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小田原評定

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 この二つがジレンマとなるだろうということを感じていたのだ。

                 やらせ疑惑

 テレビでドキュメンタリーが放送された時の反響は、さほどのものではなかった。
「取れ高」
 という意味で、視聴率も想定していたよりも取れていなかったようで、放送局側からすれば、失敗企画だったということになっていたようだ。
 だからと言って、荻谷少年に問題があったわけではなく、元々が他人ごとのように見ていたのだから、他人のドキュメンタリーだと思うと、視聴率が高かろうと低かろうと気になるものではない。
 しばらくすると、そんな番組があったということすら、忘れてしまうほどであった。
 しかし、そんな状態から、少ししてのことだっただろうか。意外なことで、思い出すようになるなど、想像もしていないことだった。
 それもいいことであればいいのだが、実際には最悪の形で思い出さなければいけなくなるなど、こちらも想定外であった。
 結構な騒動になるのだが、その時はさすがに、以前、ドラマの許可を出した自分を、
「過去に戻って、ぶん殴ってやりたい」
 というほどに思うほどだったのだ。
 後から思えば、確かに番組はあまりにも、
「作られた、作為的なところがありありだった」
 というところがあった。
 それを簡単に許可したのは、
「自分のドラマなので、自分を主人公にするのが当然なので、主人公にされると、恥ずかしいという思いから、少し誇張して作ってくれていたことが、却ってありがたかった」
 と思ったからだった。
 しかし、それが、却って逆効果に導くことになるとは思ってもいなかった。それが、子供の想像を超越してくるような、いわゆる、
「大人の世界」
 というものだった。
 大人の世界と言えば、
「相手を蹴落としてでも、自分が目立とうとするような世界」
 だということを、中学生にもなれば、分かってきていた。
 もちろん、今まで大人のそんな世界に巻き込まれたことはなかったので、ぴんとは来ていなかったが、実際には、意識をしていないところで巻き込まれていた。
 予言をして、それが、ことごとく外れた時、まわりから、ウソつき呼ばわりされ、
「大人をバカにするんじゃない」
 と、本人はそんなつもりもないのに、罵声を浴びせられることに、少なからずのショックを受けていた。
 そのショックは、理不尽さを感じさせ。その理不尽さが、
「大人の世界を映し出しているということのなるのだ」
 ということを分かっていなかったのは、その時まだ、
「自分が子供だったからだ」
 ということを分かっていなかったのだろう。
 大人というものを必要以上に意識してしまったことで、却って、大人に関しての感覚がマヒしてしまったあのではないかとも思ったほどだった。
 だが、大人を意識するが、大人の世界に巻き込まれたわけではない。大人の方も、そんな普通の子供よりも、より子供のような荻谷少年を、意地でも大人の世界に入ってこないように、結界を張ったようなところがあったのだ。
 それは大人のプライドであり、子供にとって、立ち入ってはいけない領域だったのだ。
 だから、大人からの罵声を感じながら、子供でいるしかないという状態を中途半端だと感じていたが、その中途半端な感覚ほど、すぐに忘れてしまうものであった。
 感覚がマヒするというものではないということである。
 そんな大人の世界を知るようになったのは、直接的なことからではなかった。
 というのも、ある時、ウワサになっていることがあるというのを、学校の先生から聞いたことから始まった。
 そんなことを子供の生徒に聞くというのも、どのようなものかと後になれば感じたのだが、その時は、荻谷少年にとっても、
「寝耳に水」
 のようなことであった。
 というのも、そのウワサというもの、曖昧な形で、人づてによるものだったということであろう。
 そのウワサというのが、この間民放で放送され、視聴率も最低だったということで、
「早く忘れてしまいたいことだ」
 と思ったようなことだった。
 それを、なぜしばらく経った今になって、問題になるのか、理由が分からなかったのだが、なにやら、週刊誌の一人の記者が、
「やらせ疑惑」
 というのを抱いているということだった。
 先生がいうには、
「そういうウワサがあるが、お前に何か取材などが来ているか?」
 ということであった。
 実際に、そんなことになっているなどまったく知らなかったので、
「いいえ、来ていません。そんな話があるなんて、今先生から初めて聞かされた次第ですよ」
 というと、
「そうか、それなら、取材がくれば、断る方がいいかも知れないな。下手に話すとやつらは余計なことを書き立てるだろうからな。とりあえずは、静かにしておくのがいいかも知れない。それにしても、まずまわりから攻めていって、まわりを固めてから、本陣に切り込むというやり方は、結構考えられていることのようだ。気を付けた方がいいかも知れないな」
 と先生は言った。
「先生のところに取材に来たんですか?」
 と先生に聞くと、
「ああ、最初は、君のテレビ番組についての感想や、君の生徒としての感想を聞いてきたので、それなりに適当に差しさわりなく答えておいたが、取材にきた人間は、次第に切り込んでくるような話になってきた。君の家族のことなどをね。それで怪しいと思ったんだ。あまりにもプライベートなことに関わってくるからね。こっちも答えられないというと、あっさりの引き揚げていったけど、あれは、先生の出方を見たんじゃないかと思ってね。攻略できないと思ったので、そこで諦めたんだろう。だけど、今度はまた別のところから切り込んでくるかも知れない。そして、次第に君に迫ってくるだろう。それは、阻止したいと思ったんだ。だから、とりあえず、今のところ君にまだ迫ってきていないということは、取材が難航しているのか、それとも、難航していることで、時間が掛かりすぎることによって、諦めてくれたのかということだが、諦めてくれたのであれば、それはそれでいい。しかし、そうでないとすると、気を付けないといけない。ああいうジャーナリストという連中は、あることやないことを面白おかしく書いて、それをたくさんの人に読ませることが正義のように思っている。真実かも知れないが、犯してはいけない部分があるということは、まだ中学生の君にだって、分かるんじゃないかな? だから、私はそんな変な正義感を持った連中を許せないし、そんな連中に、自分の大切な生徒を犠牲にできないと思っている。だから、もし、連中が取材に来たりしたら、余計なことを言わずに、先生に相談してほしいんだよ」
 と先生は力説していた。
 先生の力説は、それなりに説得力があった。その思いを、荻谷少年も分かっていて、
「テレビ番組の撮影を許したのは間違いだったのかな?」
 と思ったが、あれが、やらせだったのかどうか、よく分からない。
 確かに誇張はしていたが、あくまでも他人事として見ていたのだ。それ以外の何ものでもなかったはずだ。
 だからこそ、自分の想像もしていなかったことが勃発していることに、
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次