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謎は永遠に謎のまま

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 それでも、何とか仕事を成功させたのは、間違いなく川北の手柄である。上司もそのことに敬意を表しているのか、それまでとは違ったのは、一目置かれるようになったからだろう。
 川北は、
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて、休暇を取らせていただきます」
 と言って、1か月の休暇に入ったのだった。
 もっとも、ここまでの不眠不休の仕事が、表にバレてしまうわけにはいかない。特に、コンプライアンスの厳しい今の時代で、ブラック企業だと目を付けられると、何かと会社にとって非常に都合が悪い。
 特にこの会社は、中小企業と大企業の中間くらいの会社で、大企業からの仕事が回ってこないと、あっという間に干されて、会社が立ち行かなくなる。ソフト開発会社というのは、ピラミッド型になっていて、大手が受注した仕事を、子会社、さらには、孫請け会社に仕事が回され、それぞれの会社は、それで成り立っている。
 しかし、親会社も、厄介な仕事は引き受けたくないこともあって、下にいくほど、ロクでもない仕事を請け負うようになる、
 しかも孫請けともなると、半分は零細企業、仕事が滞ってしまうと、下手をすると、ひとたまりもなく倒産の憂き目に遭うことだろう。
 川北の会社は、まだ子会社程度なので、そこまでではないが、それでも、綱渡りの企業と言ってもいいだろう。
 景気がいい時代ならまだしも、そもそも、ソフト開発の会社ができてきてから、好景気だったなど、今までになかったではないか。何しろ、
「失われた30年」
 という言葉があるが、今から30年前というと、1990年代、つまり、バブルが弾けた時代である。
 そこから、日本経済は、ずっと低迷していて、その間に、リーマンショックなどを経て、日本でも有数の
「ダメ首相」
 による、肝いり政策だったはずの、
「アベノミクス」
 なる政策が、大失敗だったこともあって、すべてが、最悪になってしまった。
 この30年が、すっぽり平成年間にあたり、令和になってからというもの、いまだに終息のめども立っていない
「世界的パンデミック」
 が、全世界で流行したことで、さらに経済はひどいことになってしまうことだろう。
 そんな状態なので、今の会社にしがみついていかなければならない。そんな気持ちもあって、一瞬たりとも気が抜けないと思うのだった。
 そんな時、やっと一つの仕事を成し遂げ、会社からも評価がもらえたことで、一安心してもいいだろう。ただ、会社に戻ってからは気が抜けない毎日が続くという思いもあってか、休暇のこの時期を有意義に過ごそうと思っていた。
 第一条件は、今の疲れ切った状態を、心身ともに癒せる環境に持っていくことだった。せっかくの休暇の間に疲れ切った身体をある程度もとに戻しておかないと、せっかくの会社からの信頼も無駄になってしまう。いや、それよりも何よりも、きついのは自分だということではないだろうか。うまくやらなければ、辛いのは自分であって、それを何とかしようと無理をすれば、却ってこじれてしまいかねない。そのためには、リフレッシュが絶対条件であった。
 そして、第二条件としては、
「無駄な時間を過ごさないこと」
 これではないかと思っている。
 せっかくの時間をいかに有意義に過ごすかということであり、
「何かをしないといけない」
 というプレッシャーからか、焦ってしまって、何をしていいのか分からないなどという状態になってしまうのは、本末転倒であり、そうならないようにするにはどうすればいいか? ということが大切であった。
 ただ、この2年間で、世の中を一変させた、あの悪夢の伝染病、どこかの国の陰謀説もある中で、そうもいっていられない。国の政策がまったくあてにならないのだから、自分の身は自分で守るしかないということだろう。
 そういう意味で、表立っての旅行というのは、いかがなものか、そう思うと、飯塚の誘いは、
「渡りに船だ」
 と言えるのではないだろうか。
 過疎地であり、しかも、そんなに感染者もたくさん出ていない岩手県に行くのは、悪くはないかも知れない。ただ、一つの懸案事項としては、
「都会からのウイルスを持ち込まれるのは迷惑だ」
 と思っている住民がまったくいないとは限らないということであった。
 何しろ、田舎とは閉鎖的なところであり、ただでさえ、よそ者扱いをされるのだ。特に、南国とはいえ、こちらだって田舎者に変わりはない。田舎にいる時、少なからず都会への憧れはあったが、それ以上に、都会に対しての、
「よそ者感情」
 というのがあったのも否めないのだった。
 さらに、今回の伝染病のリスクは高齢者に多い、田舎の過疎となっている村というと、「女子供か、老人しかいない」
 という意識が強い。
 そのために、都会から病原菌を持っているかも知れない人間に、簡単に村に入ってほしくないという気持ちは少なからずあるだろう。
 確かに、友達や友達の家族、温泉宿の人たちからは、
「歓迎しまう」
 と言われてはいるが、それが本心からなのかどうか、図り知ることはできないだろう。
 東京からの客について、前もって友達に聞いてみると、
「東京からどころか、地元に近い人、今まで常連だった人も、最近ではここに来ることはほとんどないんだ。お客が来てくれるというのは、ありがたいことなんだよ」
 と言っていた。
「そうか、じゃあ、伺おうかな?」
 とその時は素直にその言葉に甘えたが、旅行が実際に近づいてくると、次第に心配になってくる気持ちも否めなかった。
「本当に大丈夫なのか?」
 という一抹の不安を抱きながら新幹線に乗って、盛岡を目指した。
 とりあえず、友達とは、盛岡で落ち合ってから、昼食を食べて、まずは友達の実家に行くことになっていた。その日だけは、友達の実家に泊まることにしていた。
「ずっとうちにいてくれてもいいのよ」
 と言ってもらったが、さすがにそうもいかず、温泉も目当てだからということで、二日目以降は宿に泊まることにしたのだ。過疎の村とはいえ、湯治場としてはかなり有名だということで、旅館ではあるが、至れり尽くせりのサービスがあるというその宿を楽しみにしている川北だった。
 川北は、盛岡で約束通り、飯塚と待ち合わせのために待っていてくれた飯塚と無事に出会うことができ、久しぶりの再会を喜び合った。飯塚は、東京にいた頃とはすっかり変わっていて、あの頃もひ弱く見えた青白い顔から、すっかり日に焼けた顔になっていた。安心して、
「だいぶ逞しい顔にあったじゃないか。田舎の空気はさぞかしおいしいんであろうな」
 というと、
「いや、まったくだ。でもこの日焼けは、雪国で住んでいるから、反射による雪焼けってやつかも知れないな」
 というのだった。
「どっちにしても安心したよ。仕事の方はどうなんだい?」
 と聞くと、
「ああ、何とか盛岡の方の会社に就職できて、何とか営業の仕事をやっているよ」
 というではないか。
 川北と違って、天真爛漫なところがある飯塚だ。うまくやれば、営業に向いているかも知れないと思っていたが、やはり営業職について、何とかと言いながらでもできているんだから、川北としても、
「俺の見る目があったということかな?」
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次