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謎は永遠に謎のまま

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「いいえ、この間の白骨死体が発見されたあたりを、捜索していると、この箱が見つかったんですよ。ちょうど、白骨が埋められていた近くに転がっていたんですね。やっぱりこの間の雪崩が、影響しているでしょうね」
 ということであった。
「あの時の雪崩ってそんなにすごかったんですか? 土に埋めてあったものが、出てくるくらいに」
 と早苗がいうと、
「そうだったんでしょうね。何しろ白骨ですからね。あまり浅いところに埋めていたら、犬などがほじくり返す可能性がありますからね。そのあたりは、もし殺人で、死体遺棄だったら、それくらいは気を遣うでしょう」
 と言われた。
「確かにそうでしょうね。実はこのタイムカプセルは近々掘り起こそうと思っていたんですよ、でも、掘り起こすのに、あの時全員の許可がいるので、今から一人一人当ってみようかと思っていたんです」
 と早苗がいうと、
「皆で何人だったんですか?」
 と聞かれた早苗は、
「5人です」
 と答えた。
 まさしく警察が推察した通りである。
「じゃあ、あの10年後の自分への手紙を書いた5人ということでしょうか?」
 と聞かれた早苗は、
「ええ、その通りです」
「早苗さんは、あの箱の中にどんなものが入っていたのかということを、覚えていますか?」
 ともう一人の刑事に聞かれて、
「ええ、少しだけですが覚えています。5人の自分への手紙と、私が拙い小説を書いたノート。そして誰かがもう一冊のノートを入れていたと思います。それに野球のグラブにボール。これは、1人のものではなく、2人で1セットだったんです。そして、もう一つ別の一対のものがあったような記憶があるんですが、それも、その2人のものだったんですよ。野球とはまったく違ったものだったと思うんですけどね」
 と早苗は言った。
 確かに、何か、一対の何かがあったような気がしたが、かなり泥にまみれていて、ハッキリとしないものだった。
「その中で早苗さんのものは、小説を書いたノートと、自分への手紙だけですか?」
「ええ、そうです」
「じゃあですね、その中にナイフは間違いなくなかったんですね?」
「ええ、そうです。まさかタイムカプセルに抜身のナイフなど入れるわけはありませんからね」
 と早苗は、少し苛立ったように言った。
「それはそうでしょうね。ところで掘り返すということを誰か他の誰かに話しましたか?」
 と聞かれた早苗は、
「ええ、飯塚さんには話しました。最近、通勤のバスでよく一緒になるんですよ」
 というと、
「そうですか、彼はなんと言っていましたか?」
「掘り返すのは構わないと思うけど、でも、他の人に立ち合ってもらうか、了解を得る必要があるんじゃないかって言ってました。私が今のところ居所が分かっているのは、その自分と、飯塚君を覗いた3人のうちの、一人だけなんですが、その人は、今仙台にいるので、近々連絡を取ってみようかと思った矢先だったんです」
 と早苗がいうと、
「早苗さんの小説をいうのは、女性が蹂躙されるお話ですか?」
 と刑事がいうと、一瞬早苗の身体がビクッとなったような気がした。さすがに内容がないようだけに、刑事に読まれたと思うと、あまりいい気分はしない。しかもそのことに触れてこようとするのだから、気持ち悪さがこみあげてくるのは仕方のないことだろう。
「ええ、そうですが、読まれたですか?」
「申し訳ありません、何しろナイフが出てきているもので、どうしても中身を改める必要があったんです。申し訳ありません」
 と刑事がいうのを聞いて、早苗は、フッとため息をついた。
 少し睨みを利かせたが、読まれた以上しょうがない。
「実は私たちが気にしているのは、もう一つのノート、正確には数冊にわたって書かれている長編小説についてなんですが、中身に心当たりありますか?」
 と聞かれた早苗は、
「いいえ、私はあまり人が書いた小説には興味がないんです。だから、小説を書くのは好きだったんですが、読む方はあまり好きではありませんでしたね」
 と言った。
「小説を書く人って、そういう感覚なんでしょうか?」
 と刑事が聞くと、
「それは人それぞれかも知れません。人の小説を読んで勉強する人もいれば、人の小説を読むことで、自分の筆が揺らぐという人もいますからね。それは、その人それぞれなんでしょうが、プロになりたいなどの人は、結構人の作品を読んだりするのかも知れないですね。でも、そういう人は結構途中で、挫折を味わうと、簡単に書くことをやめてしまう人が多いような気がします。これはあくまでも私の勝手な思い込みなんですけどね」
 と早苗が言った。
「そういうものなんですかね?」
「ええ、私はそう思っています。私も最初は書けるようになった時、一度はプロを夢見たりもしましたよ。文芸誌の新人賞に応募してみたりしたこともありました。でも、すぐにプロは諦めたんです。自由に自分で考えたことを書いているのがいいと思ってですね。それは楽だとかいう感覚とは違うんですよ。楽をするということは、決してプロになることと正反対ではないからですね。しかも私は楽をするということを悪いことだとは思わない。ただ自分には合わないと思っているだけで、そんなことを考えていると、プロって何なのかと思うと、書きたいものを書ける今のままがいいと、その時は思っていたんです」
「じゃあ、今は?」
「高校生になって、少し書いていたんですが、受験が近づいてくると、自分には、趣味と試験勉強の両立ができないと分かったんです。そうなると、受験勉強に集中するようになるでしょう? それで、小説を書くのを小休止したんですが、晴れて大学に入ることができて、ゆっくり小説を書けるようになり、これでのびのび書けると思っていたんですが、小説というものを書けるようになったはずなのに、すっかり元に戻って、書くことができなくなってしまったんです」
 と、早苗は言った。
「一度書けなくなると、最初に書けるようになるまでよりも、さらにきついような気がしたんです。一度書けるようになったという自負があるからでしょうか? 実際に原稿用紙に向かって書いてみようと思っても数行書いてから先にすすまないんです。以前は、どんどんアイデアが浮かんできて、手が痛くなるのがマヒするほど意識が集中していたんですが、もうできなくなったんだと思うと、本当にできないものなんですね」
 と、早苗はまくしたてるように続けたのだった。
 その様子を見ていた刑事二人は顔を見合わせて、驚きを表現していた。それを見て、早苗もびっくりして我に返ったようだ。
「すみません、ちょっと興奮してしまったようですね」
 と言って苦笑いをして、
「まあ、それだけ小説を書くというのはデリケートなものなんですよ。他のマンガや絵にも言えることだと思うんですけどね」
 と、早苗は言った。
「そうですか。小説というのは難しいものなんですね?」
「ええ、もう一つのあの長編を書いた飯塚君も、きっと苦労して書いたと思いますよ」
 と、早苗は言った。
「ああ、あのミステリーを書いたのは、飯塚さんだったんですね。なかなかよくできたミステリーでしたよ」
 と刑事がいうと、
「刑事さんは読まれたんですか?」
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次