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謎は永遠に謎のまま

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 ノートにある小説に書かれているポイントがいくつかあったが、そのうちの一つに、
「一度、警察が捜査したところは、隠し場所としては絶対に安全だ」
 ということであった。
 何かの犯罪があった時、警察はその証拠品を探そうと、いろいろ捜査を行うのだが、自分が最初に疑われ、そして、いきなり捜査令状でも取られて、捜査を行われない限り、普通であれば、まずは、捜査令状のいらないところから警察は捜査するだろう。
 もちろん、立ち入り禁止のところでもない限りは、どこを捜査したのかは大体分かる。それに警察が捜査をする時、立ち入り禁止にしておいて、そのあとですぐに解除した場所があれば、そこは捜査済みということがバレバレであろう。
 そうなれば、その場所は一番何かを隠すには一番いいというわけだ。
 特に、まったく関係のない事件であれば、特にそうだ。警察などというのは、自分たちの事件に関係のあるものにしか興味がない。となれば、まだ捜査をしていないところに、他の事件の証拠になる重要なものが隠されていても、気にするはずはない。ナイフや血の付いた、明らかに犯罪に関係しているものでも出てこない限りは、重要なものが発見されるはずもないのだ。
 ある意味、このノートは、事件に関係のあるものではないだろうか。しかし、それをなぜ10年も前に埋めたタイムカプセルの中に入っているというのか? それを考えた時、
「手品師が、右手を見ろと言った時、左手を見る」
 と言ったような手口や、アリバイトリックと密室トリックの合わせ技として使われる例を思い出していた。
「入らなければ、出られない」
 という言葉も、小説の中で使われていたっけ。
 若い方の刑事は、学生時代から推理小説を結構読んでいて、トリックなどの研究をしていた時の記憶を思い出した。
 そんな彼も、まだ飯塚のことをよく知らなかったので、ミステリーサークルに所属していたといわれると、簡単に納得したに違いない。
 今回の10年後の犯行を予期したノートがタイムカプセルに入っていたとするならば、一番考えられることとしては、
「箱の中に最初から入っていたわけではなく、最近になってそれを掘り起こし、その中に後から入れたのではないか?」
 ということである。
 他の人はノートの中身を見たわけではないのだから、その時のノートと差し替えればいいだけだ。適当に汚しておいて、まるで10年前のノートと言われても不思議がないようにしておけばいいだけだ。そうしておいて、ノートを仕込み、わざと、雪崩で発見されるような浅い場所にしておいたとは考えられないだろうか?
 それは、なるべく早く発見されるのを最初から狙ってである。白骨死体が発見されなければそれはそれでいいのだが、白骨の発見は、あくまでも、目的とは関係のないところにあったのかも知れない。
 発見されたノートを警察が読んだとしても、事件性がなければ、別に何も感じない。ナイフが発見されたとしても、白骨との関係性を疑われた時、鑑識に回されても、別に問題ないと、タカをくくっていたのだろう。
 だが、唯一の問題は、そのナイフに付着している血液が、二人のものだというのが分かったことだ。これが一体何を意味しているのか?
 一人は白骨死体のものだとして、もう一つは犯人がケガをしたのか、それとも、このナイフがまったく違う事件で使用されたということなのか、とにかく時間が経っているので、想像しかないのだ。
「ひょっとすると、このノートを入れた時には、そこにはナイフなどなかったのかも知れない」
 ノートを入れた時、ナイフがあれば、まずいと思うはずだからだ。
 ということを考えると、
「この箱は以前、何かの事件で調べられたのかも知れない」
 とノートを入れた人は思った。
「一度捜査されたものは二度と捜査されない」
 という鉄則の元、ナイフを箱に入れて、そして、タイムカプセルに入れたのだ。
 もし、10年後の掘り出すべく時が来て、中を開けてそこにナイフが入っていたとしても、誰が警察に通報するというのか。
「あれ? 錆びついたナイフがあるけど、誰かが入れたのか?」
 という程度で、事件性も何もなければ、わざわざ警察に通報などするはずもない。そう考えると、やはり、このタイムカプセルは、実に安全な隠し場所だったのだ。
 ナイフといい、このノートといい、本来なら、事件性があり、それを警察が発見しない限り、おかしなことにはならない。今回、偶然雪崩という小規模な事故(死傷者がいなかったという意味での小規模)が発生し、そこで白骨死体が発見されたことで、警察の捜査が始まったことで、注目されたことであった。
 そもそも、警察の捜査員の方も、本音としては、
「いまさら白骨死体が発見されたとして、別に殺人でもなければ、死体遺棄では時効が成立しているはずなので、いちいち捜査はいらないはずだから、殺人ではないということが証明されてほしい」
 ということであった。
 しかし、タイムカプセルが出てきたことで、事件性がありそうな可能性が出てきた。ただ、今のところ、白骨死体の身元が分かっていないので、ナイフから血液が検出されたとしても、殺人事件と断定されたわけでもない。肝心の被害者が特定されなければ、どうにもできないということだ。
 結局、身元不明の死体ということで、事件にはならなかった。
 だが、若い刑事は実に気になっている。彼は、一応、飯塚に遭った。
 飯塚の話は、的を得ない話に終始した。あたかも相手を翻弄しているのがよく分かる。煙に巻くというのはまさにこのことのようだ。きっと、若い刑事が、
「ミステリーマニアだ」
 ということを、話していて察したのだろう。
 ミステリー談義で時間が過ぎてしまった。しかし、若い刑事にはその中に事件についての核心が隠されていることを分かっていたのだろうか?
 彼が考えていた、
「隠し場所のトリック」
 あるいは、
「密室とアリバイの合わせ技で、実は最初から差し替えが行われた」
 というような話がなされたのだ。
 どちらも、ミステリー小説の中で、主要なトリックにしてしまうと、読者から、
「なんだ、そんなことか?」
 と言われることもあるのは覚悟の上だ。
 そのために、いかに、その状況を分からなくするかという文章的なテクニックとストーリー性が生かされることになるだろう。
 しかも、小説というのは、マンガなどと違い、情景をすべて自分で想像、いや、妄想して場面を描くものだから、読む人によって、人数分の光景が広がっている。まるで、
「パラレルワールド」
 のようではないか。
 そんなことを考えていると、
「今回の事件自体が、まるで作られた犯罪」
 のように思われた。
「原作がどこかにあり、その原作に沿って、自分たちが動かされている」
 という感覚である。
 それこそ、叙述トリックと言われるもので、一番、
「ノックスの十戒」
 に引っかかってしまいそうに感じてしまう。
 そういえば、彼が書いた小説の最後のところで一つ気になる部分があった。
 それというのは、
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次