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小田原評定

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 だが、そんな考えはしっかりと当たっていた。実際にその通りに予言をすると、本当に当たるのだから、困ったものだ。そんなことを考えながらでいると、下手に評判が評判を呼ぶようで、一部地域だけで、流行っている分にはよかったのだが、それがどこでどう伝わったのか、ある時、地元のケーブルテレビが、
「取材いいですか?」
 ということで、取材交渉に来た。
 最初は、一人で勝手にしていることだったので、丁重に断っていたのだが、そのうちに、予言によって、成功を収めた人が、
「テレビ取材ですか? いいじゃないですか。私はあなたのおかげで成功を収め、会社が軌道に乗ったんです。私が会社ぐるみでバックアップしますので、出て見ればいい。地元のケーブルテレビが取材してくれるなんて、いいことではないですか」
 といって、背中を押してくれた。
 少年は、最初こそ戸惑っていたが、本当は最初から嬉しかったので、背中を押されたという感覚で、取材にOKする形になった。
 そんな、スポンサーと言ってもいいのか、後ろ盾を得たことで、気が楽になった彼は、テレビ出演に前向きなことを相手にいうと、かなり喜んでくれたようだった。
 少年は、名前を荻谷という。基本的には苗字だけを公開する形だったので、本名で活動することにした。だから、基本的には、
「荻谷少年」
 と呼ばれるようになった。
 中学2年生なので、親権者の許可が必要だったが、親も別に反対することもなく、承諾してくれた。
「どうせ、地元のケーブルなんだろう?」
 ということで、正直、少年の力に別に興味を持っているわけでもなく、
「勝手にやればいい」
 というスタンスであった。
 乗り気だったのは、スポンサーとケーブルテレビ側で、皆が乗り気になってくれているおかげで、荻谷少年も、すっかりその気になっていた。
 とは言っても、やはりしょせんは、地元のケーブル。地域の番組における数十分くらいの紹介インタビュー程度のもので、正直、ほとんど原稿はできていた。3割くらいはアドリブになったのが、実際に撮影してからオンエアされると、反響はそれなりにあったようだ。
 局に、問い合わせのようなものが、数件あったようで、最初のうちは、返事をしていたが、そのうちにしなくなると、その熱も冷めていった。
「まあ、地元のケーブルなので、こんなものですよ」
 ということであった。
 そもそも、企画の内容は、
「最初、予言ができる気がしたので、それを友達の間で口にしていたが、実際に、それが本当のことになることはなかった。だが、そのうちに、感じたことの反対を口にすると、それがことごとく的中するようになった。それが最初のうちは、オオカミ少年と言われていたのに、急に当たるようになったことで、却って、まわりが注目し始めた。当たるようになった最初の頃は、皆、どうせウソだろうといってうて合わなかった人ばかりで、それが、オオカミ少年と言われるゆえんとなったのだが、それでも、懲りずに予言をしていると、本当に当たるのが、皆に浸透してきたようで、それが、今度は恐怖になってきたようで、次第にまわりも、無視ができなくなったようだ。そのことで、少しずつ、有名になってきて、個人的に相談に来る人が増えたのだ」
 というような内容をドキュメントに纏めて、インタビュー形式の番組を作成したのが、ケーブルテレビだった。
 再現VTRなどの予算があるわけではないケーブルだったので、それはそれでしょうがない状態になっていた。
 だが、そのことがどこからか、民放と呼ばれる全国に地元の放送局を持つ、東京のキー局が聞きつけたようで、取材をしたいということで、スポンサーになってくれた人のところに交渉にきた。ケーブルテレビに問い合わせたのだろう。取材依頼があったことを、スポンサーの人が話にきた。
「やってみればいかがですか? 今回は、再現VTRを作るという話だったんですよ。それを、どちらかというと、コメデイタッチにするということだったんですが、それに対して、荻谷さんが問題なければ、私はいいと思ったんですがいかがでしょうか?」
 ということであった。
 荻谷としては、コメディタッチということに少し抵抗があったが、
「できたVTRを事前にチェックして、問題なければいいということを徹底できればそれでいいと思います」
 と話した。
 抵抗はあったが、反対するというところまで強い意志があったわけではなく、問題ないという確認が取れればそれでいいということだったのだ。
「それは。もちろん、相手も放送倫理に基づいて作成するわけですから、それは間違いないと思いますよ」
 ということだったので、とりあえず、今回も了承することにした。
 もちろん、事前のインタビューもちゃんとしてくれて、相手からの質問も、別に過激なものもなく、差しさわりのないところでの内容になっていたのだ。
「テーマとしては、オオカミ少年と言われていた人がある時、覚醒して、予言した内容がすべて的中するようになったことで、まわりからの信頼を回復するというものですので、挫折のところは、こちら側のオリジナルで考えさせていただくことになります。もちろん、荻谷さんの心証を悪くするようなものには絶対になりません。逆に少し、いい方に煽る形になろうかと思います。とりあえず、まずはこちらでVTRを作成してみますので、チェックの方をよろしくお願いいたします」
 ということであった。
「いい方に煽るとは、どういうことだろう? だけど、こちらの心証を悪くはしないということだったので、信じてみよう」
 と、荻谷少年は考えた。
「分かりました。楽しみにして待っていますね」
 と、自分があたかも好意的だということを、前面に押し出していたのだ。
 すでに、予言することで、相手の顔色を見ることが、無意識にできるようになっていた荻谷は、少年というよりも、大人に近づいているということを、彼に対する人は、次第に気づくようになっていた。
 しかし、実際に、大人の顔色を見るのは、子供の方が得意なのかも知れない。だが、実際に、子供が大人に対して気を遣っている姿というのは、他人から見ていると痛々しいものであるにも関わらず、実際には、そこまで痛々しいものではなく、気が楽なものだったのだ。
 自分が大人に近づいているということは、最近意識するようになっていた。それまで子供だとばかり思っていた自分が、次第に大人の仲間入りとしているのは嬉しかった。
 ケーブルテレビに出た時、テレビ番組というものを、
「こんな形で作っているんだ」
 と、獏前と感じている中で、心の奥で感じていたのは、
「皆こんなにまじめに取り組んでいるんだ」
 ということは、分かっていたはずなのに、実際に見ると、何とも言えない気分にさせられたことは、新鮮だったと感じたのだった。
 その時に、
「早く大人になりたい」
 と感じた。
「この真面目な感覚は、大人だから出せるオーラなのだ」
 と感じたからだった。
 自分だって、ずっと子供だと思っていたが、そのうちに大人になっていく自分を感じると、最初は、
「子供のままいる方が、ちやほやされていいよな」
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次