小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

探偵小説のような事件

INDEX|24ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

「人間が人間を裁くなどというのは、恨みが恨みを生むという、真実しか作り出せないに違いない」
 ということなのであろう。

                 大団円

 少しずつ分かってきた中で、浮かび上がってきた曽根川という男、捜査や聞き込みをしていると、そんなに悪いウワサも聞こえてこない。今のところ、被害者同士の共通点ということで浮かび上がってきただけで、いきなり容疑者として、捜査するわけにはいかなかった。
 それに、彼は当然のことながら、警察に対して、かなり挑戦的な感覚を持っているに違いない。確かに警察に逮捕されるような行動をし、彼が会社を首になったのは、警察は直接的な影響があったわけでもない。
 だが、冤罪を受けた人間であったり、冤罪に近い、つまり彼のように、後ろめたさがあっただけで、実際には犯罪を犯しているわけではない人間を追い詰めたりした警察に対して、そこまでの感情を抱くかということは、その人でないと分からないことであろう。
 そんな状態で、彼が今勤めている会社にいきなり聞きにいくというのも憚るものであり、密かに聞いてみると、一様に、
「仕事はきっちりすることと、まわりの人に気の遣い方も、十分に配慮が感じられ、若いのに、文句をいうこともなく、黙々と仕事に勤しんでいる」
 というのが、まわりの話であった。
 近所のウワサも、おかしなことは聞こえてこない。意見は人それぞれであるが、少なくとも、何かの犯罪に走るというようなことはないという意見が大きかったのだ。
「曽根川という男性の話をする限りでは、この数年で改心したのか、それとも、元から悪い人間ではなく、痴漢騒動としても、本当は騒ぎ立てるほどのことではなく、まわりの騒動によって、収拾がつかなくなった状況で、彼がその中で、一番貧乏くじを引いてしまうことになったのかということも考えられると思います」
 と、捜査会議の中で。一人の刑事がいうと、
「もし、後者だったとすれば、曽根川が、復讐から、今回の事件を引き起こしたと考えられないか?」
 という話をすると、今度は別の刑事が、口を挟んだ。
「これは、今回の事件に関係があるのかどうかよく分からないんですが、彼は、ここ半年くらいの間に、三回ほど大金を下ろしています。50万円単位ですね」
「50万円? 何に必要だったんだろうか?」
「脅迫されているのでは?」
「もし、そうであれば、振り込みということにならないか?」
 と刑事部長がいうと、
「足がつくのを恐れて、脅迫した側は、現金を要求したのかも知れませんと」
 と若い刑事が言った。
「そういうことであれば、脅迫している人間は、一体何をネタに脅迫しているんだろう? 今の仕事を真面目にこなしているということであれば、昔の事件のことを知っていて。それを、何も知らない今の会社の連中に話すというようなことを言われたのだとすれば、今彼は、真面目に働いているということなので、脅迫に応じることはえてしてあるかも知れないですね」
「となると、今回の犯罪と、脅迫されていたかも知れないということと、どうつながるのかな? 被害者のうちのどちらかが、脅迫した人間で、相手を殺すことで、脅迫から逃れようとしたということだろうか?」
「女が単独でそんなことをするとはなかなか思えない。被害があった女たちのバックに誰か、美人局のようなものがついているとは考えられないか? 特に最初の事件での痴漢騒動など、普通であれば、美人局が存在し、あの時は、痴漢犯罪として、露呈してしまったことで、脅迫できなくなったということであれば分かるんだけどな」
 と刑事部長がそういうと、
「あの時の騒動はひょっとするとそういうことだったのかも知れない。つまり、犯人たちは、そこまで騒ぎを大きくする気はなかったが、一応痴漢行為があったことをまわりに知らせる意味で、誰かに女が耳打ちをしたのかも知れない。今自分の身体が触られているとね。そこで、恥ずかしいから大声を出さないでほしいと言おうとしたのかも知れないけど、それを相手の男は聞く耳を持たず、痴漢の現行犯として、大いに騒ぎ立てた。犯人たちにとっては計算外ですよね。騒ぎ立てた人が、勧善懲悪な人間だったのか、それとも、自分が犯人を捕まえたという自己満足に浸りたいと思ったのだ。捕まった男だけではなく、美人局を考えていた方とすれば、完全な計算外、下手に騒がれると、自分たちの計画が水泡に帰すだけではなく、自分たちの立場も一歩間違うと危険に晒されることになる。そうは思わないんでしょうか?」
 と若い刑事が言った。
「なるほど、その考えがあるかも知れないな。そうなると、山口鈴江という女もグルだったということになるのかな? だけど、今の考えでいけば、もし犯人が曽根川だということになると矛盾している気もするな。それに、彼が脅迫される理由もハッキリしなくなってくる」
 と刑事部長は言った。
「ただ、私が一つ疑問に感じているのは、記憶喪失に陥るほどの山口鈴江は、犯人にとって、殺害する気は最初からなかったのではないかということなんですよね。もし、殺害するつもりだったら、最初の一撃が弱すぎるし、それ以上刺しているわけではない。目撃者に見られた時も、ナイフは握っていたが、殺そうという意思はなかったというではないですか? これは、脅迫という意味で考えると、誰かに対してのメッセージではないか? と私は考えます」
「なんだか、話が飛躍しすぎているように思えるが、どういうことが言いたいのかな?」
 と刑事部長は、若い刑事が何を言いたいのか、少し興味を持っているのであった。
「第二の殺人なんですが。第一の被害者との間の関係があまりにも薄すぎやしませんか? 本当に二人を襲った犯人が同一人物なのかと思えないほどですよね? 片方は、殺害する意思はまったくなく、そして、第二の犯罪は、明らかにとどめを刺している。ここは、二人の被害者の共通点を考えるよりも、もっとシンプルに、二人が殺されて、一番得をする人物という、オーソドックスな考え方をするべきではないかと思うんです」
 と、若い刑事は言った。
 確かに、とっかかりの時点で、共通点を見つけてしまったことで、そっちに捜査の目が向いてしまった。
 それがいいのか悪いのか、難しいところであったが、それも無理もないことだった。
 最初の被害者の身元が、なかなかすぐには分からなかったということから、分かった瞬間に、堰を切ったかのように、身元が分かった人間に重きを置いて捜査をしてしまうという傾向になるだろう。
 それを、まさか犯人側が最初から計画していたのだとすると、第一の犯罪は、
「まるで予行演習のようなものだったのではないか?」
 と思えるのだ。
 そして、実際に第二の犯行が起こり、そこでは完全に殺されるということになった。
 いきなり警察も連続的な犯罪だとは思わなかったが、それを考えた時、
「被害者の共通点」
 という考え方が、大きくクローズアップされることだろう。
 しかも、最初の被害者の身元がずっと分からなかったというもどかしさが、捜査員の焦りを生み、完全に犯人によってミスリードされる可能性があったのだ。
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次