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探偵小説のような事件

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 という思いなどが、頭の中で交錯したのだ。
 テレビドラマなどで、殺人事件の取り調べのように、拷問に近い、恫喝や自分を認めたくなくなるような誹謗を浴びせられ、精神的に病んでしまうと、トラウマになってしまうということを思えば、この程度のことは、大したことはないのだろうが、捕まってしまうと、そんな余裕はなくなるのだ。
 警察からは、寛容ではあったが、結果的に、ひどい目に遭ったのは、この女と、まわりの偽善者の連中である。
 一番腹が立つのは、本当は彼女ではなく、何の関係もないくせに、ただその場に居合わせただけで、ヒーローにでもなったかのような気持ちになった連中である。別にやつらは、何かいいことをしたわけではない。ただ、たまたまその車両に乗り合わせて、たまたま、事件が起こったことで、野次馬のごとく騒ぎ立てただけではないか。それも、その他大勢でである。
 だから、もし逆恨みをされることになっても、本当にされることはない。その他大勢の中にいただけなので、自分だけピンポイントで覚えているわけもないという思いもあるだろう。
 だから、
「一番目立つような行動をしなければいいんだ」
 というだけで、
「今日はいいことをした」
 という自己満足を与えることになるのだ。
 そのせいで、彼の人生はメチャクチャだった。会社は首になる。知り合いからも、まるで犯罪者を見るような目で見られる。話題に触れることはないのだが、それだけに、鉄板の上に乗せられた、火であぶられているかのような気分であった。
「俺は一体、誰を恨めばいいんだ?」
 と考えると、覚えている最初に騒いだあの女である。他の人は結局皆当事者ではないということで、集団でしか騒いでいない。しかし、あの女は、何を思って自分を突き出すようなことをしたのか、とにかく最初にあの女が騒がなければなんでもなかったわけだ。
 女の方からいえば、
「男女雇用均等法のおかげで男女平等と言われるようになったのに、自分がここで声を挙げずに泣き寝入りはできない」
 という思いと、
「声を挙げれば、まわりは、痴漢された自分に絶対味方をしてくれる」
 という思いから、勇気をもって、声を挙げたというだろう。
 曽根川という男は、最近のセクハラなどの、
「女性が強い」
 という風潮に怒りを覚えていて、
「セクハラや痴漢犯罪など、女が強くなったことで、冤罪が多くなるだろうし、男女雇用均等法を盾に、スチュワーデスや、婦警、看護婦などという女性に対する名称をまるで差別用語のように言って、言わなくなるような風潮が、嫌で嫌で仕方がなかった」
 と感じていたのだ。
 まさか、自分が痴漢の濡れぎぬを着せられることになり、警察に連行されるようなことになるなど思ってもみなかった。そういう意味でも、最初に声を挙げた、大した被害があったわけでもないあの女を恨むのも、無理もないことだろう。
 というのが、警察の、
「犯人が曽根川だった時の、犯行動機なのではないか?」
 という見解だった。
 ただ、不思議なのは、被害に遭った彼女が、自分を証明するものを、どうして何も持っていなかったのか? ということである。誰かが抜き取ったのだとすれば、いつ、何の目的で抜き取ったのか? まさか記憶を失うことまで予測できるわけはないので、きっと何かの理由があったのだろう。今のところ、警察は深く考えていないようだった。
 曽根川と、第二の被害者の間には、深いつながりがあった。元々二人は婚約をするのではないかと思われたほどの仲であったが、何が理由なのかということは、何となくとしては、皆分かっているかのようであったが、決して口にしていなかった。皆何かを恐れているかのようで、刑事はそれを、
「曽根川という男の呪縛」
 なのではないかと思っていた。
 実際に曽根川という男に遭ってみたが、
「どうにも捉えどころのない男」
 というイメージが深かったのだ。
 捉えどころのなさは不気味な雰囲気を醸し出させ、不気味さから、
「この男、何をするか分からない」
 というオーラを感じさせ、それがひいて、
「怒らせると、何をされるか分からない」
 と思わせたのだ。
 痴漢騒動の時の、どこか弱弱しい感覚はもうなかった。そもそも、この男は開き直ると、無類の力を発揮するのかも知れない。あの痴漢事件にて、あの男は覚醒したのだという人がいたが、まさにその通りであろう。
「眠れる獅子を起こしてしまった」
 あるいは、
「開けてはいけないパンドラの匣を開けてしまった」
 などと、言いようはいかようでもあるが、実際にやつの近くにいる人間は、そのオーラによって、やけどもするし、夢の中でうなされるという人間も少なくはない。
「まるで悪魔のごとくである」
 とまで言われ、それまでやつの仲間だと思われていた連中も、次第に遠ざかるようになっていた。
 それなのに、やつは、自分から離れていく連中に恨みを持ったりはしなかった。
「俺から離れていくやつは、いくらずっと俺を慕ってくれていたとしても、最後の決断の時には、この俺を簡単に見限って、何の罪の意識もなく、寝返るに違いない。そんなやつらを引き留めておいたとしても、最後には命取りになるだけだ」
 と言って、離れていく連中を追いかけたり、後ろから狙い撃つようなことはしなかった。
「そんな連中は、どうせ、そのあとは罪の意識に苛まれて、この世の地獄を見ることになるんだ。人を裏切るということはそういうことだ」
 と曽根川は、絶えず言っていた。
 まるで悟りを開いたかのように聞こえたが、まさにそうなのかも知れない。彼は、元々大物であり。覚醒さえすれば、まるで神の領域に達するくらいの考えだって持っていたに違いない。
 その覚醒をもたらしたのが、例の痴漢騒動だったのだ。
 それまで気が弱い方で、
「ただただ穏便にこの世を生きていければそれでいいんだ」
 とばかりに思っていた。
「趣味であったり、生きがいなどは、一つ持っていればそれでいい。たくさんのことを望んで、どれも手に入れることができないくらいであれば、一つで満足するに越したことはないのだ。欲をかけば、ブーメランとなって自分に返ってくる。そんなブーメランに首を吹っ飛ばされる光景を、想像であっても、見たくないと思うのは道理ではないだろうか?」
 と考えるようになっていたのだった。
 そのことを、この世で知っている人がいるとすれば、それは、殺された斎藤優美ではないだろうか?
 だから、第二の事件で、一番の容疑者とされている曽根川は、前述を真実だとするならば、
「彼は絶対に犯人ではない」
 と言えるのだ。
 それを、真相を求めたいという警察が、真相という言葉に執着し、真実を見ようとせずに、浅くその事実を結びつけただけで見たならば、犯人を、曽根川だと思い、それ以外の発想がないままに、間違った捜査を繰り返していくに違いない。
 そのことを分かる人間がいるとすれば、神の領域に至るのではないだろうか?
 つまり、
「真相を解明しようとするのではなく、真実を見極めようとする目」
 というものを持っている人である。
 果たして、そんな人間が存在しているのだろうか? しょせん、
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次