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小田原評定

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「それを計算しての、聞き込みへの返答ではなかったか?」
 とも感じた。
 やはり、本人に直接よりも、彼をテレビ局に推した商店街の3人にもう一度聞き込みをした方がよさそうだ。
 そう思った谷村刑事は、さっそく、商店街へと赴いたのだ。
 商店街は相変わらず、閑古鳥が鳴いている。アーケードの真ん中に惣菜屋がワゴンに商品をおいて、見た目は賑やかそうだが、絶対的に人が歩いていないのだから、どうしようもなかった。
 アーケードの奥の方にある商店街の事務所に行ってみると、ちょうど、八百屋と肉屋が来ていて、話をしているようだった。魚屋はいなかったが、二人の話は、たぶん、集まれば必ずしているであろう、
「商店街のこれから」
 という一番深く重たい話のようだった。
 その話も、煮詰まっていたというのか、どうにも出るはずのない協議をしているという、いわゆる、
「小田原評定」
 のようなものだったのだ。
 彼らとしては、誰かに入ってもらって止めてもらいたいというくらいに、ネガティブな発想だったのではないだろうか?
 ちょうどそんな時に、刑事が来たのだ。普段なら、
「この忙しい時に、刑事がきやがって」
 と思うところなのだろうが、真剣で、凍り付いてしまった小田原評定の時間だっただけに、刑事の訪問というのは、
「小田原評定解体のいい機会」
 だったのではないだろうか。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
 と、谷村刑事がいうと、
「いいえ、大丈夫です。でも、まだ何かお聞きしたいことがあるんですか?」
 と八百屋の亭主が言った。
「大したことではないんですが、まあ、確認という意味ででしてね、一つお聞きしたかったんですが、荻谷少年のドキュメンタリーを提案されたのは、誰だったんですか?」
 と、谷村刑事は聞いた。
 どうやら、あまりにも、質問が意表をついていたのか、二人はポカンとして、
「それは私ですね」
 と、八百屋が答えた。
 それを聞いて、一瞬だけ谷村刑事がにやりとしたのを、他の誰も気づいていないようだった。
「分かりました。ありがとうございます。ところでですね。このあたりは、そこの国道に建設予定になっている郊外型の大型商業施設があるでしょう? あそこの影響はうけないんですか?」
 と聞かれて、
「ええ、商店街の店の中で、ブティックや、雑貨屋さんなどは、テナントとして入ることになっているようですね。だから、ここから移転する形になるでしょうから、嫌でも、商店街は、ゴーストタウン化してしまうことでしょうね」
 と八百屋は言った。
 それは、まるで投げやりにも見えたが、とにかくいかにも他人事のように見えたのだった。いくら時代が求めていないのかも知れないと言っても、昭和のよき時代を知っている谷村刑事には、寂しさしか感じられなかった。
「八百屋さんは、このあたりでは、結構幅を利かせていると伺ったんですが?」
 と、谷村刑事は、いきなり高飛車な質問をした。
 一瞬たじろいだ八百屋だったが、すぐに表情を戻して、谷村刑事に正対した。谷村刑事はそれを見て、
「やはり、相当に海千山千の男だな」
 と思ったのだ。
 この態勢は、谷村刑事のいつものやり方で、ある程度何かを掴んだ時に見せる顔であった。
「そうですか? 皆さんが私の意見を尊重してくれるので、実にありがたいです」
 というと、
「八百屋さんは、殺された新谷さんが、元々警察の情報屋だったということをご存じでしたか?」
 と言われ、
「いいえ、知りませんでした。てっきり、ゴシップ専門の札付きの悪だと思っていましたけどね」
「実はそうではなかったんですよ。新谷さんが殺されることになった理由は、実は、間接的にですが、商店街も皆さんにあるんですよ」
 といきなりの核心をついてきた。
 谷村刑事は、
「新谷を殺したのは、お前たちだ」
 とでも、言い出すのではないだろうか?
 それを聞いた肉屋はさすがに黙っていられないということで、
「何を言ってるんですか? 殺したというのであれば、証拠を見せなさい」
 と普段はおとなしいだけに、追い詰められると、そのストレスが爆発してしまうようだ。それを見た八百屋は少し慌てて、
「肉屋さん、慌てなくていいですよ。刑事さんは、何も私たちが殺したと言っているわけではないですよ。おおかた、揺さぶりをかけて、隠していることがあれば、それを白状させようという作戦なんじゃないですかね? こっちが慌てて怒りをあらわにしたら、それこそ、思うつぼで、関係のないことを口走って、犯人でもないのに、犯人にされかねない。警察は、手詰まりを起こすと、別件逮捕という奥の手で、罪のない一般市民を簡単に拘束しますからね。公務執行妨害なんて都合のいい言葉を使ってね」
 と、八百屋は落ち着いていった。
 しかも、これだけの言葉で、肉屋を落ち着かせることができたのは、
「警察の手の内を、こっちは全部知っているんだぞ」
 と言わんばかりであった。
 八百屋もニコリと微笑んだが、谷村刑事も負けていない。
「いや、さすがに落ち着いていらっしゃる。でも、今回の事件にあなたたちが絡んでいるということは間違いないと思っているんですよ。しかも、犯人まで用意する周到さは、さすがに、商店街の店主ではできないことでしょう。きっと何かの組織が暗躍しているのは間違いないと思っているんですよ。さっきの小田原評定は、そのための対策会議なんじゃないですか? 私が小田原評定と言った意味、八百屋さんなら、分かるんじゃないですか?」
 と、谷村刑事は言った。
「結論の出ない会議を、意味もなく開くという意味ですよね?」
「さすがよくご存じ、戦国時代に、豊臣秀吉に小田原攻めで、小田原城を包囲された北条氏が、向かいの山に城を築いて、腰を据えて兵糧攻めにしようとしているのを見て、どのようにすればいいかという会議を毎日続け、まったく結果のでなかったことで、小田原評定といわれるようになったということです」
 と、言って、谷村刑事もニンマリと笑った。
「ということは、我々は、八方ふさがりだと?」
 と八百屋がいうと、
「当たらずとも遠からじではないでしょうか? あなたたちのバックには組織がいるんでしょう? その組織をどこまで信頼すればいいか、正直困っている。何かそういう兆候でもあったのかな? あなた方を不安にさせるような」
 谷村刑事が考えているのは、
「たぶん、組織が釘宮を犯人として、自首させたことではないかな?」
 と思っていた。
 最初の計画にはなかったのだろうが、組織が念には念を入れて、いろいろな策を取ってきたのかも知れない。
「我々は、あなた方の組織がどういう組織なのかも、最終目的が何かということもまだまだ分かっていません。ただ、私が一つ気になったのは、新谷記者が、本当に荻谷少年のゴシップ記事を書こうとしていたのかどうかということなんです。いろいろ調べてみたけど、そういう内容のものは、ネットにもどこにも出回っていません」
 と、谷村刑事がいうと、もう一人の刑事が、
「待ってください。殺された新谷さんのパソコンには、書きかけの記事が載っていたではありませんか?」
 というと、
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次