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ずさんで曖昧な事件

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 結婚前に付き合っていた女性には、元々、結婚を約束までしていた男性がいたという。その人と、何があったのか分からないが、どうも彼女が男から裏切られたのではないかというのが、まわりの雰囲気だった。
 知り合って間もない頃だったので、そんな過去のことを知らずに、姉川は彼女のことを好きになっていた。若い頃の姉川は自分の気持ちを抑えることができないからか、まわりに感情がバレバレだった。それを見た、おせっかいなおばさんたちが、姉川をけしかける。
「好きなら、告白しちゃえば?」
 と言って、映画の招待券をくれた・
「これで、デートに行っておいで」
 と、背中を押してくれた。
 元々、告白しようか、どうしようかを迷っていたので、背中を押された勢いで、デートに誘うと、OKしてくれた。それが最初のデートだったわけだが、せっかくのデートは楽しかったのだが、彼女が数日後、
「やはりあなたと付き合っていく自信はない」
 という。
 姉川としては、訳が分からない。その理由を、おばさんたちが教えてくれた。そういう過去があるのであれば、仕方がないと思ったが、諦めるわけにもいかなかった。
「泥臭くてもいいから、必死にしがみつく」
 という思いが姉川にあって、
「彼女の中で、少しずつ自分の存在を大きくしていけば、きっとうまくいく」
 と思って、必死で繋ぎとめた。
 それが誠意だと思ってくれたのか、彼女は次第に姉川の方を向いてくれるようになり、付き合い始めた。
 だが、それも長くは続かなかった。
 ゆっくりと愛を育んでいきたいと思っている姉川と、早く結婚したいという意識を持っていた彼女との間で、二人の思いは交錯するのだった。
 そのうちにどちらからともなく冷めた感じになり、結局は自然消滅してしまったのだ。
 最初はそれでもよかったのだが、しばらくすると、激しい後悔に襲われたのは、姉川の方だった。
「あわやくば、もう一度」
 と考えたりもしたが、結局、姉川は転勤することになり、彼女と疎遠になってしまった
 連絡を取ることもかなわず、結果、その転勤がとどめになってしまったのだが、それがよかったのか悪かったのか、転勤した先で出会ったのが、元嫁だったというわけだ。
 元嫁には、過去のことを話しをしていた。それでも、彼女は、
「前のことなんでしょう?」
 といって、気に留めないでくれた。
 それを姉川は、
「大人の対応だ」
 と感じ、好きだった彼女とは違った、
「大人の女」
 を感じさせられたのだ。
 だが、その奥さんと離婚したことで、またも、後悔したことを思い出した。あの時の彼女のことは記憶の中で、おぼろげに残っているだけだったが、後悔だけは、あの時の感覚そのまま、残っていたのだった。
 あれから20年、出会った女がその時の彼女を思い出させる。ただ、出会った女には、大人の女を感じさせるというよりも、
「40代の男から見た、20代の女」
 という目だったのだ。
 だが、付き合っている時は、自分も20代になっていて、
「失った青春を取り戻す」
 などという格好のいいセリフが似合う感覚だったが、これも、幻だったのだ。
 そもそも、姉川というのは、どちらかというと、女性から気を遣ってもらって、それを癒しと感じる方だった。
 自分から女性を従わせるなどという感覚はなく、自分を慕ってくれる女性を好んでいたのだ。
 だから、今までの別れは、きっとそんな姉川に対して、尽くすことが、自分の本望ではないと思った、あるいは、気づいたことで、お互いの関係がぎこちなくなったのだろう。
 姉川は決して相手を拘束しているつもりはない。相手が自分を慕ってくれて、それが癒しになっていると思っているからだが、相手の女は、姉川のそんな中途半端な感情を、束縛だと感じたのではないだろうか。
 だから、途中からぎこちなくなり。姉川を遠ざけようとする。それで、自分を再度見つめなおそうとするのだが、姉川には、わけもなく、自分から遠ざかっているようにしか見えないのだ。
 そう思うと、姉川には、
「裏切られた」
 という、トンチンカンな発想が生まれてくる。
 かたや、拘束されているという思いと、かたや、裏切られたという思いとが交錯してしまうと、その修復は不可能に近いといってもいいだろう。
 あとは、後腐れなく別れることができるかということだが、そこも、時間が微妙な影響を与えるだろう。
 ぎこちない期間が長すぎても短すぎてもダメだ。タイミング的に絶妙な時でなければ、破局は悲惨なものになる。
 それは、またしても、後悔が残るということだ。
 残ってしまった後悔は、若い時よりも、短かったのだが、それは感覚的なものであり。
「30代を過ぎると、時間というのもは、年とともに、坂道を転がり落ちるかのように、あっという間に過ぎ去っていく」
 と言われるが、その感覚に比例しているわけで、実際の期間というのは、そんなに変わらない。
 要するに、
「無為な時間を無駄に過ごしてしまった」
 ということを、繰り返しているだけだ。
 20代の時の感覚とは違って、無為を無駄に過ごす後悔がどんなものなのか、分かってくる気がした。
「人生、まだまだ先が長い」
 といって、余裕を感じていた時期が懐かしい。
 まるで昨日のことのように感じるが、気づいてみると、20年が経っていて、ハッと思わせることになってしまうのだった。
 その女と一緒にいた1年は、楽しかったと思っている。それを思い出にできているだけいいのかも知れないが、それを思い出にできるようになるまでに費やした期間というのは、付き合っていた期間よりも、さらに長いものだった。
「何をやっても、うまくいかない。しかも、恋愛は、人生でこれが最後だったんだ」
 と思うと、これからの自分が何を求めていいのか分からなくなってくる。
 彼女と付き合うまでは、
「もう、恋愛なんかせずに、孤独な人生を、いかに楽しく過ごしていけるか?」
 ということを考えながら、その答えが見つかっていたような気がした。
 彼女と出会えたのも、その答えを見つけたことで、気持ちに余裕ができたからだと思っていたが。結局、また破局を迎えると、せっかく見つけた答えを、忘れてしまっていたのだ。
 それを思い出すのに、付き合っていた期間を含めると、一体何年、遠回りして戻ってきたというのか、無駄だったといっていいのだろうか?
 その後は、本当に女性と付き合うということに対して、一切の興味を示さなくなってしまった。
「年齢的なものなのか、それとも肉体的なことなのか?」
 と考えたが、肉体的なものではなさそうだ。
 まだまだ性欲もあるようで、ただ、女性と付き合うということが億劫で、面倒くさいということを、やっとこの年になって悟ったというわけだ。
「どうして結婚なんかしないといけないんだ?」
 という思い、形式的に考えれば、昭和の考え方として、
「家系を守っていく」
 という、古めかしいものから、
「少子高齢化に歯止めをかける」
 という、日本人としてのリアルな問題に、
「個人である自分が関わることで、どうして、こんな嫌な思いをしなければいけないんだ?」
 と考えると、
作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次