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探偵小説のような事件

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「自分の中の、正義と悪は、自分で決めることができる」
 という考えで、自分独自の勧善懲悪であった。
 だから、自分が正しいと思うことは、少々相手の感情を逆撫ですることになっても、かまわない。むしろ、
「相手が怒ってくれれば、こっちも攻撃するのに、大義名分が立つというものだ」
 と考え、自分の中の正義のために、敢然と立ち向かっていくことが結構あった。
 いくら自分に正義があっても、怒りをむき出しにして、まわりの理解が得られないと、結局損をするのは自分である。
 それが社会の摂理のようなものなのかも知れないが、それでも、また同じ目に遭ったとしても、また杭瀬は同じことを繰り返すだろう。
 勧善懲悪を口にする人や意識をしている人は、嫌いではない。しかし、損をするかもしれないということを覚悟しておかないと、いけないのではないだろうか。
 それで問題を起こし、会社に迷惑をかけ、訓告を受けたこともあった。相手は明らかに悪いので、こちらが成敗をしたのに、相手は自分が悪いのをいいことに、警察に通報したのだった。
 何とか示談となったが、その時のこともトラウマである。
 しかし、前回のトラウマに対しては、自分がしなかったことに対してのトラウマだったので、正直、後悔している。
「今度、同じことがあったら、絶対に泣き寝入りなんかしないぞ」
 という思いである。
 しかし、2回目のトラウマは、初回のトラウマの結果、起こったことであるから、2回目のトラウマに対しては、
「今度、同じことがあったとしても、絶対にまた同じことをするだろう」
 という思いを持つだろう。
 ただ、やりように関しては、前と少しは変えなければいけない。今度、へまをやったら、クビになるのは必至だからだ。
「筋の通った考えでなければいけないが、感情的になってはいけないというのは当たり前のことなのだろうが、どうしても感情的になってしまうのは、最初のトラウマが頭の中にあるからだ」
 と言えるであろう。
 徹頭徹尾の柱を持った信念でなければならないと思っているので、どうしても相手と衝突するのは仕方がなく、
「正義は自分にある」
 と思っているので、その分、
「強く出ないといけない」
 と思ってしまうのだ。
 そのあたりの心理は、学生時代のトラウマから来ているのだろう。だから、普段は人一倍落ち着いている。しかし、怒った時は怒りが爆発し、自分を見失ってしまうことがある。勧善懲悪が原因なのか、それとも、自分の中にある性格として、
「ハンドルを握ると人間が変わってしまう」
 という二重人格性が関わってくることで、悪い方に結果が出てしまったのかも知れない。
 怒りに身を任せるのは仕方がないとして、後のことも考えなければいけないだろう。怒りながらも、自分の正当性を見極めていく力が必要だと思うようになっていった、
 理屈が分かっても、こればかりは、練習するというわけにもいかない。だからぶっつけ本番ということになるため、正直リスクが大きい。そういう意味で、
「2度目のトラウマになったような状況には近づかないようにしよう」
 と考えるようになったのだ。
 こちらが近づかなくても、向こうから近づいてくることもある。その時は、
「最初のトラウマを思い、また2度目を繰り返すか」
 それとも、
「2度目のトラウマを怖がって、またしても、最初の我慢をすることになるのか?」
 と考えてしまうが、今のところ結論は出ない。
 なぜなら、その時にならないと、自分の感情が分からないからだ。その時になって、冷静でいられるか、それとも、感情に任せて動いてしまうかというのは、自分の意識ではどうなるものでもない状態になってしまうのであった。
 それを思うと、
「やはり、俺は二重人格なのかもしれ合い」
 と考える。
 しかも、その二重人格は、
「ジキルとハイド」
 のようなもので、ジキルが出てきている時は、ハイドは奥に隠れていて、ハイドが出ている時はジキルが後ろに隠れている。
 この時の自分の中のジキルとハイドはお互いの存在を知っているのだろうか?
 冷静な時は、分かっているはずだ。お話のように、ジキルが自分の中にいるハイドを呼び出す薬を作ったのだから、ジキルは知っているはずである。
 この時、ふと、
「おやっ?」
 と感じた。
「お互いにお互いが表に出ている時、その存在を知らないとすれば、これは、まるで記憶喪失のような状態なのではないか?」
 と思うのだ。
 これというのは、今の彼女のようなものではないかと思うと、
「彼女は二重人格で、もう一人の性格が表に出てきているから、普段の自分を思い出せないのではないか?」
 と感じた。
 そもそも、普段の彼女がどういう性格で、どういう女なのか分からない。もし、危険が孕んでいるような性格であれば、誰かに狙われたとしても、無理もないことなのかも知れない。だが、果たして、どっちが本当の彼女なのか。あるいは、潜んでいる性格が一つだけなのかどうか? いろいろ考えてしまうと、どうしても暴走してしまう。なぜなら、今の段階で、何も分かっていないからであった。
「ということは、自分も二重人格性があり、彼女が、二重人格のため、記憶を失ったようで、その性格が災いして、命を狙われるまでになったのだとすれば、これは、俺にも言えることではないか?」
 と、杭瀬は考えた。
 そういう意味で、彼女の危険を救ったのが、杭瀬だというのも、実に皮肉なことではないだろうか。
 それを思うと、
「ただの偶然なのか、それとも何かの必然を自分で証明しているのではないか?」
 という考えに至ってしまうのだった。
 杭瀬は、彼女に高飛車で言われた時、怒りはあったが、どこか冷静で見ることができた。今までの自分であれば、こんな状況に耐えられるわけもなく、こみあげてきた怒りをぶちまけていたのだろうが、ひょっとすると、彼女の後ろに隠れているもう一人の彼女を、無意識に怒りに耐えている間、感じていたのかも知れない。
 とりあえず、その日は、何となく釈然とはしなかったが、怒りを爆発させずに済んだのは、
「自分が助けてやったんだ」
 という自負と、彼女の後ろにいるであろう、
「もう一人の彼女」
 を感じたからなのかも知れない。
 その日は、そんなことを考えながら家路についた。それでも、釈然としない思いは残ってしまったのか、夢見はあまりいいものではなかったのだ。
 家に帰り付くと、しばらく眠れなかった。夢見が悪そうな気がしたからだ。やはり気になったのは、彼女の様子であった。
「なんであんなに高飛車だったのだろうか? 記憶はなくなっても、元々の素の性格であるものが表に出てきたということで、彼女の素はあんな性格なのかも知れないな」
 と思うと、あんまりあんな女と関わり合いにならない方がいいと感じた、
 何しろ、あの女のあの高飛車な様子を見ていて、昔の自分のトラウマがよみがえってきたのだから、胸糞悪くても、仕方のないというものだ。
 それでも、翌日の仕事を考えれば寝なければいけない。そう思って、何とか眠りに就いた。
 すると、夢の中で、見舞いに行った記憶を一時的に失っているという、あの胸糞悪い高飛車な女が出てきたのだ。
作品名:探偵小説のような事件 作家名:森本晃次