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謎は永遠に謎のまま

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「お互いに、犯人が分からないが、次第に利害が一致していると思い込む。まるで、交換殺人でもしているような感覚になっている。変則な交換殺人」
 という言葉があったことだ。
 なるほど、その小説は連続殺人のように見えるのだが、実際には、連続いない。そこが問題であり、逆にそれが、今度は交換殺人を容易ならしめることになるという、
「一つのトリックが解明されると、別のトリックが効力を発揮する」
 という、二重三重のトリックという発想が、そのノートには書かれていた。
 それを思うと、このタイムカプセルというのも、普通に考えれば、ありえないことに思うようなことでも、ちょっと考え方を変えると、いや、考え方を戻して、後から追いかけてくる人間を待ち伏せる感覚になれば、事件は解決するものなのかも知れない。
 きっと、犯人、いや、このシナリオを考えた人間は、白骨死体の身元が分からなければ、事件になることはないという思いと、
「事件にならなければいくら挑発しても、自分たちが罰せられることはない」
 という思いから、こんな思い切った、まるで、
「警察や捜査員に対しての挑戦」
 のような形をとったのではないだろうか?
「警察なんて、どうせあてにならないんだ」
 という思いだけでは、こんな挑戦はしないだろう。
 ひょっとすると、
「今までの自分が生きてきた中で、警察を頼ったが、警察は何もしてくれなかった」
 という経験があり、それをずっと根に持っていたのだとすれば、それは、
「警察に対しての挑戦」
 というよりも、
「警察に対しての復讐」
 ということになる。
 だからといって、個人に対しての復讐ではない。その個人だって、警察組織の中で、そのように動くしかなかったわけであり、そんなことは百も承知だったからだ。
 ノートに書かれた交換殺人というのが、何かを暗示しているとすれば、考えられることとしては、これらのことを計画したのは、一人ではないということだ。
「二人による犯行。しかも、そこには叙述トリックが隠されている」
 ということを考えると、叙述トリックに言えることとして、思い浮かぶこととして、
「叙述トリックは、現実の犯罪ではなく、あくまでも推理小説において、その書き方で相手をミスリードさせるというものだ」
 と、いうことだと考えた時、叙述トリックにおける、一つのカギを思わせるのだ。
 そのカギというのが、
「書き手の問題」
 ということだ。
 小説を書く上で、問題になるのは、書いている人間が、一人称か三人称か、それとも時と場合によって変わる、
「神視線か?」
 ということであろう。
 つまり、探偵小説において、探偵には、助手の存在が重要だということである。
「シャーロックホームズに対しては、ワトソン。神津恭介に、松下健三。由利麟太郎に対しては、三ツ木俊助と言った具合である」
 ではなぜ、助手が必要なのかというと、彼らの役割は、
「事件の捜査の補佐」
 というわけでない。
 それであれば、
「明智小五郎における、小林芳雄(少年)」
 のような形になるのだろうが、松下健三、三ツ木俊助には別の役割があるのだ。
 それは、何かというと、
「記述者としての役割」
 である。
 記録者とでもいうべきか、彼らが新聞記者であったり、雑誌社であったりして、探偵の事件簿の記録者としての存在が一番大きいのである。
 この事件においての記述者としては誰がいるかというと、他ならぬ、川北であった。ここまで作者は、川北を、
「第三者であるが、まるで主人公のように描いてきた」
 しかし、途中から、白骨が発見されてからというもの、川北は蚊帳の外に置かれている。これが、実は叙述トリックだとすればどうだろう?
 たぶん、読者の中には、
「川北はどこにいったんだ? 主人公ではないのか?」
 と思って見ておられた方がたくさんいるに違いない。(まあ、もっとも、何人の読者が読まれているかということであるが)
 そのことを、読者はどう考えているだろう。
 あれだけ、終盤で、
「叙述トリック」
 や、
「ノックスの十戒」
 という言葉を口にしているのだから、それなりに考えがあることだろう。
 勘のいい読者は、叙述トリックと、川北との関係に気づかれた方もいるかも知れない。そう考えると、この事件のシナリオ、いや、小説というのは、川北によって演出されたものではないかともいえるのだ。
 曖昧な発想はどうしても、切り離すことはできないし、この中にウソが隠されているわけではない。あくまでも、叙述なのだ。
 もちろん、
「このお話で誰が誰を殺した」
 などという話は出てくるわけではない。
 たぶん、白骨が埋まっているのを何かのきっかけで知ったのか、それとも、何かの枯れ葉か何かの隙間から、白いものが見えたことで、
「白骨が埋まっていれば、何か小説が書けるかも知れない」
 と感じたのかも知れない。
 その時に一緒に、この村が他の土地と隔絶された、
「陸の孤島」
 であることを利用すると、ホラーや、オカルト風にも考えたのかも知れない。
 さらに、
「ホラーやオカルトなどを組み込む作品にするのであれば、SF風にもできるかも知れない」
 と思ったことから、
「タイム」
 という言葉を使うという意味で、
「タイムカプセルの合奏が生まれ」、
 そこから、
「一度捜査したところは警察は二度と捜査をしないということから、その場所が一番安全な隠し場所だ」
 ということを思いついたのかも知れない。
「では、あの白骨はいったいなんだったのだろう?」
 と思うかも知れないが、この話において、
「白骨殺人事件などというのは、最初から存在していないのではないか?」
 と考えられる。
 白骨が誰のものなのか分からない以上、それは、ミステリーなどのラストシーンでよくある、
「関係者全員が死んでしまった今となっては、謎は永遠に謎のままである」
 という言葉が思い出されるのであった……。

                 (  完  )
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作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次