小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

謎は永遠に謎のまま

INDEX|5ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

 などと言う言葉と同じかも知れないが、それだと少し薄っぺらい気がする。他の言い回しはないのだろうか?
 早苗が話しかけているのを、横で気配を消して感じながら、車窓を見ていた。
 次第に、雪景色が見えてきて、真っ白な雪が、沈みかけている日の光に反射して、かなりの明るさを感じさせた。
 光の力の強さを再確認したかのように思えた川北は、これだけでも、
「来てよかった」
 という気持ちになった。
 さっきまで、田舎になるにしたがって寂しい思いを感じていた自分がウソのようである。
 こんな気分になってきたのは、初めてくるはずのこの光景を、
「どこか懐かしい」
 と感じたからであった。
 そんな現象を、
「デジャブ」
 というのだというが、まさに、そんな気分だった。
 それに、あたりの景色を一変させた雪景色は、すべてのものを白く覆っているので、その雪の下には何があるのか、見当もつかない。
 地元の人間で、いつも見ている飯塚のような人なら、元が何だったのかなど簡単に分かるだろうが、それでもちょっとでも何かの原因でずれてしまっていれば、分からないかも知れない。
 どんなに同じに見える風景でも、知っている人から見れば、まったく違った光景に見えるのではないかと思うのだった。
 もちりん、そんなことは勝手な思い込みなので、実際にはまったく違うのかも知れないが、目の前の光景にビックリしているくせに、懐かしいと感じてしまった川北は、
「自分を見失いかけているのではないか?」
 と感じるのであった。
 まっすぐな線は一つもなく。こんもりとした山に包まれているような光景は、それこそ田舎ならではだと思わせるのであった。
「本当に、飯塚君って変わっていないわね」
 という早苗の声が聞こえてきた時、
「目の前の風景も、何度もここの住民の目の前で繰り返されてきた不変な風景なんだろうな」
 と感じた川北だった。
 自分にとっての田舎では、一年のうちに、ほとんど雪が降ることはない。いや、今では結構積もる時もあるようだが、少なくとも自分がいた時分には、雪だるまができるほどの雪など存在しなかった。目の前で繰り広げられている光景であれば、いちいち雪だるまを作る必要はない。手を目を作れば、そのままで雪だるまの完成だと言えるような気がするのだった。
「雪だるまなんて、どうやって作るのだろう?」
 と思うほど、雪が降ったとしても、数時間で、解けてしまい、土がドロドロになってしまい、汚い光景を見せつけられるだけのことであった。
「こんな雪、見たことないはずなのに」
 と、またしても、デジャブに襲われた川北だった。
「じゃあ、また今度連絡するね」
 と言って、ブザーを押した早苗は、次の停留所で降りるのだろう。
 ということは、これから向かう飯塚の実家も、まもなくということであろうか、実際に山間を超えてから、谷に当たるあたりに出てきたようだった。
「俺たちの村というのは、まわりをほとんど山に囲まれている、辺境の土地なんだ。だから、温泉も出たんだろうと思うし、以前はこれでも、湯治客でにぎわっていたんだよ」
 と、飯塚は言った。
 二人は、盆地にあたるところのちょうど中間あたりのところでバスを降りた。ここで一緒に数人が降りたために、もうほとんどバスに乗っている人はいなくなってしまった。
「ここが、村の中心部と言ってもいいんだけどな」
 と言っているが、すでに日は沈んでいて、ところどころの家から漏れる光と、申し訳程度の街灯のおかげで、まったく暗くならなくてよかったという程度の、本当に申し訳程度の明かりが灯っているだけだった。
 空を見ると、まだ少し白々とはしているのは、平野部だったら、まだ日の入りはしていないということだろう。ここが盆地で山に囲まれていることを証明しているかのようだった。
 それにしても、本当に真っ暗だ。しかも、雪に覆われているので、明るかったとしても、ほとんどが雪だるまにしか見えない状態なので、よく分からないだろう。そもそも雪国の通常がどういうものなのか知らないだけい、想像するのは、たやすいことではなかったのだ。
 バスを降りて、街灯沿いに歩いていくと、見えてきたのが、赤々とした明かりだった。
「あそこが俺の実家の、玉の湯というところなんだ」
「どうして玉の湯なんだい?」
 と聞かれた飯塚は、
「この村が、玉野村というところなので、そこから来た単純な名前さ」
 と言って、ため息をついた。
 どうやら、飯塚はこのネーミングをあまり好きではないらしい。
「ガラガラ」
 と昔ながらの勝手口から中に入った。
「本当はお客さんだから、正面玄関から入るのが筋なんだろうが、川北君は、あまり行業としたのが嫌いだと思ったので、こっちから入ろうと思ってね。何を隠そう。俺が玄関からは基本的に入ってはいけないことになっているので、それだったたと勝手口から入ったというわけさ。悪く思わないでくれよ」
 ということだった。
「ああ、分かっているよ」
 と川北は言ったが、二人の以心伝心は今に始まったことではないので、それだけの言葉で十分だったのだ。
「ここは、湯治場にはなっているけど、宿ではないんだ。そのあたりは、おフクロから聞いた方がいいかも知れないな」
 ということで、さっそくおかみさんに顔見世をして、まずは温泉に浸かり、旅の疲れを癒した。
 この間までの激務な仕事のせいで、たったこれだけの旅行でも、疲れが溜まっているようで、温泉に浸かると、それまで溜まった垢が一気に落とされるような爽快な気分になっていた。
 温泉に二人でゆっくり浸かってから部屋に戻ると、料理が運ばれてきていた。
 まるで、宴会用の料理でもあるかのような豪華なものだった。
「湯治場の料理というのは、ここまで豪華なものなのか?」
 と思ったが。やがり、湯治というのは、温泉の効用と、食事によって栄養を摂ることが、一番の効果となるのだろう。
 それを思うと、
「今まで気が張り詰めていた毎日が何だったのか?」
 と考えさせられてしまった。
「こんなにもまったく違った生活をじっくりと味わってしまうと、もう、会社に戻りたくなくなるのではないか?」
 と感じるほどだった。
 仕事を精いっぱいこなしていた毎日。一日の感覚が分からなくなるくらいにマヒしていた日々だったのを思い出そうとすると、かなり昔のことだったように思えるのは、感覚の錯覚だといえるだろう。
「錯覚なら錯覚のままがいい」
 と感じたのは、あまりにもギャップが大きいのも問題だと感じたからだった。
「わんこそばにしなくて正解だった」
 というのも本音だった。
 わんこそばのように半分、競技のような食事であれば、思わず真剣になって必死になって食べていただろう。下手をすれば食べ過ぎで胃薬か、整腸剤のお世話になっていたかも知れないと思うと、思わず苦笑いをする川北だった。
 川北は、競争心が旺盛なところがあった。最初はそのつもりはなくとも、思わず、
「自分がトップでなければ気が済まない」
 という思いになるのだった。
 これは、飯塚にも言えることであったが、飯塚の場合はそれを、
「俺は人と同じでは嫌だからだ」
 と思うのだ。
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次