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ずさんで曖昧な事件

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 それが、姉川が書いた小説であり。白河がそれを見て、
「自分と同じ境遇だ」
 ということを感じた相手だった。
 芦沢は、二人が同じ投稿サイトに書き込んでいるということを途中まで知らなかったので、軽い気持ちで、
「このエピソードが、小説のネタになればいいのにな」
 ということで話したのだった。
 実際には、知らない人であれば、姉川の小説と、白河の過去が同じエピソードとは思わないだろう。
 話を聞いて書いた小説なのだから、当然ところどころが違っていて、肝心なところも、完全に違っているのだから、
「普通は、関連があるなんて、思わないよな」
 と感じて当然であった。
 しかし、白河としては、自分のことなので、少なからずビックリした。
 まさか、エピソードを芦沢が漏らしているなどということを知らずに、その話を読んで、白河としては、
「自分のエピソードって小説のネタになりそうな話題だったんだ」
 という程度にしか感じなかった。
 そして、自分のエピソードだということを明かさずに、SNS上でだけ仲良くなったのだから、これは、普通にあることで、珍しいことでもなんでもない。
 しかし、芦沢としては、
「俺がエピソードを話したということを知られてはいけない」
 と思うようになったのは、白河から、
「最近、投稿サイトで仲良くんあった人がいるんだ」
 と言われたからだ。
「ほう、お前にしては珍しい」
 というほど、白河は、投稿サイトに投稿はしていたが、他の作家に対しては、ライバルとしてしか見ておらず、仲良くなるなどということは、ちょっと考えられないようなことだったのだ。
「それは、どんな人なんだい?」
 と、軽い気気持ちで聞いてみると、
「俺の過去にあった、妹の話を知っているだろう? あの話に似たような小説を書いている人がいて、長政さんというペンネームの人なんだけどね」
 というではないか。
 それを聞いて、芦沢はビックリしてしまった。
「確かに二人は小説を書いているというのは知っていたし、書いた作品をどうしているのかということまでは知らなかった。小説を書く人もそれなりにいて、新人賞に応募して、プロを目指そうとしている人もいれば、投稿サイトに投稿し、プロとは関係なく、小説を書くことを趣味や生きがいにしている人、それぞれある。しかも、今は投稿サイトというものが、全盛期に比べれば、少しすたれてきたとはいえ、数とすれば、かなりのところがサイトを運営しているだろう。しかも、ジャンルにもいろいろあって、その得意分野での活動になるだろうから、二人が同じサイトに投稿していたというのは、かなりの偶然ではないか? しかも、その中で仲良くなるなど、まるで砂漠で砂金を探すようなものではないか?」
 と、姉川は思った。
 そして、考えたのが、
「この二人、サイト上だけでの仲間でいてくれればいい」
 と思ったことだった。
 サイト上での会話だったら、姉川が、自分の小説のネタを、まさか人から聞いたとは言わないだろう。
 少なくとも、相手が、
「似たようなエピソードを実際に経験した」
 と言っているのだから、人から聞いたというと、まるで盗作のように思われると感じるからではないだろうか。
 だが、これが、面と向かうことになると、どこから、エピソードのことを、芦沢が話したということが分からないとも限らない。
 この喫茶店に、幸いなことに、白河を連れてきたことはなかった。
 白河という男は小説を書くときは場所を決めている。それは姉川も同じなのだが、今のところ、二人の共通点はなかったので安心だったが、ニアミスは、怖かったのだ。
 もし、芦沢が白河のエピソードを話したことが分かり、それを姉川が小説に書いたとすれば、どうなるだろう?
 今は、同じ発想の相手ということで、SNS上でだけの知り合いなので、小説談義ができているのだろうが、リアルとなると、間違いなく、人間的な面を相手に見ようとする。
 そうなると、エピソードを盗作したという感覚になってしまうと、下手をすれば、憎らしく感じるかも知れない。
 芦沢に対しての風当たりも強くなる。さらに、姉川の方としても、さらに孤立してしまい、そうなったことで、芦沢を恨むことになるかも知れない。
 一気に友達を二人失うのはきつかった。
 芦沢も友達はほとんどおらず、今の友達は、ほとんどこの2人と言ってもいいだろう。
 芦沢は、孤立することを怖がっていた。それは、姉川よりももっときつい気持ちで思っていたのだ。
 だから、芦沢にとって、この二人から嫌われることは、
「死活問題」
 だったのだ。
 芦沢だけが、二人のことを知っていたのか、その問題もあったが、芦沢は決して、二人の思惑に関係することはなかったようだ。
 だが、芦沢が藤原を知ることになって、状況が変わってきたのは間違いないようだ。
 藤原という男がどれほどの悪党だったのかというのは、知っている人は知っているだろう、
 そんな藤原のことを憎んでいる人は結構いたはずなので、警察の捜査が続けば、ボロボロと出てくるに違いない。中には、
「本当に殺してやろう」
 と思っていて、虎視眈々と狙っている人もいるに違いない。
 藤原という男は、バックに、ヤバい連中がついているわけではない。そのくせ悪党なことをするのだから、下手をすれば、ヤバい人たちからも狙われている可能性は無きにしもあらずと言ったところであろうか。
 しかし、さすがに、やつらのようなヤバい連中は、藤原のような小物を、標的にすることはないだろう。何か弱みを握られていたり、組織の尊厳を汚すようなことをした場合は容赦はしないだろうが、こんなセコい殺人未遂などあるわけはない。
 藤原のことを、警察も調べているうちに、いろいろ分かってくるのだったが、どれほど汚いことをしてきたのか、彼のことを調べているうちに、そして人に聞いていくうちに、一人として、彼をいいように言うやつがいれば、見てみたいというものだ。
 やつは、今無職であった。前の会社の人に聞いてみたが、
「藤原というやつは、とんでもないやつですよ。最初は会社の同僚の女の子に手を出して、妊娠までさせて、ポイと捨てたらしいです。会社の方も、それを知っていたようなんですが、変なウワサを立てられるのが嫌で、一度だけ許したそうなんですが、今度は会社のお金を横領するようなことを、ねんごろになった経理課の女の子にさせたらしいんです。それがバレて、完全に懲戒解雇ですよ」
「会社が訴えたりしなかったのかな?」
「したと思いますよ。とにかく、ロクなウワサは聞かないからですね。前の会社でも似たようなことをして、クビになったらしい。うちの会社もなんで、あんな奴を一発でクビにしなかったんだろうな?」
 というので、少し調べてみると、最初の不祥事の時には、藤原は会社の表に出てはいけない事情を知っていたので、それをバラされると困るので、しょうがなくクビにできなかったという。
 しかし、本当に会社の金を横領数となると、今度は会社も真剣になった。そして顧問弁護士と相談して、やつの身動きが取れないようにして、クビにしたということだったが。クビになってからは、しばらく一人でいたという。
作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次