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謎は永遠に謎のまま

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「ええ、さすがに手書きだと、最後の方は、字かかなりひどくて解読するのに、少し骨が折れましたが、なかなか面白かったですよ。早苗さんは読まれていないですか?」
「いいえ、私は、人の小説は読みませんからね?」
「じゃあ、飯塚さんはどうですか? あなたの小説を読まれたんですか?」
 と聞くので、
「それはないと思います。私が小説を書き上げてから、タイムカプセルに入れるまで、10日ほどしかなかったからですね。私の小説を読んで、それから書く初めて、完成させるまで、10日以下というのは、ほぼ不可能に近いと思います。まず一日に書ける量は限られていますからね。なんと言っても、手書きですから、書くというだけで、どうしても限界がある。それだけはどうしようもないからですね」
 と、早苗は言った。
 今のようにパソコンを使って書き上げるのであれば、不可能ではないかも知れない。どうしても仕上げようとすると、音読を誰かが書き写し、一人が疲れたら、次の人が引き継ぐというような人海戦術でもなければ不可能であろう。
 この日、早苗の事情聴取はこれくらいにしておいた。
「もしまた伺いたいことがあれば、その時は」
 と言って、その日はそれでお開きとなった。
 彼女が帰った後、二人の刑事が話をしていたが、
「次は飯塚氏ですかね?」
「そうだな、飯塚氏に会う前に、彼の小説というのを読破する必要があるようだな」
 と言ったは、先ほど早苗との会話で一つだけ、明らかなウソがあった。それは、
「もう一つの小説を読んだ」
 と言ったことだった。
 確かに頭の障りくらいは読んだが、そこから先はほとんど読めてはいない。実際に読解が難しいところもあり、読んでいて途中で読むのがつらくなってきたのも事実だった。
「気になったのが、あの飯塚が書いたという小説は、どうも、早苗の書いた小説をヒントにして書かれているような気がするんだよ。もし早苗の言う通り、飯塚の小説を10日で書くのが不可能だとすれば、早苗が書き終えてから、タイムカプセルに収める日にちが10日しかなかったという方が間違っているような気がするんだ。早苗が勘違いしているのか、それとも、10日しかないということを信じ込ませたい何かがあるのか? もし後半だったとすれば、このウソが何かを意味していて、白骨死体に、関係があるということを示しているのではないだろうか?」
 と、先輩刑事は言った。
「私は、この事件には、もう一つ何かの秘密があるような気がしているんですけどね」
「私もそう思うが、それが本当に一つだけなのか、そっちが怪しい気がするんだけどね」
 という会話は、次第に話があふれていくのであった。
「どうやら、先輩は、自分が思っているよりも何か別のことを感じていて、それが膨れ上がっているかのようだ」
 と、後輩刑事は感じていた。
 それが何なのかはよく分からなかったが、
「ひょっとすると、本人も分かっていないのかも知れない」
 と、先輩を見ながら、後輩はそう考えていたのだ。
 小説は、先輩が最初に読み始めて、1冊目を先輩が読み終わると後輩に渡して、先輩が2冊目に取り掛かると、後輩が受け取った1冊目を読んでいくというやり方だった。
 二人はそうやって、捜査の合間に少しずつ読んでいって、三日で読み終えたのだった。
 先輩は、
「うーむ」
 と言って頭を傾げたが、後輩は、何も言わずに、先輩の考えがまとまるのを待っていた。それにしても、その様子が、結構落ち着いているようで、後輩には後輩の考えがあるようだった。
 小説は、最初ありきたりな内容だったが、次第に、ミステリーというよりも、ホラーやSFの様相も呈してきた。最後の方は、ホラー色が強くなっていって、ホラーというよりも、都市伝説的なオカルトチックな話になってきていたのだ。
 そもそも、作品を書いた人間が育ったところが時代に外れた、相当昔を思わせる秘境と言われるような田舎の村ではないか。
 いろいろな伝説や逸話などが残っていそうで、その話を使ったミステリーではないかと思われた。
 だが、面白いのは、今回の事件というよりも、全体的に曖昧な部分で、今の状況を預言したのではないかと思えるような話である。例えば、出てくる話としてタイムカプセルを埋めるシチュエーションであったり、そこに死体の一部が入っていたなどという話は、いかにも、ホラーを思わせる。
 死体損壊を感じさせるストーリーで、その箱の中には、小説が入っている。しかも、一つではなく二つだというのだ。まるで示し合わせたかのようではないか。
 それを主人公は予知するかのような話になっていて、それが未来において、交換殺人に結びついているという話であった。
 交換殺人に結びつけるところは、さすがに中学生の発想ということで、かなりの無理はあるが、実際に、それくらいの無理をしないとできない話でもあった。
 大人だったら、
「こんな話を書いたりすれば、ミステリーの作法に違反する」
 ということで、大人は決して書かないだろう。
「ノックスの十戒」
 などという言葉を知らなくても、当然、書いてはいけないことくらい、分かりそうなものだ。
 だが、ルールの範囲内であれば、どこまでギリギリを貫けるかという意味で、まるで、
「チキンレース」
 を思わせるものになるのではないだろうか。
 子供が読むと、意外と面白くないかも知れない。
 派手で、トリックの奇抜さなどを求める子供の読者と違って、玄人好みのミステリーマニアと呼ばれる人たちであれば、結構、楽しく読めるものかも知れない。
 ある意味、叙述トリックにも似ているのかも知れない。読み込んでいくうちに、
「ここは、額面通りに読んではいけない」
 と感じながら、読者の考えを推理するという読み方をしていると、意外と面白いものだ。
「読者への挑戦状」
 なる書き方をするミステリー作家も結構いる。
 確かに、密室トリックや、アリバイトリックなど、最初からトリックをバラしているものは、その時点で、
「読者への挑戦だ」
 と言ってもいいだろう。
 そういう意味では、交換殺人というのは、まったく逆で、一人二役などの事件のように、トリックが分かった時点で、作者の負けである。
 ただ、だからといって、一人二役の場合は、ある程度の早い段階から、
「そっくりな二人」
 あるいは、
「双子の兄弟」
 などというヒントになるものを示しておかなければいけない。
 これも、ノックスの十戒のようなものである。
 また交換殺人もそうだ。
 最後に交換殺人の片棒を担ぐことになる人間を最後の方で出してくるというのは、完全に、
「後出しじゃんけん」
 のようなものであり、違反行為だといえるだろう。
 そう考えると、
「トリックが分かってしまっては、その時点で作者の負け」
 と言われることであっても、最後まで、トリックを隠すための工作をしてはいけないということだ。だから、一人二役、交換殺人なども、もろ刃の剣だといってもいいだろう。そういう意味で、トリックの二重三重にしておく必要があるというのも、うなずけるというものである。

                 大団円
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次