」
 だったのだ。
 美しいというものを作るのに。
「他の人の手を煩わせてはならない:
 という考えがあるが、少しでも情を感じると、いくら耽美主義でも、罪悪感が入り込んでしまうことになり、完全な耽美主義が完成しないということになるのではないだろうか。
「個性至上主義」とは、どこか似てはいるが、完成された作品ではまったく違うものに感じる。
 見たこともないくせに、似せようとして、強引に自分の考えを人に押し付けることになってしまうのではにないか。
 彼女の名前は、敦賀さくら子と言った。
 彼女の耽美主義と、殺された舞鶴の個性至上主義とでは、よくケンカになっていたという。
 もちろん、ただの言い争いで、主義主張をぶつけ合っていただけなので、よほど声が大きくて近所迷惑になったり、まわりの人に迷惑が掛かりでもしない限り、まわりの人が止めようとすることもなかったようだ。
「私も別に個性至上主義という、あの人の意見を頭から否定しているわけではないの。ただ、あの人が耽美主義に対して、犯罪だったり、人間のストレスなどのはけ口として使われることが、許せないというような話をしていたんだけど、私からすれば、彼の主張する個性という言葉だって、似たようなものじゃないって言っていたんですよ」
作品名:耽美主義の挑戦 作家名:森本晃次