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ずさんで曖昧な事件

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 皆で4,5人くらいの仲間内でのランチのようだが、一人がそう言って、出しゃばったようにレジにいくと、別の奥さんが、
「あら、奥さん、いけませんわ。今回は私が」
 と言って、伝票を奪おうとする。
 すると、他の奥さんも負けじと、先を争って、醜い争いが始まるのだ。後ろで待っている人がいようがどうしようが関係ない。
 要するに、この場のマウントを取り、今後の自分の立場を、グループ内で確固たるものにしたいという下心が見え見えなのだ。
 そんなのを見ていると、誰も文句を言わないのは、きっと、下手に文句を言って、変な因縁をつけられて、さらに時間が経ってしまうことを嫌うからだろう。
「別に、こんなおははんたちが怖いわけでもなんでもない。要するに、時間が無駄に過ぎるのが嫌なだけだ」
 と思っているのだろう。
 こんなおばさんどもと口を利くことすら、ヘドが出ると思っていることだろう。だから、なるべく関わらないようにしようとする。白河も最初はそうだった。しかし、途中から、
「こんなおばはん連中を、一時でも見るのが嫌だ」
 と思うようになり、一度文句を言ったことがあった。
「すいません。こっちは待ってるんですけどね」
 というと、案の定、おばはん連中は、
「何言ってるのよ。今は私たちの時間でしょうが、部外者は引っ込んでおいて」
 とあたかも、正義は自分たちにあるとでも言いたげな態度に出てきた。
 少し面白くなり、どんな会話になるのか、腹を立てずに、進めてみた。
「いやいや、こっちは待ってんだ。あんたらだけの店はないんだよ」
 と、わざと神経を逆撫でするようなことを言った。
 もちろん、本人は冷静で、言っている言葉を冷静に聞いていたのだが、
「何、あなた、私たちに文句でもあるの?」
 と、明らかに胸を突き出すようにして、恫喝してきた。
 思わず吹き出すのを堪えたが、それは、こっちが、想像したのと寸分狂わぬような返事が返ってきたからだった。
 いかにも、これだけでも、もう手詰まりを感じさせたのに、相手はさらに、
「あら、どうしましょう。奥様方、この人が私に因縁を吹っかけてくるんざますよ」
 というではないか。
 もう完全に笑いを堪えることができなくなった。
 会話で興奮してくると、方言が出るという人は結構いるが、こんなマンガでしか見たことのないようなセリフを本当に話す人がいるなんて、想像もしていなかった。もう、これは笑いを抑えておけないのも当たり前というものだ。
 それでも、顔が緩んでいるのを分かっていながら、
「本当にあんたら、どうしようもないな」
 とそれだけいうと、まわりからもくすくすと聞こえてきた。
 その笑い声が自分に向けられているものなのか、相手に向けられているものなのか、白河は、この時だけは、
「自分に向けられている笑いでも構わない」
 と思っていた。
 自分に向けられているということが、相手にも向けられているということであり、この時ばかりは、
「このおばはんたちを道連れにするのも悪くない」
 と思ったのだ。
 白河は、時々このような理不尽な相手と言い争いになったり、その時のように、わざと怒らせるようなことをした時は、相手を道連れにしていいと思っていたのだ。
 最初から覚悟の上であれば、復活は簡単にできると思っていて、その分、相手は最後まで、自分が正しいと思っているのだから、まわりの目がどういうことになっていようが、事情を理解もしていないだろう。
 こっちとすれば、
「世間は、その時、俺にも変な目を向けるだろうが、時間が経つにつれて、相手の方が印象深くなるので、俺のことはすぐに忘れてしまうに違いない」
 と、考えていた。
 だから、こんな時。敢えておばはんたちを煽ったとしても、自分が損をするということはないと思うのだった。
 実際に、この方が本人も苛立ちが残らずに済むし、おばはん連中に対して、鉄槌も食らわせることができたと思うことで、満足できるのである。もちろん、そんなことを考える人がいるはずもないので、白河は、
「俺のようなやつはいないだろうな」
 と思っていたが、大学に入ると、同じような考えで、また同じような行動をするやつが結構いて、潜んでいることが分かったのだ。
 しかも、そういう連中とは、
「出会うべくして出会った」
 と思えるような仲になるのであって、結構、話をしているだけでも、時間が経つのも忘れて、楽しい時間を過ごせるというものだった。
 他の人から見れば、
「なんて変な連中なのだろう?」
 と見えることだろう。
 しかし、実際にやつらは、自分で行動もしないで、
「おばはん連中なんか放っておけばいい」
 といいながら、精神的に苛立ちが残っていて、自分よりも立場の弱い人間を口撃する形でストレスを発散させるという、これが上司であれば、
「パワハラ」
 ということになるのであろう。
 本当は、そんなおばはんたちは無視するのが、
「大人の行動だ」
 ということなのだろうが、そのために、余計なストレスをため、人に八つ当たりをしてしまっては、本末転倒というものだ。
 怒りの矛先を見失ってしまうと、結局、最後には自分に返ってくる。しかも、後悔というおまけつきでである。それを思うと、考え方においての、
「合理性」
 がいかに大切であるかということを感じた白河だった。
 白河は、友達と一緒に、レストランに行った時、たまたま、そんなおばはんたちを見かけた。
 初めて見るおばはんたちだったのだが、その時は、自分たちが、そのおばはんたちの前に入って、おばはんのやるようなことをしてみたのだ。
 すると、案の定、おばはんたちは、
「あんた何してんのよ。早く払いなさいよ」
 と、いつもの恫喝をしてきた。
 その瞬間、白河と友達は目を合わせて、にやりと微笑んだ。
「まあまあ、焦らずに」
 と、相手をサラリとかわすような言い方をした。
 こういう時は、決して怒りをあらわにしてはいけないのだ。
「何言ってるのよ。一体、あんたたち、どういう育ち方をしてきたの? 親の顔が見たいわ」
 というではないか。
 さすがにここまで無様な回答が返ってくると思ってもいなかったので、本当に笑いがこみあげてきそうだった。そして、心の中で、
「あんたらの子供も見てみたいわ」
 と、一瞥したいくらいだったのを、必死で堪えた。
 今のセリフが聞ければ満足で、レジで困っていたお姉さんに、
「ごめんね、これでスッキリしたので、これ、二人分」
 と言って、一万円札を出した。
 お姉さんも、苦笑いをするだけだったが、同じ気持ちになってくれているといいのにと思ったが、そこまではないだろう。
 おばはんたちはというと、
「何、それ、最初から二人分払いなさいよ」
 と、心の中で叫ぶならいいものを、口出していうのだった。
 さすがに、レジの女の子も、おかしかったのだろう、必死で笑いを堪えていた。ひょっとすると、彼女も、おばはんたちの回答を想像していて、想像通りだったことで、笑いが出たのかも知れない。
 それでも、おばはんたちは、ここにいる全員が、自分たちを嘲笑っていることに気づいていないようだ。
作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次