謎は永遠に謎のまま
ただ、誰かが禁止薬物か何かと服毒し、その中毒で死んだ場合、そのことがバレると、困る人がいた場合、例えば、不倫をしているとか、手を出してはいけない女に手を出してしまった場合、死体を隠す必要に迫られ、ここに埋めることで死体遺棄を考えたのだとすると、状況は分かる気がする。その場合は、死体遺棄と、救護義務違反などに問われるのであろうが、白骨化してしまっている以上、死んだときの状況を説明はできないだろう。そうなると、他殺なのか、事故死なのかというのも、鑑識で分かるのだろうか? それを考えていると、どこまで事件性が分かるかというところが難しいところであった。
ただ、鑑識が分かっていることとしては、死後5年ということだが、それであれば、死体遺棄の時効には引っかかっている。そうなると気になるのは、この箱に入っていたナイフは凶器ではないということになる。早苗の話では、このタイムカプセルを埋めたのは、10年前だというではないか。
ということになると、誰か犯人が、被害者を殺害した後、凶器の始末に困って、昔埋めたタイムカプセルの中に隠そうと思ったのかも知れない。
だが、それもおかしな話で、10年後には掘り出すことになっていたのであれば、掘り出される前にナイフを自分で掘り出すということをしなければならない。
実際にはそこに入っていたままだった。これを一体どういうことなのだろう?
しかも、この中に書かれている二つの小説、一つは読者がご存じの通り早苗のものだが、もう一つは誰なのか? 探偵小説のファンということであれば、飯塚の可能性はかなり高いといえるだろう。
早苗は、10年前、確かに凌辱を受けていた。それは、担任の先生によるものであるが、その時の早苗は、
「合意の上」
だったのだ。
あの小説は半分フィクションであり、半分はノンフィクションだ。つまりは、早苗が自分の受けた恥辱を、自らで書き残したのだが、事実をそのまま書くのは忍びない。それを自分でどうすればいいのかを考え、とりあえず、
「事実に基づいた架空の小説」
を描いたのだった。
早苗は、そのことを思い出したり、思い出そうとすると、記憶喪失に陥ってしまったり情緒が不安定になっていた。
そのことを心配した親は、一時期彼女を、精神科の病院に通わせた。催眠療法などいくらか試みてみたが、何かを抱えているということは分かっているが、どこからそれが来るのか、なかなか分からない。それだけ早苗の精神状態は固いものがあったのだ。
早苗が書いた小説とは別に、もう一人小説を書いている人がいた。その小説は完全に探偵小説で、素人が書いた小説としてはよくできている。これを中学生が書いたのだとすれば、
「これは、なかなかの文才かも知れないな」
と刑事も感じていた。
文章校正もなかなかで、ノート数冊にわたって書かれていた。原稿用紙にすれば、200枚以上の長編小説ではないだろうか。
トリックとしては、死体損壊のトリックに、アリバイを絡めた話であり、細かいところも伏線がしいてあり、なかなかの話であった。
「ミステリー小説の新人賞に十分に応募できるレベルだよな」
と、刑事を唸らせた。
その箱には、他には、
「10年後の私へ」
と題した手紙も書かれていた。
この手紙は、5通あり、皆それぞれ、自分の未来予想図を描き、その自分に手紙を書いているのだ。
明らかに掘り返すことを目的としていて、その目的が果たされる前に、雪崩が起こって、警察に見られることになるとは思ってもいなかっただろう。
中学3年生というと、皆、受験を控えてナーバスになっている。都会に出ることになるので、皆別々の高校に行くことになるだろうと思われる。どうやら、中に入っている
「10年後の自分へ」
という手紙が5通だということは、十中八九、ここの関わっている生徒は5人だということであろう。
手紙や小説、さらには、ボロボロになった野球のグローブとボール。一人は野球部だったのだろう。
「なんだ、これは?」
と底の方に見えたのは、小さな箱だった。
それは木箱で、かなり小さなもの。
「何となく見覚えがあるような」
その大きさは、小物入れよりもさらに小さいもので、開けてみると、ビニールに包まれた気持ちの悪いものが入っている。腐っているのか、カビが生えているように見えたが、それを見てひとりの刑事が、
「これは、まさか、へその緒?」
と言い出した。
「ああ、そうか、どこかで見たことがあると思ったが、子供の頃、母親から見せてもらったへその緒の箱にそっくりだ。さすがに中は気持ち悪くて開けてみるようなことはしなかったけどな」
というのだった。
それにしても、このタイムカプセルはいったい何なのだ。10年後の自分への手紙はまだ分かるが、この2つの小説、さらにはへその緒が入った箱。
へその緒が入った箱などは、普通であれば、大切に保管しておくべきものだろうが、それをタイムカプセルの中に入れるというのは、どういうことなのか? 見るのは嫌だが、捨てるのも忍びない。それでタイムカプセルに入れたというわけか。10年後には引っ張り出すのにである。
「そういえば、私も昔、タイムカプセルを作って入れたことがあったんですが、その時、タイムカプセルというのが実際に流行っていたんですよ。でも、その時、カプセルに入れたものは、いろいろあったんだけど、実はもう一つ埋めたんですよ。それは、絶対に開けることのない封印のためのタイムカプセルですね。タイムカプセルと言いながらの封印の匣。それこそ、パンドラの匣のようなものだったというわけですよ。それをこの箱を開けた時に思い出してしまいました」
というのだった。
だが、この箱は見たくもない封印したいものという感じではなかった。それなのに、なぜへその緒の入った箱であったり、ナイフなどを入れたのか? いや、入っているのか? と言った方がいいのかも知れない。
そんな箱の中を確認した時点で、刑事は、早苗のところへ赴いた。
早苗を見た刑事の第一印象は、
「聡明そうなお嬢さんだ」
というものであった。
お嬢さんというのは垢ぬけているという印象であり、こんな田舎の村にいては、もったいないなと思うほどであった。モンペや頬被りなどまったく似合うわけもなく、東京でも十分に思えるくらいである。
駐在所の奥で、他の人には見られないようにという配慮があったのだが、思ったよりも落ち着いている早苗を見ると、刑事もさすがに怪しまないではなかった。
ここから先は前述の続きとなる。
「この箱は、タイムカプセルだと思うんだけど、これは、あなたたちお仲間が埋めたものだと思って間違いないですか?」
と聞かれて、
「ええ、そうです。どうして私だと分かったんですか?」
と聞かれた刑事は、
「ノートに、行橋早苗というお名前が書かれていたからですね。それに十年後の手紙というのが、5通あって、あなただけがお名前を書かれていたんですよ。それで分かった次第です」
というと、
「これを刑事さんたちが持っているということは、これを掘り起こしたんですか?」
と聞くと、