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謎は永遠に謎のまま

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 このタイムカプセルがいつ埋められたものなのかというのを探るため、中を物色していると、そこに書かれている名前の一つに、
「行橋早苗」
 という文字があった。
 もちろん、駐在は早苗のことを知っている。今年、25歳なので、これが埋められたのが中学時代だったとすれば、ちょうど10年が経過している。駐在の方も、
「このタイムカプセルは、10年が節目だとすれば、そろそろ掘り出す計画があったのではないか?」
 と考えた駐在はさっそく、早苗を訪ねてみることにした。
 その間に問題のナイフは鑑識に依頼し、使用されたかどうかというのも含めて、調査してもらうようにした。駐在とすれば、なるべくこのナイフが出てきたことは伏せたうえで聞いてみようと思ったのだ。一応、警察署の刑事課にも話はしておいたが、
「それだけでは事件性があるかどうか分からない。とにかくナイフの鑑定結果が出なければ、動くことはできない」
 ということであった。
 ちょうど出てきた白骨死体とのかかわりもあるので、刑事課の方でも気にしておくようにしていた。だが、白骨が誰であり、自殺なのか他殺なのか、それとも事故か何かに巻き込まれたのか、それによって、動きが決まってくるので、今のところは、死体の身元調査だけが頼りだったのだ。
 駐在は、とりあえず、行橋早苗を翌日訪れてみた。ちょうど、早苗が仕事が終わってバスで帰ってきているところをちょうど捕まえる形になったのだが、家まで押し掛けるのは、「事件性があるわけでもなんでもないので、控えておくべきだろう」
 ということで、バス停で待っていて、あとでいいので、駐在所に来てほしいと言った。
 すると、彼女は、別に驚きもせずに、
「いいですよ。このままお供します」
 というので、さっそく表のところでは目立つので、駐在所の奥の部屋で、事情聴取ということになった。
「すみません、お呼び立てして」
 というと、
「この間の白骨死体の件ですか?」
 と、彼女だけでなく、普通なら誰もがそっちのことだと思うだろうことを聞いてきた。
「あ、いえ、そうじゃなくて」
 と言って、おもむろに缶を取り出して机の上に乗せると、
「これに見覚えはありますか?」
 と聞かれたが、分かる部分は錆びついてしまっていて、そこにあるのは、ただの錆びついた金属の匣というだけのことだった。
 そう聞かれた早苗は戸惑った。当然見覚えはある。しかし、それを、
「見覚えある」
 と答えてしまうと、警察が聞いてくることだから、何かの犯罪に関係のあることの可能性は高い。
 それを分かっていて正直に答えるのは、リスクが大きい気がした。
 だが、答えない場合、後になって、他の人の証言などから、早苗も知っているはずだという内容のことを告げられると、最初に聞かれたのに、ウソを言ってしまったことになり、言い訳ができなくなるだろう。
「すみません、忘れていました」
 という言い訳は、その場しのぎという意味では通用するかも知れないが、容疑という意味では限りなく怪しいと思われても仕方がないだろう。
 早苗の性格からすれば、
「後で分かってそれを後悔するくらいなら、最初から知っているということを自分から名乗る方がいいに違いない。自分に対しても潔し、自分が相手の立場であれば、一度ウソをつかれてしまうと、それ以降何を言われても信用できないだろう」
 と思うからであった。
「自分がされて嫌なことは、相手にもしない」
 というのが、彼女にとってのモットーだった。
 だが、逆に考えると、
「どうしても恨みを晴らしたい相手がいたとして、どういう行動をとればいいかということを考えた時、思い浮かぶのが、自分がされて嫌なこと」
 だったのだ。
 それは、何も早苗に限ったことではないだろう。早苗にとって嫌なことは、きっと他の人でも同じだと考えるのは、少々勝手だとは思うのだが、それは、自分も結局はその他大勢と一緒ではないかと思うからだったのだ。
 早苗は実は、飯塚のことを、憎からずと思っていた、どちらかというと、好感を持っていた。
 どこに対しての好感なのかというと、飯塚が、
「他の人と同じでは嫌だ」
 と感じているところだと思っていた。
 早苗にもそんなところがあり、それを異端的だと思っていて、それ以外はほとんど皆とほぼ同じだと感じるのは実に皮肉なことだと思っていた。
 だから、自分にはなくて、できないことを堂々とやっていて、そのくせ人望もありそうな、本当であれば、羨ましくて、そこが憎しみに変わってもいいはずの相手なのに、なかなか恨むこともできず、離れることもできないことに苛立ちを覚えていた。
 しかも、彼と必要以上に近づいてしまうと、せっかくの羨ましい性格が消えてしまうように思えてくるのが、早苗の中で、感覚として持っているところであった。
 だから、早苗は変に彼に近づこうとしなかったし、さらに、彼に誰も近づいてほしくないとも思っていた。
 今回、大学時代の友達ということで連れてきた川北に対しても、敵対心のようなものを持っていた。川北が女性に対して、鈍感なところがあるので、自分がそんな目で見られていることなど想像もしていなかった。
 だが、早苗が飯塚に興味を持っていることも分かったし、飯塚も早苗にかなりの思いがあるのも分かった。
 だが、今のところ距離はかなり遠くに感じられ、近づこうとしないのを、飯塚の方の考えだと思っていたのだが、実際に早苗の方の考えであった。
 しかも、早苗には矛盾した感覚があり、その矛盾がジレンマとなってしまって、二人の間がぎこちなくなってしまっていることに気づいていなかったのだ。
 早苗は川北に、余計なことはしないでほしいと望み、川北は、二人が結ばれてほしいと思い、さらに飯塚は川北の存在が早苗の中にある自分へのわだかまりのようなものを払しょくしてくれることを望んだのだ。
 三人三様で、それぞれに別のことを考えていたのだが、結局は、道は違えど、同じゴールを目指しているかのように思える。
 そのゴールがどこにあるのか、それぞれがどういう行動や心境を表に出せば、うまく行くのか、二人でも難しいのに、三人ともなると、なかなかうまくいかない。しかも、三人ということは、一歩間違えると三すくみになってしまい、いったん絡まってしまうとほどけ亡くなったり、三すくみの関係が成立してしまえば、誰も動くことができなくなってしまうのではないだろうか? そんなことを考えている時に、早苗に駐在がタイムカプセルを示した。早苗の最初に浮かんだのが、飯塚の顔だったというのも、前日のお願いからの続きなのかも知れない。
 早苗は、あの時、自分が何を書いたのかを思い出していた。
「そうだ、確か10年後には結婚しているかも知れない」
 と書いたような気がした。その中で、ひょっとすると、最悪のことになっていれば、相手が旦那であっても許せないというようなことも書いたかも知れない。
 あの頃の早苗は、今と違ってかなりの情緒不安定だった。友達と一緒にいても、皆と仲がいいというわけではなく、その中から本当に仲のよくなれる人を探しているという感覚だった。
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次