謎は永遠に謎のまま
ただ、田舎というところは、場所によっては、自治体の土地開発計画に入ったりして、すぐに、学校が解体されたり、10年という区切りを待たずに、なくなってしまうこともえてしてあったりした。
さらには、埋めた場所が分からずに、結局掘り返すことができないと言ったことになることも往々にしてあるだろう。
例えば、
「学校の校庭の端にある、大きな桜の木のたもと」
と言っておいても、実際にその木がなくなってしまっていることもあるだろう。
さらに、その木のたもと近くに、倉庫や学校の施設が建ったりと、まったく違った光景になっている場合もある。
そんな時はすでに掘り返されていて、ショベルカーのような重機を使って掘り起こすのだから、歯の平サイズの缶や箱などはひとたまりもない。大量の土と一緒にほじくり返されて、どこかに捨てられるのがオチだろう。
中には誰かが言い出して、その人の主導で埋めたとしても、その本人が忘れてしまったり、会社員になり、転勤で近くにいないなどの事情で、掘り返すという時期を逸してしまうこともあるだろう。
そういう意味で、タイムカプセルというのは、埋めたはいいが、目的完遂できるかどうか、甚だ疑問だといってもいいだろう。
よくテレビなどで、タイムカプセルをほじくり返しているのを見たりするが、
「これって本当に、そんなに簡単にできることなんだろうか?」
と疑問に感じたりするものだった。
そんなタイムカプセルが、今ここで話題になっていた。たぶん、早苗が飯塚に相談しようというのだから、早苗も一緒にタイムカプセルを埋めた口で、そのタイムカプセルを埋める主導権を握っていたのが、ここにいる飯塚だったのではないかと推測できた。
「ああ、タイムカプセルか。確かそういうのを埋めたよな」
と、飯塚は完全に他人事だ。
これを聞く限りでは、
「飯塚は、タイムカプセルに関しては、自分が主導権を握っていたというわけではないのだろうか?」
と感じた。
「あれ? あの時に主導権を握って埋めようと言い出したのは、飯塚君じゃなかったかしら?」
と言われた飯塚は、
「いや、確かにあの時、タイムカプセルということを最初に言い出したのは俺だったと思うんだけど、実際に主導権を握っていたのは、俺じゃなかったと思うんだ」
というと、
「じゃあ、誰だったのかしら?」
ということになり、それすらも、
「いや、俺は憶えていないんだ。早苗さんは俺だと思っていたのかい?」
と、言われて、
「うん、そうだと思っていたんだけど、でも、だんだん思い出してきたわ。そうね、確かに飯塚君じゃなかったわ。飯塚君のアイデアを引き継ぐ形だったと思ったけど、その人は、いつも主導権を握りたがっている人だったわね。それに飯塚君は言い出しっぺだったくせに、すぐ他に興味を示すことがあったので、すぐにそっちに飛びついた気がするわ。もっともそれが飯塚君のいいところだと私は思っていたんだけどね」
と、早苗は言った。
「ありがとうと言っておけばいいのかな?」
と言ってニッコリと笑った早苗だったが、その時の飯塚は一緒になって笑うことはなかった。
飯塚にしては、あまりないパターンだった。相手が笑うと、自然と微笑み返している飯塚だったが、何か心配事でもあるのか、笑えないようだった。
「今日の飯塚の行動からは考えられない」
と思ったが、あの感情が顔に出る飯塚としては、少し変わり身が早い気がした。
この時の感情は、飽きっぽいというのとはかけ離れている気がしてきたのだった。
「私、ずっとタイムカプセルを開けるのを楽しみにしてきたの。だから、飯塚君にもタイムカプセルを開けるのに協力してほしいのよ」
というではないか?
「それは、協力してあげたいのはやまやまなんだけどね。ああいうのって、一種の個人情報に関わることもあるんだろうから、あの時のメンバー皆に立ち合ってもらうか、あるいは許可を得ないといけないんじゃないかな? あの時のメンバーがどうなったのかって、君には分かっている?」
と聞かれた早苗は急に元気がなくなってしまった。
「ええ、確かにそうよね。勝手に開けていいはずはないわよね。それに、あの時のメンバーの居所を全員把握できているわけではないし、だからと言って、皆の消息を探すというのも、個人情報を割り出すことになるわけだから、タイムカプセルを掘り出すためってことでは弱すぎるわよね。それこそ、本末転倒というものだわ」
と早苗は言ったが、まさにその通りである。
だが、川北は早苗の落胆を見て、自分がタイムカプセルを埋めることができなかったという無念さを今感じていることで、それ以上に早苗の悔しさが分かる気がした。何とかして早苗の希望を叶えてあげたいという衝動に駆られていたが、だからといって、完全に部外者である自分がかかわりを持つということは許されない。
そんなことを考えているうちに、バスは早苗の降りる停留場に来ていた。
「じゃあ、今日はここで」
と言って、早苗はそそくさと用意をして降りて行った。
それを見て、川北は違和感を感じた。
「あれ? 何か変だ」
と思わず声が出てしまった。
「ん? どうしたんだい?」
と、川北の反応に飯塚は何だろうと思ったのだろう。
「あっ、いや、俺の気のせいなのか、昨日彼女と俺たちとでは、彼女の方が先に降りていったんじゃなかったかい?」
と聞かれた飯塚は、
「ああ、そういうことか。ここの住民ではない川北には、不思議なことだよな。実はこういう雪国では、その日の天候やその他の理由で、ここのような循環バスは、コースが変わることが時々ある。と言っても、路線から離れることはできないので、バス停をワープさせて、コースお途中の道を入れ替えることって結構あるんだよ。雪の多い時、さらには、雪崩が危険な時期などは、結構ある。特に雪崩が危険な時期は除雪を伴う除雪車が入ってくるし、逆に雪が深くなる時など、道路が凍結しないようにするための凍結防止剤や、凍った雪を解かすための融雪剤などを撒く車というのは、実に遅いスピードで走ることになる。その進行方向と同じ方向を走ると、渋滞に巻き込まれてしまう。そのため、路線バスは、それらの車を避ける形で運行されるのだ」
というのだった。
「なるほど、雪国の知恵というものなのかな?」
と川北が感心したようにいうと、
「まあ、仕方がないとはいえ、正直大変ではある。だけど、それもずっと住んでいると慣れてくるもので、当たり前のことだと感じるようになるものだよ」
と、飯塚は言った。