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探偵小説のような事件

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 とくぎを刺しておいて、
「それは大丈夫です。ご心配にはいりません」
 ということだったので、
「彼女の方、大丈夫ですか?」
 とまずは一番気になっていることを訊ねた。
 それをハッキリさせておかなければ、気になって事情聴取どころではないからだ。
「ええ、それは大丈夫のようですね。傷口は比較的浅いようです。急所も外れていたということですね」
 と刑事がいうと、
「そうですか。私も悲鳴を聞いて急いで飛び出したので、犯人は臆したでしょうね。そのあと彼女に次の一撃を加えようとしているわけではなかったからですね」
 と杭瀬がいうと、
「そうかも知れませんね。そういう意味でいうと、あなたがいてくれたことで、彼女は殺されずに済んだのかも知れません。そういう意味では感謝しかないですね」
 と、もう一人の刑事がいうと
「そう言っていただけると助かります」
「ところで、あなたは、犯人をご覧になったんですか?」
 と聞かれて、
「ええ、犯人は見ましたが、ただ、逆光だったので、顔や服装の詳細は分かりません。分かっているとすれば、背が比較的低かったように思うので、男だとは言えないような気もします。逃げる時も、走り方がぎこちなかったので、わざと男だと思わせようとしたという見方もできると、ひょっとすると、犯人も方でもけがをしているのかも知れないと感じました」
 と杭瀬は言った。
「なるほど、確かに女性の可能性もありますね。そうだとすれば、傷口が比較的浅かったのも分からなくもない。犯人が女性であれば、何回か刺すつもりだったのかも知れないが、彼女の悲鳴を聞いてあなたが駆けつけたことは、計算外だったのかも知れないですね」
 と刑事は言った。
「でも、襲うのだったら、何も、こんな中途半端な時間に襲わなくてもいいように思うんですけどね。ということは犯人は、通り魔ではなく、彼女本人を狙った犯罪だということになるんでしょうか?」
 と、杭瀬がいうと、
「そうですね、我々は今の状況では、そうだと思っています。通り魔であれば、何かを奪おうとしたのか、それとも、一気に殺そうとしたのかですが、最近、この付近で通り魔が出たという話は聞いていないので、可能性的には通り魔の可能性は低いかも知れないですね。でも、これが初犯で、最初に成功したとすれば、こういう犯罪は繰り返すでしょうから、犯人逮捕に時間をかけるわけにはいかない。犯人が次を虎視眈々と狙っているとすれば、未然に防ぐためには、次の犯行を起こす前に、犯人を逮捕する必要がありますからね」
 と刑事は言った。
「その通りだと思います。だけど、私も、犯人をハッキリ見たわけではないので、どこまで協力できるかだと思うんですが、あのあたりは人通りも少ないところなので、防犯カメラとかあるんですか?」
 と杭瀬が聞くと、刑事は複雑な表情になり、
「あ、いや。あのあたりにもカメラが防犯必要だということは申告はしているんですが、なかなか設置をするという話にならないのが実情で」
 と刑事がいうと、杭瀬は呆れたような表情で、
「何言ってるんですか? 刑事さんはあそこで、以前にストーカー殺人事件があったのをご存じないんですか? 一度犯罪が起こっている場所の防犯を躊躇するなんて、警察って、本当に、何かが起こらないと動かないと思っていたけど、今回は、事件が起こってお動かないんですね?」
 と皮肉を込めていうと、刑事の方も、申し訳ないという顔になって、
「何を言われても、反論できないです」
 と、委縮しているようだった。
「まあ、今はそういうことを言ってもしょうがないんだけどね」
 と、言ってすぐに話をそらせた。
 刑事の方も、
「助かった」
 という顔になったが、これは、杭瀬のいつものやり口で、悪い癖でもあった。
 自分に少しでも、有利なことがあれば、それで恫喝し、マウントを取ることで、その場の自分の位置を保とうとする。
 しかし、それは決していいことではないが、彼が言っていることに間違いがないということを示している。間違いがあれば、相手を恫喝することも従わせることもできない。ただのわがままだと思われても仕方がないからだ。
 だからこそ、彼のモットーは勧善懲悪なのだ。自分の言っていることが正しいのだから、自分が正義だと思い、勧善懲悪に走ったとしても、それは無理もないことだ。だから、今回も、最初は女性を助けたことを鼻にかけるようなことをせずに、
「当たり前のことをした」
 ということをまっとうしようと思っていたのだが、それなのに、勧善懲悪の代表である警察が、こともあろうに、上に忖度し、悪に屈する形で、正義を振りかざさなければいけないはずのその時に、何もせずに悪に屈するのであれば、勧善懲悪などどこに行ったというのだ。
 警察が公務員であるということを忘れているのか? だから、税金泥棒と言われても仕方がない。
「どうして、政治家も公務員関係も、こうも税金泥棒ばかりなのだろう?」
 と市民から思われても仕方がないだろう。
 せっかく、警察権力というものがあるのに、勧善懲悪のために使うのが警察ではないのか?
「強気を助け、弱気をくじく」
 などという今の警察を、正直垣間見た気がした。
 本来なら、市民の盾になってでも、勧善懲悪を完遂するのが警察というのではないか、それができないのであれば、誰がやるというのか。せっかく今回は殺人事件にならなかったというだけで助かったといえるのに、このまま犯人を逮捕できずにいれば、警察尾権威も地に落ちたと思われても仕方がないだろう。
「ところで、あなたは、被害者の方と面識はおありでしたあか?」
 と聞かれて、ふと自分のことを話していないのを思い出した。
 普通なら警察が先に聞くはずなのに、なぜここまで聞かなかったのか分からないが、
「ああ、そうだ。申し遅れましたが、私は杭瀬というものです。普通の会社員なんですが、今日は最近いつもこの時間の会社が終わっての帰宅時間でした。被害者の女性とは面識がありません。もっとも、どこかでつながっていたかも知れませんが、少なくとも最近は知らない人です。いきなり倒れているのを見つけて、事情が分からないまま救急車と警察に連絡したわけです」
 と、説明し、そこから自分の形式的な紹介になった。
「じゃあ、ナイフを持っていたことには気づいたんですか?」
「ええ、だから、彼女は刺されたと思い、苦しそうだったので救急車を呼んだんです。浅い傷でも、いきなり襲われたりしたんだから、ショックは大きいでしょうからね。そうなると傷口以上に深い傷が残っている可能性もあるのではないかと思ってですね」
 と、杭瀬は言った。
「それは助かりました。あなたの機転が彼女を救うことに繋がったのかも知れません」
 と、刑事は心底嬉しそうに言った。
 そういう態度を取ってくれると、先ほどまでこみあげていた怒りだったが、もう少し警察を信用してみてもいいのではないか? と感じるのであった。
「彼女の傷は背中からありましたので、逃げようとして刺されたのか、それとも、いきなり後ろから刺されたのかのどちらかだと思うんですが」
 と刑事がいうと、
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次