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小田原評定

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「わざわざ、我々を個室に呼んで、聞き込みをさせるのは、他の人に聞かれたくないという思いがあるのか、それとも、警察が来ていることを知られたくないという思いがあるからなのか」
 と感じた。
 編集部では、当然取材というのが一番の仕事なので、基本的には表にいることが多い。確かにここに来た時も、編集長と、女性社員が一人いるだけだった。彼女は庶務的な仕事が主なようなので、基本的には内勤だ。取材を終えて、原稿を書いている記者はいても不思議はないが、基本はいないというのが前提で考えてもいいだろう。
 それなのに、わざわざこの中を使うのは、最初から違和感があったのだ。
 そこへもってきて、編集長の態度が微妙になってきた。
「触れていいものだろうか?」
 と考えたが、殺人事件の聞き込みだと考えれば、触れないわけにはいかないことだろう。
「編集長は、何か気になることがおありなんじゃないですか?」
 というと、編集長は、
「待ってました」
 というべきか、救われたかのような脱力感に包まれながら、
「ええ、実は」
 と言って、話し始めた。
「うちの会社は、実は東京の大手会社の傘下なんです。吸収合併という形なのですが、今回のやらせ疑惑という案件は、その本社の方から出てきた案件だったんです。私はそれを新谷君に任せました。この件に関しては、本社の方からも、他言無用でということだったんです。それでも本社から請け負ったわけなので、新谷君は、一生懸命に取材をしていました。ひょっとすると彼には、本社への栄転という野心があったのかも知れないですね。でも、そんな時だったんです。今度は、本社の方から、仕事を振っておいて、急に、中止だと言ってきたんです。せっかくのことに、戸惑いを隠せなかったんですが、実は、今まで取材をしてきたことで、いろいろな情報屋から、情報を得ていたんですが、彼らに対しては、当然仕事をしてもらったのだから、お金は払わないといけない。だけど、新谷君には、何ら申し訳金というのもあるわけではなく。業務時間の仕事が、ボツになっただけのことになったんです。彼のように、編集者冥利を感じながら仕事をする人にとっては、たまったものではないでしょう。そうなると、精神的にも参ってしまったようです。しかも、それに輪をかけて、殺されてしまうんですから、彼も浮かばれませんよ」
 と、編集長は吐き捨てるように言った。
「なるほど、圧力がかかったというわけですね?」
「ええ、そうです。しかも、これは、きっと本社もどこからかの圧力をかけられたんでしょうね? 放送局からなのか、まさかとは思うけど、当事者の荻谷少年からの圧力か……」
 谷村刑事も、編集長の気持ちはわかる気がした。編集者と言っても、少し強引な取材をすると、すぐに、自分が悪者にでもなったかのように感じ。最終的には、精神が病んでしまったりするに違いない。
 そういえば、今日は、やけに圧力というものを聞く日であった。
 これが偶然なのか、それとも、事件に重大な影を残すことになるのか、分からなかった。
 とにかく圧力というものがどういうものなのか、編集部への圧力。警察内部の圧力、実は知らないだけで、日常茶飯事なのかも知れない。
 圧力に怯えている人をこれ以上相手にしても、時間の無駄だと思った谷村刑事は、出版社を後にして、荻谷少年を訊ねてみることにした。以前は別の人が訊ねてきたので、初めての対面となる。しかも、今回は、
「自分が犯人だ」
 と言って名乗り出てきた人がいた。
 そして、釘宮がいうには、荻谷少年と知り合いだというではないか。性格的にもお互いを知ったる仲だということ。
「釘谷君が自首してきているが?」
 ということに触れようか、どうしようかと考えていたが、下手に考えると、結論が出てこない。
 余計なことを考えてしまうと、負のスパイラルに入り込んでしまう。それを思うと、
「まずは会ってみよう」
 ということで、落ち着いたのだ。
 本当であれば、出版社でも荻谷少年に対しての聞き込みでも、釘宮の言い分の裏付けをするべきなのだろうが、まずは、釘宮のことを言わずに一度通して考えてみたいと思ったのだ。
 つまり、釘宮の証言の裏を取るよりも、聞き込みの信憑性を知る意味で、釘宮のことを知らないふりして事情を聴いて、その話と、聴取した、あるいはこれからするであろう釘宮の自供から、何が引き出せるのか? ということを考えるのがいいと思うのだった。
 荻谷少年というのは、思っていたよりも小さく感じられた。VTRでやらせ疑惑のあった番組を見て、カメラ越しの荻谷少年を見たが、実際に見る荻谷少年というのが、本当に普通の少年であるということを、立証しているかのようであった。
「これが、オオカミ少年と呼ばれた男なのか?」
 と、いくら予言の力があるとしても、それをまわりにいう勇気があるようには、とても思えなかったのだ。
 背中が曲がっていて、よく見ると、先日自首してきた釘宮の背中によく似ているように思えた。それでも、彼はれっきとした予言者として、テレビに出たのだ。やはり、どこかが違っているように思うのだが、どこなのか、よく分かっていない。
 荻谷少年に、
「どうして、オオカミ少年と呼ばれていたものから急に変わって、すべての予言が当たるようになったのか?」
 ということを聞いてみた。
 すると、意外にあっさりと教えてくれた。そのうえで、
「僕は、予言をすることが怖くなったんです」
 というではないか。
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「僕の予言一つで、人間の人生が変わってしまったりする。刑事さんが今捜査されている新谷さんの事件でも、僕は新谷さんに、命が危険に晒されているというような趣旨の話をしたんです。あの人は急に起こり出して、僕に罵声を浴びせました。それは、かなりの勢いでしたね。まるで、自分でも分かっているのではないかと思ったほどだったんですが、急に彼が殺されたというではないですか? 僕が言ったから殺されたんじゃないかって、急に思うようになると、予言をするのが怖くなったんです。だから、あれから、予言はもうしないと決めたんです」
 というのだ。
「でも、予言をしたから殺されたのか? それとも、殺される運命にあった相手に感じたことをそのまま言ったのか、まるでタマゴが先かニワトリが先かというような感じだね」
 というと、
「そんな生易しいものじゃないんですよ。一度誰かに予言をして、それが当たってしまうと、自分が予言から、もう逃れられないような気がしてきたんです。まるで、自分の運命が決まってしまったかのようにですね。それを感じた時、どんな恐ろしい気持ちになるか、想像できますか? 人の運命を自分が背負うということですからね。自分にできるわけはないとしか思えませんよ」
 というのだった。
 釘谷も、荻谷少年のそんな覚悟を分かっているのだろうか? 二人が一心同体ではないかと思えてくるくらいだったのだ。

                 大団円

 荻谷少年に対してはやらせ疑惑のことを敢えて聞かなかった。もし聞いてしまっていれば、彼の精神状態が本格的に病んでしまうのではないかと思ったからだが、心のどこかで、
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次