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小田原評定

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 こうすれば、相手がいくら個人戦のタイマンを考えたとしても、一度全員の中に入れてしまうと、この間の皆の懸念も解消される。
 それだけに、誰か一人でも裏切れば、その裏切りはすぐに白日の下に晒せられ、それによって、制裁も受けられるし、取材する側に対しての恫喝にもなると思ったからだ。
 ただ、相手も百戦錬磨の、海千山千である。相手が多数であればあるなりに、戦い方を知っているようだった。
 相手は決して尻尾を出さないように終始した。取材をするにも、ありきたりな話を聞いて、それでも、本当は聞きたいことを封印させることには成功した。半分は成功で、半分は失敗だった。
 失敗という根拠は、
「今回のやり方によって、相手に諦めさせるということができなかった」
 ということだ。
 相手は、こちらの出方を探っていただけに、今回のやり方は、
「こちらの手の内を探る」
 という意味では、大成功だったかも知れない。
 それぞれの人間をしっかり観察して、観察ノートでも作り、そこに分析した個々の性格を列記しているに違いない。
 一度の進行は阻止できたが、長期的な目で見て果たして成功だったのか。疑問であった。
 相手が作戦を立てる上で、まるで背中を押す結果になったのではないかと思うと、少し怖い気がしたが、しょうがないところもあり、こちらはこちらでスクラムを組んで、阻止することにまい進するしかないだろう。
「やつらマスゴミの進行を阻止できれば、この勢いで、商店街を復活させるきっかけになるかも知れない」
 と、自分たちの死活問題を、ここで考えているのかも知れない。
 マスゴミの方も、やはり海千山千だった。こちらが集団になっていても、まったく臆することはなかった。肉屋などは、
「こんな風になれたら、どんなにいいか」
 と、少し敬意を表したくなるほどの気分になっているくらいだった。
 しかし、現実はそうではない。何と言っても、やらせなどというのを認めるわけにはいかない。だから、自分たちが言い出しっぺであっても、後ろめたいところがないのだから、臆するところはないのだ。
 それを、皆が目の前にいる記者から学べないいのだ。その気概は八百屋にも魚屋にもあったが、果たして肉屋にはあるだろうか。
 あくまでも、羨ましく感じられるこの感情が、いかに前向きになれるかということが問題なのだ。
 それを考えると、八百屋と魚屋が頼もしくなってくる。
 最初は、八百屋に対しては。
「いつも、俺に命令して、億劫だなと思っていたが、彼の指導や注意勧告がなければ、自分は間違った道に行ってしまっていたのを、強引に引き戻してくれる存在だったんだ」
 と感じ、その指導性に敬意を表していた。
 魚屋に対しては。
「とにかく、冷静で、いつも後ろから眺めていて、肝心な時にしか口を開かないが、逆にいうと、彼が口を開く時は、よほどの時なんだ。だから、彼が口を開いた時、それまで無風だと思っていた状況が一気に慌ただしくなり、いつの間にか緊張感がみなぎっている。いつも中立の立場で、まわりを冷静にさせる力が普段の彼にはあった。それが、彼の魅力だったんだ」
 と感じ、自分を理詰めで導いてくれるということに、敬意を表している。
 今回の、マスゴミの攻勢も、二人がいれば大丈夫だと自信をもって言える気がした。
 しかし、二人からは、
「結局一人になって考える時が絶対にあるんだから、その時にちゃんとした判断ができるようになる必要があるんだ」
 と言われていた。
 それが、今回のような気がした。
 下手に他人事のように感じたり、少しでも、後ろに回って、静観しようなどと思ったりすると、相手に付け込まれてしまうのではないかと思うからだった。
 そんなことを考えていると、記者の質問が耳に入ってこなくなっていた。だが、記者はそんな肉屋を攻めるようなことはしなかった。
 ターゲットは完全に八百屋だと決めている。ある意味以外だったが、正攻法できている。真向から相手は攻撃をしてきている。正面突破でも狙おうというのか、潔さが感じられ、そうなると相手は八百屋しかいないのだろう。
 八百屋の主人は、後ろにいる二人を背中で誘導しながら、気持ちを自分で高ぶらせている。
「ひょっとすると、我々二人がいないと、八百屋の主人は、力を発揮できないのかも知れない」
 と思ったのは、彼の背中が何かを訴えているように見えたからだ。
 そう思うと、八百屋の背中を見ないわけにはいかなかった。それは、魚屋も分かっているのだろうが、その場の目線の強さは、肉屋にあったのだ。
 応援するという気持ちよりも、
「一緒に戦っている」
 という気分だった。
 そう感じた時、ふいに八百屋が振り返り、こっちを見たかと思うと、目が遭ってから、同時にうなずいていた。
 完全に、気持ちが一致しているようでうれしかった。
 こんな状況において、嬉しいという感情は不謹慎なのかも知れないが、八百屋の背中が、
「そんなことは関係ない」
 と言っているではないか。
「自分にとっても、商店街を守るために役に立たなければいけない」
 と感じると、そこは団結しか今は考えられなかった、
 商店街は、結束でこれからも生き残るという気概を持つことが大切なのだ。
 そんな取材があったことで、どんな形でこの記事が雑誌に載るのか、少し怖い思いをしているのは、三人三様だったのだ。
 取材を終えて、皆それぞれ恐怖を感じていた。さすがにそれは、リーダーシップを取りたい独裁者のイメージのある八百屋の主人であっても、同じことだったのだ。
 雑誌は隔週の雑誌で、地元の情報誌だったのだが、一応は地元のこの手の情報誌の中では一番の大手と言われているところだったので、よくも悪くも、この雑誌に載るということは、かなりの影響力があるところであった。
 それを思うと、怖いと感じるのは、無理もないことだった。
 今回の取材の内容は、ひと月半後の雑誌だということで、一応できれば、初稿の段階で見せてもらえるということだった。
 この段階であれば、修正はきくということだったので、
「なるべく早くお願いします」
 とは話しておいた、
 そして、やらせ疑惑の追及は、この回とは別の時にしてもらえるとありがたいという注文を入れているので、
「もしやらせに対しての情報を我々の取材から載せるのであれば、情報の出どころは伏せて置いてもらうことで、折り合いをつけた。
「ただでさえ、商店街は、にっちもさっちも行っていないので、そのあたりの情報は、こちらの損にならないようにお願いする」
 とは言っておいた。
 そうでなければ、我々の発言で、商店街全体に迷惑をかけることになるからだ。
「あくまでも、我々が協力するのは、やらせが本当であれば、我々の被害者であり、だからと言って、被害者面をして、自分たちを他人事のように装うのは、我々の理念に逆らうことになる。それは自分たちで許せないことなので、そこは、しっかりと糾弾してほしい」「
 というのだった。
 それだけの覚悟がなければ、自分たちがリークしたことになるので、その責任を覚悟で表すということだ。だからと言って、他の商店街の仲間を、道連れにはできない。
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次