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小田原評定

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 今は沈もうとしている泥船に、何も知らない同胞をこれ以上載せておくわけにはいかないのだ。
 それを思うと、取材に協力した意義が、自分を納得させられるだけのものであったと自信を持って言えるのだった。
 そんなことを考えていると、それから警察の訪問を受けたのが、3か後だった。
「我々は、S出版社の新谷さんの事件について追いかけているのですが、少し事情聴取にご協力ください」
 というではないか。
「何かあったんですか?」
 と、八百屋がいうと、
「知らなかったんですか? 昨日、新谷さんが、何者かに殺されたんですよ」
 というのを聞いて
「えっ? それで我々のところにどうしてこられたんですか?」
 と八百屋が聞くと、
「彼の仕事部屋で、ちょうど、こちらの記事を書かれていたところだったんですよ」
 と刑事がいうと、八百屋が思わず口を挟んだ。
「返り血で、汚くなっていなかったんですか?」
 と言われて、一瞬固まってしまった刑事だったが、すぐに気を取り直して、
「ええ、大丈夫です、背中から刺されていたからですね」
「なるほど、そうだったんですね。新谷さんは、たぶん、うちのことを記事にしている最中だったんじゃないですか? だから、刑事さんがまず、こちらに事情を聞きに来られたんですよね?」
 と、またしても、想像で八百屋は言ったが、当たっているようで、
「ええ、彼の記事は、別に消されることもなく、画面に残っていました」
「そうなんですね?」
 と八百屋は言ったが、まさかこの間、あれだけあざといほどの取材をしていった人が、こうも簡単に、
「帰らぬ人」
 になったかと思うと、それなりに、ショックだったのだ。

                 情報屋

「警察の方は、その記事が残っていたのを見て、こちらに来られたんですか?」
 と八百屋が聞くと、
「ええ、そうです」
「実は我々もまだ、その記事が具体的にはどのような記事になっているのかは、まだハッキリとは知らなかったんです。一応、初稿の段階で、見せてもらうことにはしていたんですけどね。そこであれば、まだ原稿の差し替えはできるということを伺いましたので」
「そうですか。詳細は分からなくても、内容は少しはご存じだということですよね?」
「ええ、私どもの知り合いの少年のことをテーマにした内容のテレビ番組が作成されたんですが、その番組に、やらせ疑惑というのがあるので、それについて、今取材をまとめているということでした。ある程度の何か確証を得たんでしょうね。ひと月半後には記事になるようなことを言っていました」
 と八百屋が説明すると、
「じゃあ、皆さんは、そのやらせ疑惑という話を信じておられるということですね?」
「ええ、少々番組が、かなり誇張していることは分かりました。事実ではないと思えることもいくつかあり、ちゃんと主催して製作した番組だったはずなのに、我々が最初に確認した内容と、微妙に違っていたようなんですよ」
「放送局側に抗議しましたか?」
「え、それはもちろん、話が違うってですね。放送内容の最終編集は試写会のようにして、見せてもらいましたからね。でも、そこからいくつか編集で差し替えというよりも、新たに増えていたんです。しかも、微妙に分からないようにですね。でも、それを放送局側は、気のせいだという言葉の一点張りです。こっちがさらに強くいうと、確認したのはそちらですよ。出るところに出ても、うちが負けることはないですよ。それでも良ければ、ご自由に。といって、鼻で笑われました。さすがに悔しかったので。やらせ疑惑を記事にすると言った。その記者に協力したんです。でも、最初はこちらも頑なに拒否をしました。だって、放送局がやった詐欺行為をその記者にされてしまえば、こっちもどうしようもないからですね。でも、彼の熱意に打たれる形で、今度は書面もとって、記事にすることにしたんです。法的にどこまで有効なのかは、何とも言えないですけどね」
 と言っていた。
「私どもも、記事を見る限り、あなた方n不利な内容のことは書かれていなかったようです。もっとも、まだそこまで証拠があるわけではないということと、まだ、連載の初回ということで、本当にプロローグとして、あなた方が先ほど話してくれた、事件の表側もあらましを途中まで書いていたくらいですね」
 ということであった。
「そうだったんですね。我々も信じた以上、彼が今のところですが、信頼するに至る相手であったということを聞いて、よかったと思いました。もし、最初の話を見て、怪しいと思うと、弁護士に相談することも、我々としては考えていたんです。ただ、彼のような新聞記者ともなると、疑うべき人って結構いたりするんじゃないですかね? 彼は、そういうゴシップ中心の記者なんでしょう?」
 と、八百屋がいうと、
「それがですね、実はそうでもないようなんです。普段は文化的なことを記事にしているような人で、文化人のインタビュー記事に関しては、同業者の人も認めているようで、しかも、記事の書き方も、相手のいいところを引き出すような書き方をする人だということで、そんな人が、急にこのような、ゴシップ記事を書いたのか、誰もよく分からないらしいんです。会社でも、彼が、この記事を書きたいと言ってきたのを、編集長も、最初は止めたらしいんですが、彼の思いがかなり強かったということで、好きなようにさせたといいます。彼に何が起こったというのか、よく分からないというのが、編集長を含む、会社の人の意見だったんです」
 ということであった。
 彼がゴシップ専用どころか、今回が最初だと聞いて意外ではあったが、それ以上に、妙に納得した気分になった。
「あの人は、思ったよりも、いい表情をしていたので、あんな記事を書く人だとは思えなかったもんな」
 と、魚屋の主人がそう言ったのだ。
 それを聞いた肉屋が、
「ということは、あの人にゴシップを書かせるようにしたきっかけになった何かがあったということでしょうか? それが事件なのか、誰かの影響なのかということではないかと思うのですが」
 と言った。
 肉屋は、気が弱く、確かに奥さんに頭が上がらない性格だったので、まわりからは、一歩引いたことがあり、決して表に出ることはなかったので、皆、あまり彼を重要視していなかったが、頭はよい方のようで、時々肝心なところで意見を出したことが、的を得ていたりして、
「肉屋さんは、たまにいいことを進言してくれるから、ありがたいんだよな」
 と、八百屋の主人は言っていた。
 今回も、肉屋の主人の話に警察も、
「なるほど、その通りかも知れませんな。私も、そんな気がします。その記者の人間関係と、他に扱った記事についてなど、調べてみることにしましょう」
 と、刑事も言ったようだった。
 この刑事は、警察の中では珍しく、庶民の意見を結構聞く人であり、名前を谷村刑事という。
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次