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謎は永遠に謎のまま

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 確かに今の歴史と以前の歴史は変わってきている。教科書でも数年で、まったく違ったものになっているというではないか。
「いいくに作ろう鎌倉幕府」
 を筆頭に、源頼朝や、足利尊氏、武田信玄だと言われている肖像画も、実は違う人物であるということや、歴史上でも、昔は、源平合戦と呼ばれていたことが、今では、
「治承・寿永の乱」
 と言われているのだ。
 それは、その時代の一連の合戦が、必ずしも源氏VS平家ではないということである。源氏同士の戦いだったりもするからだ。治承というのも、寿永というのも、ちょうどその時の年号であり、年号で示すというのが日本の歴史の名付け方でもある。要するに、歴史というのは、それだけ発見や解釈によって、いろいろ変わってくるということである。
 食事を終えると、朝風呂、もとい、昼風呂に入ることにした。この温泉は8時から10時までは清掃の時間で、それ以外は24時間、いつでも入ることができる。朝食を終えての入浴は可能で、真っ暗な状態で、ネオンサインがついた露天風呂もそれなりによかったが、昼間は自然に包まれた温泉に入ることができるというのも、楽しみの一つだった。
 ただ、かなり曇っているので、どれほどの視界になるかどうかはよく分からなかったが、実際には、ほぼ見えないと言っても過言ではない。それを分かっていて入るのも一興に感じられたのだ。
 表に出ると、昨日に比べて、少し暖かい気がした。
「今日は暖かい気がするな。まあ、昨日は夜だったので、比較にはならないけど」
 というと、
「いいえ、これくらい寒いところになると、寒さの中での最高気温と最低気温は、体感ではほとんど変わりがないんです。それで暖かいということは、やはり、あなたの言う通り、だいぶ暖かいのではないでしょうか?」
 と、宿の人がそういうのを聞いて、飯塚も頷いていた。
「うん、彼の言う通りなんだよ川北君。だから、よく見てごらん、少しずつ雪が解けているだろう?」
 と言われ、雪で盛り上がっているところをよく見てみると、なるほど、真っ白くて光っているので眩しいと思い、なるべく直接見ないようにと心がけていたが、眩しいのは、雪が解けてきた時に見える水滴が光っているからなのかも知れないと感じた。
「それにしても、これだけ眩しいというのは、すごいものだね。ひょっとすると大モンドダストも見れるかも知れないな」
 というと、
「それはあるかも知れませんね。でも、この時期特有の、氷上渡りがあるかも知れませんよ」
 と、宿の人が言った。
「氷上渡りとは何ですか?」
 と聞くと、
「この村は意外と広いんです。こちらに来られる時に感じたと思いますが、ここは盆地になっていて、盆地の平地武運はすべてと言っていいほど、この村の所属になるんです。そして、この村の奥には大きな祠のようなものがあり、その奥に、この村の鎮守が控えているのですが、祠と鎮守の両方に祭られている神様がおられるのですが、その神様がこの村の奥にある。祠と鎮守の前にある大きな沼があるのですが、今は完全に凍っています。その氷というのは、かなりの厚さがあって、普通にそりを引いて渡れるほどなんですが、そこの氷というのは、力によう圧力には、かなりの強さがあるのですが、温度に関しては、かなり敏感で、脆いものなのです。温度が少しでも上がると、氷が一気に解けるところがあって、それがひび割れを起こし、その時に、ガシャンというかなりの音を発するんです。それは、神様が池をお渡りになる神聖あ音だということで、その音がなった時は表に出ずに、家の中で、神様にお祈りをするというのがこの村の習わしになっているんです」
 と言った。
「それって単純に温度差で、氷が解けるというだけのことですよね?」
 と川北がいうと、
「ええ、そうなんですが、昔の人は、神様が氷の上を割って向こう岸に行かれることで、この村の安全を今年も保証してくれるというものだったんです。今では新暦になっているので、分かりづらいかも知れませんが、昔は旧正月というのがあったので、この氷上渡りの神事があるのは、ちょうど旧正月の頃だったということで、個人的には無病息災だったり、村全体としては、災害に見舞われることのない一年の始まりという、大切な神事だったわけです」
 というのだった。
 確かに昔から、このような迷信は全国に伝わっていると聞いたことがある。
 昔から受け継がれてきて、昭和、平成、令和へと受け継がれてきた神事の中でも、この神事というのは実に珍しいものだ。
 いつ起こるか分からないが、必ず起こるものだと信じられていて、それが春の訪れに繋がるという。普通であれば、他の地域であれば、
「起こったことを結果として、行事を行うというのが普通なのに、ここでは、起こったその時を神事とするというものであり、それだけ神の存在を意識しているということなのではないだろうか?」
 その証拠に、村の人の話し方が妙にたどたどしかった。この村の人はほぼ例外なしに、人懐っこい感じがしていた。それだけこの村は、信心深い村だと言ってもいいだろう。それだけ誰もが、団結していて、ただ、その割にデメリットでもある、「島国根性」のようなものがないというのは、いいことであろう。
「ただ、一つ気になるのが、これだけの雪が積もっているので、この雪が一気に解けると、まわりが山に囲まれた盆地になっているだろう? だから、山間のところは、雪崩に気を付けなければいけないんだ」
 ということを、飯塚は言い出した。
「なるほど、確かにそれは言えるかも知れないな。何か対策のようなものはしているのかい?」
 と川北に言われて、
「いや、そういうのはないんだけど、一応そのあたりは見越してなのか、幸いなことに人口が少ないので、住宅地は村の中央部には寄っているんだ。田畑であったり、工場のような建物は村の表側に作っていて、一応、対策としてはそういうところだと言ってもいいだろう」
 ということだった。
 それだけでは心もとない気はしたが、
「まあ、今までに雪崩が起こって、人が死んだというような話が聞いたことがない。雪崩と言っても、そんなひどいものではない、ただ、事前に田畑や、工場にての対策は必要になるようだけどな」
 と、飯塚は続けた。
「それならいいんだけど、雪崩と聞くと、さすがにビックリするよな」
「うん、でも、そういう意味でも、氷上渡りという神事は大切なんだ。氷上渡りが起こってからが、雪崩のピークになるので、一種の警鐘という意味でもあるんだ。それを考えると、自然というのは、よくできているって思わないか?」
「確かにそうだ。で、その氷上渡りというのは、いつ頃なんだい?」
「もう、そろそろというところかも知れないな。雪崩に関しては、事前に雪かきをするというわけにもいかないので、事前にはどうしようもない。山間の麓の雪を掻いたとしても、雪崩の状況を却って作ってしまうだけなので、それはできない。山のてっぺんから雪をかくわけにはいかないので、掻いた雪をどこに持っていくかということが最初から分かっていない限り、どうしようもないというところなんだ」
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次