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小田原評定

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 が続く中。いかに生き残っていくかということと両立しなければいけない問題なのだ。それを誰がいかに考えるかと言って、リーダーシップを取れる人がいるわけでもない。それが、
「放送氷河期」
 と言われる時代だと言ってもいいだろう。
 ただ、そのことを一般市民は誰も知らない。知られないようにするのも、放送業界の使命であった。下手に知られてしまうと、放送業界の限界が知れてしまい、秩序や倫理などという、企業理念の崩壊になってしまうからだった。それだけは絶対に避けなければいけない事実なのだ。

                 第一の殺人事件

 そんな中で、放送が低迷し、目論見が外れたことで、計画はうまく行かなかったが、だからと言って被害があったわけではない。そもそもが、
「この計画は、自分たちにとって、うまく行けば、得になることであるが、失敗したからといって失うものは何もない。とにかく、今は行動あるのみなのではないか?」
 ということで始まったことだったので、それは最初からの計算ずくのことであった。
 目論見は外れたが、今度は別のことを考えればいい。失うものは何もないということだったはずなのに、世間が忘れてから、少ししてから、今度は思わぬところから、まったく予期もしていない問題が巻き起こったのだ。
 それが、やらせ疑惑だったわけで、そのニュースソースになるのか、一人のジャーナリストが、商店街にも取材に来ていた。
 彼は、ただ荻谷少年のまわりを固めたいだけだった。最初は学校の先生を攻めてみたのだが、さすがに教育者という、
「聖職者」
 ということで、その牙城を崩すことは難しかった。
 そういう意味で、まわりの人を崩すことで少しずつ丸裸にしようというのが、ある意味、特ダネを狙う記者にとっての常套手段なのかも知れない。
 彼は、まず、肉屋の人に近づいた。
 肉屋の亭主は、どちらかというと気が弱い人で、奥さんの方が強かった。それは、実は無理もないことで、亭主は元々、婿養子だったのだ。
 婿養子というと、どうしても、姑に逆らうことができない。しかも、商売人ということになると、昔気質の人が多い。それらのことで、なかなか自分を表に出すことができず、絶えず、奥さんにも頭が上がらず、世間体を気にしているようだった。
 以前、一度不倫めいたものをしかけたことがあったが、それも、根性なしの性格からか、結局できなかった。
 それがよかったのか、もし不倫して、奥さんにバレてしまっていたら、秒で追い出されていたことだろう。
 そのあたりは、あの肉屋は、本当に昔気質のところがあったのだ。しかし、その時の紙一重がトラウマになってしまい、肉屋の旦那は、どうしても、奥さんに頭が上がらないどころか、さらに、商店街の中でも、いつも端の方にいて、絶対に表に姿を出さないような人だった。
 そんな人が、一度だけ商店街の会合で、自分の意見をいうと、まわりはビックリして、冷静に彼を見た。だが、彼は誰とも目を合わせる度胸はなく、話を引っ込めようとしたが、その時の議長が、
「どうだろう? ここは、肉屋さんに任せることにしようか?」
 と言い出すと、皆も、
「そうだ、そうだ。せっかく肉屋が出してくれた貴重な意見じゃないか。ここは言い出しっぺの肉屋さんに、任せるのが、道理というもの。皆どうだろう?」
 と、八百屋がいうと、
「うんうん、八百屋さんのいう通りだ。ここはひとつお任せしよう」
 と、全会一致での可決となった。
 誰かの意見がここまで一気に決まるというのは珍しかった。普段であれば、一人くらいは、反対意見があって、そこで話は紛糾するのだろうが、そんなことはなく、本当に珍しい全会一致となったのだ。
 それを、肉屋は心の中で、
「皆は、自分に降りかかるのが嫌で、俺にやらせているんだな」
 と思ったが、それは偏見だった。
 実際に皆の気持ちが肉屋に任せようと一致したことに変わりはない。もっとも、
「肉屋がどのような活躍をしてくれるか、見ものというものだ」
 と思っていたのだ。
 それは、皮肉というよりも、本当に期待を込めてであった。それだけ、商店街は何をどうしていいのか分からないほどに困っていた。やはりそれだけ、郊外型の大型ショッピングセンターの存在が恐ろしかったのだ。今まで発言をしなかった肉屋が発言をしたということの意義に、他の連中は掛けていたのだろう。
 その時の肉屋の活動は、一口で言って、
「可もなく不可もなく」
 と言ったところであろうか。
 それくらいのことは、他の商店街の人も許容範囲で、
「肉屋さんが、悲惨なことにならなかったのは、我々が今、底辺にいるからなんだって思うよ。もし、少しでも上にいれば、待っているのは奈落の底だっただろうからね。もうこれ以上、落ちないのが分かっているわりには、肉屋さんは、行動ができなかった。つまりは、少しでも状況が違っていれば、出てきた結果は、悲惨なことにしかならなかっただろうね」
 という意見が多かった。
 それは、肉屋にも分かっていることだった。
 肉屋は行動力には欠けているが、状況判断力がないわけではない。状況を少しでも把握して、判断する力は、他の連中に引けを取らないだろう。そういう意味で、最初にやらせておいて、ゆっくり状況判断をさせた方がいいと思った人にとっては、計算通りだったといってもいいだろう。
 これを考えたのは、魚屋の旦那だった。
 魚屋の旦那は、冷静な目を一番持っていたからだったが、それ以降、さらに事情が変わってきたので、もう、他の誰から、肉屋の後を引き継ぐということはなかったのだ。
 それだけ商店街の状況は流動的だった。それは、商店街の間のことだけではなく、他からの外圧が強かったといってもいいだろう。
 絶えず、郊外型のショッピングセンター建設を見ておかなければいけない状況になっているので。状況はいちいち一変するのである。
 そのことを分かっていなければ、自分たちのような昔かたぎの店はひとたまりもない。とにかく、動いていい時と、見守っていくことで、行動を控えなけれなならない時期かということを見極めるのは大切なことである。
 肉屋だけでなく、その頃は、どこも行動は控えていた。ただ、情報共有だけは絶えず行っていただけの状態だったのだ。
 そんな時、失敗に終わった、荻谷少年のよる活性化作戦であったが、マスゴミが動いているなど、まったく知らない中、肉屋に近づいてきたのが、例のジャーナリストだった。
 彼は、肉屋に、
「あなたは、荻谷少年のことをご存じですか? 昔はオオカミ少年などと言われていたけど、今では立派に予言者のようになっている少年のことなんですけどね」
 と話しかけてきた。
 もちろん、知らないわけはないが、この男が何をいまさらそんなことを聞いてくるのか計り知れないでいると、何も言えない状態だった。
「知っていますけど、それが何か?」
 と、けんもほろろという感覚で話すと、今度はいきなり、
「以前、地上波でドキュメンタリー番組が製作されたのは、当然ご存じですよね?」
作品名:小田原評定 作家名:森本晃次