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ずさんで曖昧な事件

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 年齢は、今年で、35歳になる白河よりも、2つ下の、33歳だった。年齢が近いことも、話が合う理由かも知れない。
「けど、面白いよな」
 と、芦沢君は言った。
「どういうことだい?」
「もし、これが大学時代だったら、2歳の年の差って、結構差があるような気がするのに、30歳を過ぎてしまうと、本当に近いと思うんだからね。学生時代なら、絶対に敬語を使っていたはずなのに、今ならため口でも、そんなに違和感がない。いいことなのか悪いことなのか」
 という芦沢に。
「確かに。でも、それはそれでいいんじゃないか? いいことなのかどうかまでは分からないけど、お互いにそれでいいんだから、気にすることもない」
 と、白河は言ったが、芦沢という男が、思っていたよりも、神経質なのか、細かいところを気にする男だったのだと思った。
 話をしていくうちに、芦沢というのは、
「他の人と違って、他の人なら気にしないことを気にしてみたり、逆に、気にすることに関して、寛大であったりする」
 という、ちょっと変わったところがあった。
 それを、
「天邪鬼だ」
 とまでは思わないが、少なくとも、自分とは違ったところがあるのは分かったのだ。
 だからと言って、白河は、自分が、普通の人のようだなどとは思っていない。
 むしろ、
「俺は、他の人と同じでは嫌なんだ」
 というところがあり、そこが、自分の特徴だと思っている。
 だから、自分とは違う芦沢に興味を持った。なぜなら、芦沢が、自分とも、いわゆる。
「普通の人」
 と言われる連中とも違う人間だということが分かったからで、そんな芦沢を見ていると、人間というのは、
「マイナス×マイナスが、プラスになる」
 というような、数学の公式になど当て嵌まるものではないと思っていた。
 人それぞれに性格が違い、同じに見える人でも、どこかが違っている。
「血の繋がりのある人は、どうしても似ていて、親子などは、基本的に似ているものではないか?」
 という話をよく聞くが、白河は、自分が、最初から、皆似ているはずがないと思っているからなのか、その言葉を信じていなかった。
 白河には、妹がいて、その妹が、数年前に交通事故で死んだのだが、その時までは確かに、
「肉親は、性格もよく似ている」
 と思っていた。
 だが、妹が死んでからの白河は、何か自分の中で感情が変わってしまったのか、
「俺たち兄妹は、似ていなかったのではないか?」
 と思うようになっていた。
 それは、妹が死んでから、思い返してみると、
「俺って、妹のことを知っているようで、ほとんど知らなかったんだな」
 と感じたからだった。
 妹の名前は、白河景子と言った。そして、妹とは、一緒には暮らしていなかった。
 白河が大学を卒業してから、一人暮らしを始めた白河だったが、妹の景子も、大学を卒業してから、一人暮らしを始めた。
 親は、
「大丈夫なの?」
 と、少し心配していたが、
「何言ってるのよ。大丈夫よ。仕事に行くのに、なるべく近い方がいいから」
 と言って、実家からは、白河の家から反対になるところに、景子は部屋を借りて、一人暮らしを始めていた。
 お互いに一人暮らしを初めてから、そんなに連絡を取ることもなかったが、事故で死んだ妹の話を聞いて、ショックからか、しばらく、放心状態のようになり、何も手につかなくなった白河だが、
「時が解決してくれる」
 という言葉通り、あれだけ、何をしていいのか分からなかった時期が続いていたにも関わらず、ある日を境にぷっつりと、糸が切れたように、前の白河に戻っていたのだ。
 だからと言って、白河は、妹のことを忘れたわけではなかった。たまに夢に出てくることもあるくらいで、ただ、その夢というのは、あまりいい夢ではなかった。
 そうであるにも関わらず、その見た夢を、目が覚めるにしたがって、忘れていくのだった。
 白河が夢に対して持っている意識というのは、
「覚えている夢というのは、悪い夢が多くて、逆に、覚えていたいと思うようないい夢は、目が覚めるにしたがって忘れていくものだ」
 という意識であった。
 それなのに、妹が夢に出てきた時は、確かに怖い夢だったり、思い出したくないと思うような夢であるはずなのに、実際に目が覚めるにしたがって忘れていくという、意識まで、おまけでついてきたのだった。
 これは、忘れてしまったから、本当は楽しい夢だったものを、怖い夢だったと、勝手に解釈しているからなのか、それとも、本当に怖い夢であっても、妹に関係していることは、漏れなく忘れてしまうという、何かのスイッチがあるのかのどちらかではないかと思っている。
「それは、俺にとっての妹を考えるからなのか、俺が自身が、妹にとってどういう存在なのかということを必要以上に考えるからなのか」
 そういう理屈であれば、理解できないこともないような気がしたが、なぜかそれ以上考えることをしなかった。
「いまさら考えたってどうしようもない」
 という意識なのか、
「考えても妹は戻ってこない」
 という意識なのか、
 もし、後者であったとすれば、白河自身に、何か後ろめたいことがあり、それが、夢に出てきた妹の意識が、目が覚めると消えているということへの解釈として、自分を納得させられることではないかと感じたのだった。
 白河という男がそういう人間だということを、友達の芦沢は分かっているのだろうか?
 誰にでも話をするわけではない芦沢も、白河が、
「俺だから話してくれているんだ」
 ということを分かっているからこそ、白河の話を真剣に聞いているのだ。
 白河は、ずっとそういう相手を探していて、他の人だって、人生の中で何度そんな人に出会うか分からないというほど、希少価値な相手を見つけることができて、幸運だと思っている。
「これだったら、奇跡と呼んでもいいかも知れないな」
 と思っているほどで、そんな白河に対して、芦沢も同じようことを考えている。
 しかも、同じようなことを考えている二人だが、その考えるタイミングは少しずつずれている。
 普通、まったく同じタイミングという方がおかしいのだろうが、二人の場合には、その考えるタイミングに一定のインターバルがあり、そのタイミングはいつも同じだったのだ。
 つまり、自分が先に考えたことを、1時間後に、芦沢が考えるというタイミング。ただしそれはすべての感覚がそうだというわけではなく、考えていることの中でも、どちらかが重要だと思っていることの場合にあるようだ。
 このことは、白河は意識していた。
 といっても、二人の間にそんな感情があるということを感じていたわけではなく、人間関係の中で、そういう感情を持ち、そして、その感覚で暮らしいる人が、一定数はいると思っていたのだ。
 どこか、都市伝説やオカルトっぽいような話であるが、この感覚を思いついた時、まるで、
「目からうろこが落ちた」
 かのように感じ、自分の小説にそんな話を書いたものだ。
 最初は、
「五分前を絶えず歩いているもう一人の自分」
 ということをテーマに小説を書いたことがあったが、その発想の発展形がこの発想だと思ったのだが、実際には、この小説を書いている時、
作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次