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探偵小説のような事件

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「それも十分に考えられることだとは思いますが、ただ、通り魔だとすれば、ナイフを突き刺したまま逃げるというのも、何か不自然な気がしてですね」
「だって、返り血を浴びるわけだから、それを思えば突き刺したままだというのと、変わりはないのでは?」
「いや、そうでもないんです。凶器を現場に残しておくというのは、犯人にとって不利なんです。捜査の段階で凶器から、それは入手であったり、所有していること、そして、ここに持ってきていることなど分かってしまうと、もし万が一捕まった場合、その後の裁判などを考えると、凶器は残しておかない方がいいと考えたのではないかと思うんです」
「実際にそうなんですか?」
「ハッキリとは分かりませんが、今までは、そういう犯人が多かったように思います。実際に、この間の殺人未遂事件では、凶器を持ち去っていたでしょう?」
 と刑事は言った。
「あの時は、私に見られたと思ったからでは?」
 というと、
「あなたが言ったんですよ。犯人は凶器を手に持っていたとね」
 と刑事は言った。
 まさにその通りであるのだ。凶器を手に持っていた。だが、それが本当に凶器だったのかどうか。ハッキリはしていない。それなのに、杭瀬は断定的なことを言った。それが少し気になったのだ。

                 犯人像

 前の時は、未遂であったので、正直そこまで真剣に捜査をしていなかったであろう警察だったが、今回は明らかに殺されている。しかも、前に犯行があったのと、時間も場所もほぼ同じ、マスゴミが飛びつかないわけがない。
 ハイエナのように食いついてきて、まるで、
「骨も残すものか?」
 というほどの剣幕で、まくしたてるような取材が続いた。
 こうなると警察は弱い。変なことも言えないし、世論やメディアの力を思い知るのだった。
 捜査本部もいきり立っている。
「このままでは警察の威信は地に落ちてしまう」
 と言わんばかりで、なんと言っても、最初の被害者の記憶が曖昧だということもあって、最初の犯行への捜査に対しては、あまりにも情報が少ないということで、なあなあの捜査だったと言ってもいいだろう。
 しかし、マスゴミは絶対に、最初の事件の初動捜査から戸惑いを見せている警察の怠慢と情けなさをついてくるに違いない。それを話題にされると警察はどうしようもないのだ。
 これまでの警察の、
「何かが起こらなければ動かない」
 という体質や、
「最初の事件を、おろそかにせずに、真面目な捜査を行っていれば、こんな事件は起きなかった」
 と決めつけるかのような記事を書いた。
「最初の犯行で、少なくとも犯人の近くにまでたどり着いていれば、犯人の犯行を抑止できたであろうし、犯行を未然に防げるか。犯人逮捕だってできたかも知れない」
 ということを書くに違いなかった。
 世間は、警察もマスゴミも、基本的には好きではない。
「事件が起きないと何もしない警察。そのくせ、犯人だと決めつけたら、容疑者を恫喝するやり方は、昔のまま」
 これが警察だと思っていて、マスゴミの場合は、伝染病が流行った時、世間や世論が大混乱に陥った。
 確かに未知の伝染病だったので、デマやフェイクニュースなどが出回って、それに触発されるのが、一般市民であったが、マスゴミによる扇動によって、さらにデマやフェイクニュースが巻き起こる。なんといっても、有事において出回るデマは、集団意識と相まって、世の中を混乱させてしまうのだ。
 せっかく、専門家が意見を出しているのに、口では、
「最後は専門家の意見を考慮に入れて、政府として判断する」
 という聞き飽きた言葉を言っていたが、その実、専門家の意見が自分たちのやりたい政策にマッチしていなければ、いくら専門家が苦言を呈しても、政府は聞く耳を持たないというのが、現実である。
 さぞや専門家も、憤りを感じ、
「こんなのやってられるかい?」
 と思っている人も多いだろう。
 そう、これではまるで専門家の存在は、
「政府がやることに追認するための組織こそが、有識者による専門家委員会というものではないのか?」
 と言われてもしょうがないのではないだろうか?
 警察は警察で、犯罪捜査は、完全な縦割り社会。さらに、縄張り意識も相当に強く、
「政府と警察組織。どっちもどっちだ」
 と言われても仕方がないだろう。
 政府も、警察組織も、罪悪感を一切なく、動いている人間がどれだけいるというのだろう?
 お互いに、忖度と、敵対意識のそれぞれ極端な思いを感じながら、活動している。本当は、
「国民を守る」
 というのが、それぞれの存在意義のはずなのに、それが、組織の存続だけを優先させ、国民を守ることが二の次になっているという、本末転倒な組織なのである。
 今回はさすがに殺人事件ということで、捜査本部が置かれた。その中でいろいろ話題に上ったが、そのうちの一番大きな話題としては、
「これが、連続した事件なのかsどうか?」
 ということであった。
「もし、同一犯の犯行だとすれば、最初の事件は殺害にまでは至らなかったが、一歩間違えると、連続殺人事件ということになっていただろう。しかし、逆に未遂だったことで、警察の捜査が甘かったという指摘もある。つまり、最初の殺人未遂をしっかり捜査していれば、第二の殺人は起こらなかったのではないか? という見方だ。そういう意味で、第一の事件を、殺されなくてよかったとみるか、第二の殺人を、この時はなぜ、一撃で殺せたのかということが問題になってくる」
 というのが、まず、本部長の話だった。
 この捜査会議までに分かっていることとして、まず、第一の殺人未遂の被害者である女の子の身元は、まだ分かっていない。
「だいぶ意識も体調も回復しては来ているので、回復は間もなくだと思います」
 というのが、担当医の意見であった。
 警察としては、何とか早く身元が分かってほしかった。
「身元さえ分かれば、ある程度のことが分かってくるはずだ」
 というのが警察の見解。
 つまり、第二の犯行の被害者との関係、つまり二人の共通点から、犯人が割り出せるかも知れないという思惑であったり、犯人を特定できなくても、ある程度まで犯行動機は絞れるのではないかという思いも警察にはあるのだった。
 その思いがなかなか成就できないもどかしさのようなものが警察側にあるのは当然で、正直医者に対して、
「いい加減なことばかりいいやがって」
 というのが、本音ではないだろうか?
 そして、もう一つ分かったことは、殺人事件においては、完全に最初からとどめを刺しているということだった。背中から刺しているにも関わらず、躊躇うことなく、一撃は心臓だったという。他にもいくつか刺された跡があるが、そちらにはそれほど深いものはなかった。
 見方によっては、
「よほど、被害者に対しての恨みからなんじゃないか?」
 と思われるような、いくつかの傷であった。
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次