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ずさんで曖昧な事件

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 そんな悪党の中の悪党は、そういうテクニックを持っているものだ。
 しかも、それにコロッと女性が騙されるのも、騙されるような隙を女性の側が作っているのも原因だったようだ。
 何も女性が悪いわけではない。悪いのは男の方だ。
「女の弱いところを見つけ。そこに付け入ることが、藤原という男の特技のようなものだとすれば、やはり、藤原という男は、極悪だといってもいいだろう」
 と、みんな、全会一致で例外なく、そのことを感じるだろうと思うのだった。
「藤原は女の敵であり、男の面汚しだ」
 というような男であろう。
 警察は、それを分かっていたが、自殺したことを詮索するわけにはいかなかったので、せめて調書に藤原の悪行を書いておくことで、
「きっとやつのことだから、今後のろくでもないことをしでかすに違いない」
 と思い、わざと残しておいたのだ。
 それが、今役立っているというわけだ。
 今回、殺人未遂の被害者として名前が出てきたが、調べれば調べるほど、垢が出てくるのだ。
「やつのことを擁護する人間など誰もいるはずがない」
 と、調べれば調べるほど出てくる。
 ただ、これは不思議なことであるが、彼がいろいろな犯罪めいたことをしてはいるが、その時出てくるのは皆女性の名前ばかりで、男性の名前はどこにも出てこない。
 女をたぶらかしたりするだけならまだしも、たぶらかせた女は皆経理関係者で、最終的に、お金の横領という目的のために、女を使っているだけだった。
 それだけのことを毎回しているわりに、一人でやっているとも思えない。何か裏に潜んでいる人物、あるいは組織があってもよさそうなのに、何も出てこないのは、却っておかしいと思っている刑事もいるにはいた。
 今度の殺人未遂の被害者に、この男がなっているということに、不審を抱いている人だって他にもいるだろう。
 白河の妹が、白河のことを好きだったのを知っているのは、親友だけだった。彼女は、妹が死んだことで、彼女自身も相当なショックを受けていた。
 二人は、お互いの存在がなければ、孤独だと思っていた。
 ただ、一ついえば、妹が白河のことを好きだということを知って、親友の心の中に、
「嫉妬心」
 のようなものが浮かんできたのも事実だった。
 というのは、
「親友の私にとって、あなたは、なくてはならない存在であり、あなたがいなかったら私は孤立しているのよ。だから、あなたには感謝している。だけど……」
 と、親友は考えていた。
 そして彼女は、
「だけど、あなたには、兄という人の存在がいる。私とお兄さんとどっちが大切なの?」
 と聞いてみたい衝動に駆られていた。
 しかし、それは絶対にできない。
 それをしてしまって嫌われてしまったら、本当に本末転倒だ。自分で孤立の道を選ぶことになる。
「私は孤立が怖いわけではない。あなたを失うのが怖いのよ」
 と、妹に対しての気持ちのメカニズムが、一つ分かってくると、あとは、雪崩を打ったように分かってくるのだった。
「自分も、彼女を好きなのかも知れない。女同士の恋愛感情、いわゆるレズビアン……」
 とそんなことを考えていると、最初に彼女が、
「兄のことを好きだ」
 と言った時に感じた彼女に対しての嫉妬心は、単純に男と女というだけではなく、肉親という血の繋がりの強さへの嫉妬だったのかも知れないが、
「男女ということに対しても感じていたのかも知れない」
 というのは、その嫉妬を、親友という友情から来るものだと思っていたからだった。
 しかし、自分が、彼女を愛情をもって、愛していると感じるようになると、自分が男女の関係というものに対しての、競争心が強いことを感じた。
 となると、肉親だけではなく男女の関係にも、憎しみがわいてくるのである。
 それを思うと、親友の中で、どんな思いが渦巻いているのか、自分でも収拾がついていないのかも知れない。
 そんなことを感じ始めると、まるで分かったかのように、彼女は、親友から距離を持つようになった。
「私のせいなのかしら?」
 と感じるようになった彼女は、これをすべて誰かのせいにしないと耐えられない気持ちになってきた。
 そこで、彼女が付き合い始めたという藤原の存在を、彼女は仮想敵のように思うようになった。
 そんな親友の存在を知った藤原は、彼女をも、自分のものにしようと企んだふしがあった。
 それを分かっているのは、親友の彼女だけで、妹にすら分かっていなかったことだろう。
 だから、妹は、親友がまさか、藤原に食指を伸ばしているなど思ってもいなかった。
 ただ、それは、妹に対しての反発心からであって、藤原を好きでもなんでもなかったのだ。
 だから、彼女だけが、冷静な目で藤原を見ていたので、藤原の男としての神通力は通用しない。
 そう思うと、藤原はさっさと彼女から身を引いたのだ。
 藤原は、
「俺の自由にならない女なんて、いらないさ」
 と思っていた。
 女を、金を横領する手下のように思っているのと、性欲のはけ口としてしか思っていない藤原らしいではないか。
 だが、藤原の恐ろしいのは、親友が、自分に近寄ってきたことを、妹に話したことだった。
 それまで全幅の信頼を寄せていた彼女が、
「まさか私を裏切るなんて」
 と思っていたのだった。
 その思いがあるから、妹は自殺したのだろう。
 それが、妹の自殺の、
「隠された秘密」
 だったのかも知れない。

                 大団円

 妹の親友である女は、市子という名前だった。
 実は彼女の名前の由来は、父親が、滋賀県の近江の出身だったことから名づけられた。
 それは、織田信長の妹で、
「戦国の悲劇の姫」
 として名高い、あの、
「お市の方」
 から名づけられたものだった。
 浅井長政に嫁ぎ、
「茶々、初、江」
 という、いわゆる、
「浅井三姉妹」
 を世に送り出し、自らは、柴田勝家とともに、越前の北ノ庄にて、自害することになる悲劇のヒロインである。
 お市の方というと、兄を助けるため、夫を裏切ったこともあるほどだと言われている、
 金ヶ崎において、浅井浅倉連合軍に挟み撃ちにされるのを、小豆を入れた袋の両側を結ぶという暗示で、知らせたことでも有名である。
 それだけ、精神的に追い詰められていたお市を、名前につけるというのは、それだけ良心が、お市の方に対しての思い入れが大きかったからではないだろうか。
 今では女性でも、
「歴女」
 などと呼ばれて、歴史に詳しい人が多くなってきているが、昔は、歴史上の人物を名前に入れても、本人が言わなければその由来は分からないことだろう。
 だから、敢えて、お市の名前を使ったのかも知れない。
 それでも、由来に気づいた人もいたようで、中学、高校時代と、あだ名は、
「お市」
 だったのだ。
 みんなはそんなに歴史に詳しいわけではないので、
「戦国一の美女」
 という触れ込みから、お市というあだ名が、悪い意味ではないと、皆が思っていたからであろう。
 確かに、お市と呼ばれることに、市子は違和感を感じることはなかっただろうが、もし、他の人だったら、
「微妙だったのではないか?」
 と、感じるのだった。
作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次