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探偵小説のような事件

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 ただ、医者の見立てとしては、頭部の外傷はないという。もちろん、死にいたるまでのケガではなかったとして、記憶喪失も頭を打ったことというより、襲われて、頭が、地面で軽く跳ねる程度だったとしても、揺さぶられたことがショックとなって、記憶を失うことだってあるだろう。
 逆に医者が見たのは、あくまでも表だけであり、外傷が最初からなかったという自分の初診を自分で信じ込んでしまい、思い込みが離れることはなかったとすれば、記憶を失って、本来なら、そろそろ戻ってきてもいい記憶がいまだに回復していないというのも分かるというものだ。
 また、もう一つの可能性として、本当は意識が戻っていて、まだ戻っていないふりをしていたのだとすれば、記憶の有無は本人にしか分からないということを逆手にとって、彼女はまわりを騙し続けているのかも知れない。
 その場合は、最初から記憶喪失はウソだったということになるわけだが、なぜ、そんなウソを彼女がつかなければいけないのか。そのあたりが一番の問題になるであろう。
 戻っていないという記憶が本当なのかどうなのか?
 そして、彼女がウソをついていないとして、戻っているはずの記憶が戻らないのはなぜなのか?
 さらには、記憶を失った原因がどこにあって、記憶が戻ってもいいはずなのに戻っていないのだとすれば、彼女の中に闇があるのではないだろうか?
 刑事はそんないくつかの可能性を考え、一つ一つ潰していこうと思っていたのだった。
 今度は犯人が、凶悪犯ではなく、ただの変質者のようなものであるとすれば。二人目の殺人は説明がつかない。
 もし、変質者で、殺人までは行き起こすようなことは考えていなかったとしても、変質者ゆえに、女性を見ると、当然、ムラムラくるだろう。そうすると、相手によっては、
「この人を独占したくなった」
 あるいは、
「こんなに美しい女性を見たことがない。自分だけのものにするためには、殺すしかない」
 などという妄想に取りつかれたとすれば、
「犯罪を犯すつもりでも、傷つけるだけが目的だったはずが、相手の魅力を独り占めしたいという感情から、相手を一思いに殺す」
 という感情も出たとして不思議ではない。
 そうなると、とどめ以外の傷の説明はつかないのだが、それも、精神的に狂っている状態だったとすれば、分からなくもない。
 ただ、この場合も、ナイフの位置などから考えて、不思議なことは残るのであるが……。
 この時の犯罪者の心理として、
「耽美主義」
 を思わせる。
 つまり、
「美というものが、秩序や道徳に最優先する」
 という考え方で、その考え方に従えば、
「犯罪至上主義」
 という考えも成り立つだろう。
 こうなると、事件は、猟奇殺人ということになり、心理学的な様相を呈してくる。表面上の事実だけで、捜査をしていると、見誤ってしまうのではないかということである。
 そして、次なる大きな問題は、
「第一の被害者と、第二の被害者に共通点があるかどうか?」
 ということであった。
 さらに、この二人に共通点がなく、猟奇的な要素が犯行の動機だとすると、警察は真剣に捜査に当たらなければならない。なぜなら、第3、第4と、犯人を逮捕しない限り、その危険性が高まるということである。
 しかも、そのせいで、市民生活が大いに脅かされるわけである。
「このあたりに連続通り魔が出没するらしいわよ」
 などと言ってウワサになると、マスゴミはこぞってやってくるだろう。
 やつら得意の、あることないことを、面白おかしく書きたてて、警察の権威は完全に失墜することになるだろう。
「犯人は、無能な警察をあざ笑うかのように、次々と犯罪を重ね、市民生活は、恐怖のどん底にあります」
 などと書かれたり、レポートされでもすれば、他の署からも、
「警察組織の恥晒し」
 などと言われかねないだろう。
「同じ警察組織で、そんなこというわけはない」
 などと思っているお人よしもいるかも知れないが、警察だからこそありえることなのである。
 警察組織というのは、典型的な縦割り社会で、横は、縄張り意識が強く、署同士で仲がいいなど、聞いたことがない。同じ署内でも、部署同士仲が悪いこともあるだろう。ただ、これに関しては、一般の企業でも同じだ。
「営業と管理部門では、往々にして仲が悪いというのは当たり前というものだ」
 と言われていたりするだろう。
 ただ、今回の事件では、完全に警察は不利である。最初の殺人未遂事件を解決できないまま、同じ場所で、今度は本当に殺人事件が起こったのだ。市民はきっと恐怖におののいているに違いない。
 警察も、こうなってしまうと、第一の犯行もゆっくり捜査するというわけにはいかない。そうなると、第一の犯罪の捜査において、一番解決しなければいけないことは、
「被害者の身元を確定すること」
 である。
 なんと言っても、第一の犯罪と第二の犯罪がつながっているのかいないのか、それが問題である。そうなると、被害者同士の関係、そして、被害者同士の共通点、あるいは、共通で憎まれている相手など、いろいろ分かってくると、これが怨恨による犯罪なのか、それとも、変質さhによる猟奇的な犯行なのかということが分かるに違いない。
 それによって、市民の恐怖の度合いが完全に変わってくる。
 被害者が怨恨によるものであると分かれば、少なくとも、狙われるであろう相手は限定される。しかし、通り魔の犯行だと分かると、逮捕されるまでは安心できない。いや、逮捕されても安心はできない。何しろ、この手の犯罪は、絶対にマネをしようとする、模倣犯なるものが出てくる場合が多いからである。
 理由は分からないが、
「犯罪の連鎖反応」
 のようなものがあり、犯行が関連性はなくとも、繰り返される場合がある。
 それも、犯人が捕まらない場合、
「すべての犯行を、最初にやったやつにおっかぶせることもできるだろう」
 という単純な考えである。
 犯人がこれから犯行を犯そうとする人にも分からないのだがら、アリバイ工作などしても無駄である。相手に完璧なアリバイがあるかも知れないからだ。
 しょせん、模倣犯というのは、二番煎じなのである。
「自分がやろうと思っていたことを先にされただけだ」
 などと思っているやつは、しょせんは意気地なしで、計画性もあったものではない。
 そんなやつは、すぐに捕まって、下手をすれば、やってもいないことをやったかのように警察に攻められ、下手をすれば、やってないことを白状させられてしまうことになりかねない。
「自分の罪を相手になすりつけよう」
 などと思わないやつは、自分が同じことになるというブーメランを想像もしないに違いない。
 正直その程度の意気地なしに、高度な犯罪などできるはずもない。できるとといえば、捜査をひっかきまわして、警察の捜査の妨害をしたり、主犯が動きやすいようにアシストしてしまうことになったりと、自分で犯罪を犯すよりも卑劣で悪質であり、しかも意気地なしという、
「まったくいいところのない卑劣な男」
 として、完全に社会から孤立してしまうことになるやつなのだろう。
 誰もが、
「こんな男は自業自得でしかない」
 と思われるだけなのだ。
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次