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謎は永遠に謎のまま

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 と感じたのだ。
 前の会社は、運が悪かったんだ。いくら就職活動によって就いた職とはいえ、実際に仕事をしてみるまでは、どんな会社なのか分かったものではない。それを思うと、飯塚のような奴も少なくなく、実際に、会社によっては、最初の一年で、8割以上が辞めてしまうところも多いという。
 だから、本当は新入社員を必要以上にたくさん雇うところは、やめておいた方がいいのだ。やつらとすれば、辞めていく人間を計算に入れて採っているのだから、それも当然のことである。
 川北の辛さとは、また違った辛さというものである。
 二人は、その日は、盛岡冷麺の店に入った。この時期に冷麺というのは、ちょっとと言っていいのだろうが、盛岡は麺で有名なところであった。
 特に名物としては、
「わんこそば」
 というのがあるが、それは時間がある時で、よほど腹を空かせて、準備万端で行くところだと思っていたので、最初は誘われたが、丁重に断った。
 あまりにも食べ過ぎてしまって、それ以上何も食べられなくなるというのが問題だと思ったからである。
「まあいいか、帰るまでには一度は来てみようぜ」
 といわれて、
「ああ」
 と答えた。
 それもそうである、岩手に来るのだから、一度は行きたいと思っていたのだ。だが、最初から初日はやめておこうと思っていた。理由があったわけではなかったが、何となく気分が乗らないというのが真相だ。
 それだけまだ心身ともに疲れが残っているということだろう。ただ、麺を食べたいと思っていたのも事実なので、同じ名物の盛岡冷麺にしたというわけである。
 普段から、麺が大好きだということを公言しているだけあって、川北は実においしそうに食べる。それを見た飯塚は、
「本当にお前、おいしそうに食べるよな。そういうお前が羨ましいよ。やっぱり、どうせ食べるなら、それくらいおいしそうに食べないとな」
 と言っている飯塚にとってみれば、その様子を見たことで、
「やっぱり、わんこそばよりも、おいしそうな顔で食べるやつを見るには、冷麺が正解なんだろうな」
 と思ったのだ。
 ゆっくり、食事を済ませた二人は、少し盛岡を観光して、夕方前のバスに乗って、飯塚の実家に帰っていった。
 バスはガラガラだろうと思っていたのだが、思ったよりも、人が多くてビックリした。四時過ぎくらいに盛岡を出るバスに、半分くらい人が乗っていた。東京では少ないうちなのだろうが、過疎が進んでいる街だと聞いていたので、数人がいいところだと思っていた。それなのに、半分も埋まっているなんて、正直驚いた川北を見ながら、川北が何を考えているのかが分かった飯塚だったのだ。

                 盛岡の実家

 バスに乗り込んでから、盛岡市内の都心部を抜けると、次第に閑散とした田舎風景が車窓を走り抜けていく。半分ほどいた客もだいぶ減ってしまったが、それでも、十人近くはいただろうか。
 せっかく休養で田舎に来たというのに、車窓が都会から田舎に変わった瞬間、急に寂しさを感じた。
「俺も、都会に染まってしまっているのだろうか?」
 と思った。
 最初は田舎の風景にワクワクするものだと思っていたが、この寂しさは何であろう? 都会にいる間は、
「盛岡と言っても、都会じゃないか?」
 と新幹線を降りた時には感じたのが、まるで、だいぶ昔のようだった。
 飯塚にとっては、見慣れた風景で、面白くも何ともないだろうが、本当ならもっと喜ぶべき川北が、寂しさを感じているというのは、何かお互い想像もしていなかったことなので、お互いに話しかけるタイミングを逸してしまったようだった。
 盛岡の都心部を走り抜けていく途中で、一人の女性が、飯塚に話しかけてきた。
「飯塚君、飯塚君よね?」
 と言って、やたら前のめりな女性で、馴れ馴れしさというより、人懐っこさを感じさせるのは、その女性の明るさがにじみ出ているからであろうか。飯塚も、ちょっと迷惑そうには見えるが、よく知っている川北からすれば、
「別に嫌がっているわけではなさそうだ」
 むしろ、女性に声を掛けられて、嬉しそうにしているように感じた。
 彼女の方もそれを分かっているようで、その雰囲気が馴れ馴れしさではない人懐っこさを感じさせる要因だったに違いない。
「ええっと、君は?」
 と、たどたどしくやっと答えた飯塚だったが、
「私よ。行橋早苗よ」
 というと、
「ああ、高校の時に一緒だった。行橋さんか。久しぶりだね」
 というと、
「中学から一緒だったんだよ。覚えていないの? でも懐かしいわね。飯塚君は元気にしていた?」
 と言われた飯塚は。
「ああ、そうか、忘れていてすまない。僕の方は何とかだけど、それにしても、よく声をかけてくれたね、嬉しいよ」
 と、飯塚は言った。
 飯塚という男は、天真爛漫ではあるが、変なところで正直者で、ウソがつけないところがあった。
 今の会話でも、相手から、
「元気にしている?」
 と言われて、
「まあ、何とか」
 としか言えないのは、正直、そこまで元気ではない証拠だろう。
 だが、それをいくら、相手が社交辞令でのただの挨拶だと分かっていても、真剣に答えようとする飯塚には、できることではなかった。
 それが飯塚にとってのいいところでもあり、悪いところでもあった。飯塚の悪いところというのは、正直者の短所であるところにありがちな、
「融通の利かないところ」
 だということであった。
 そのため、相手に必要以上に心配させてしまったりするのだが、女性の中には、そんな飯塚に母性本能をくすぐられる人もいたのだろう。大学では、意外とモテた飯塚だったのだ。
 早苗は、飯塚にいろいろ懐かしかったことを畳みかけるように話したが、さすがに途中からやっと川北の存在を意識したのか、トーンが下がっていった。
 いや、ここでこれだけトーンが下がるということは、最初から川北に気づいていたのだろう。自分のトーンが下がらないように、
「言いたいことをとにかく言ってしまおう」
 という気持ちが強いのか、まくしたてるように話したのはそのためであろう。
「飯塚君は、今盛岡で仕事してるの?」
「うん、営業なんだけどね、慣れなくて」
「じゃあ、前は東京にいたの?」
「うん、東京の大学を出て、東京の会社に就職したんだけど、慣れなくてね」
「そうだったんだ。私の知っている人も、皆そうだったのよ。だから私は最初から東京や仙台などの都会には行こうと思っていなかったわ。だから、大学も盛岡、就職も最初から盛岡でしたのよ」
 と早苗は言った。
 早苗という女の子は、最初その勢いから、てっきり東京の大学でも出ているのかと思っていたが、思ったよりも堅実な人生を送っているようだ。そういう意味で、川北は、
「彼女は、俺と性格が似ているのかも知れないな」
 と感じた。
 だからと言って、さっきのような、久しぶりに会った相手に懐かしいからと言って、まくしたてるような話し方はしないだろうと思っている。そういう意味では、早苗というのは、川北にとって、
「似て非なるもの」
 という言葉とはまったく逆の、
「大同小異」
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次