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謎は永遠に謎のまま

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 当時のマンガでは、アンドロイド物も、サイボーグ物も両方存在していて、基本的には、どちらも、勧善懲悪であった。ロボットとしてよく問題になる、フランケンシュタインというのは、アンドロイドであるが、サイボーグの雰囲気もあるように感じるのは、川北だけであろうか?
 思い出した話は、アンドロイドものであり、最初から機械の身体を作りあげた後で、人工知能を植え付け、最後に良心回路をつけるというものであったが、その良心回路が未完成のまま、敵に発見されたことで、不完全な良心回路を付けることになったロボットの話である。
 この問題は、
「ロボット工学三原則」
 に関わる問題で、ロボットが人工知能を働かせ、自分たちが人間に支配されることをおかしいと認識した時、人間よりも強靭である自分たちが、今度は人間を支配しようと考えないようにするための、三原則であり、それは、
「理想の人間を作ろうとして、怪物を作ってしまった」
 というフランケンシュタインの教訓から生まれた、
「フランケンシュタイン症候群」
 というものへの対策を三原則としてロボットの人工知能に埋め込むという考えが、
「ロボット工学三原則」
 である。
 その三原則には厳格なる優先順位がついていて、この優先順位のために、しばしば、ロボットが悩み苦しむというのが、このマンガのテーマでもあった。
「勧善懲悪なのか、それとも、ロボットも一つの人格のようなものを持っていて、それを尊厳として考えるかどうか、それが、ロボット工学三原則への挑戦であり。ロボット開発をいかに進めるか」
 という課題でもあったのだ。
 ずっと、そのロボットは、不完全な良心回路のために苦しむことになる。勧善懲悪の精神を持ちながら、自分がロボットであり、理不尽な目に遭うということに疑問を持ち始める。
 ただ、勧善懲悪が最優先であるので、悪の組織は完全なる敵であった。しかし、悪の狩猟が吹く笛の音は、そんなロボットの勧善懲悪を狂わせ、良心回路を刺激する。
 そのため、闘いながら、自分の中で葛藤を繰り返し、外敵と戦いながら、内部では良心回路と戦うという状態に、苦しむのだ。
 最終的には、戦闘態勢に変身したところで、良心回路の関係のないところで、完全な勧善懲悪となり、相手を倒す無敵の戦士になるわけだが、そこまでの苦悩を、果たして子供のレベルで理解ができるかどうかというのが難しいところである。
「今と時代が違った」
 と言えばそれまでなのだろうが、果たして、そう簡単に割り切れるものなのか?
 川北は、そのことを思い出していた。
 今の飯塚を見ていると、そのロボットのジレンマを感じさせられ、些細なことであっても、人間としてジレンマに陥るというのは、それなりも苦痛を伴うものである。
 恋愛経験の乏しい川北でも、そこまで考えさせられると、見ているだけで辛さを感じさせられるのであった。
 そんな状態の中で、早苗が口にしたのは、ちょっと意外な言葉であった。
「飯塚君は、結構、高校時代からいつも輪の中心にいて、まわりをまとめる役だったわよね?」
 と言い出したのだ。
 思わず、川北は心の中で、
「はぁ? あの人と関わることを極端に嫌っていた飯塚が、こともあろうに、輪の中心にいたとは?」
 と叫んでいた。
 自分にとっての飯塚は、同じ田舎者として話やすいやつだが、俺以外の人と話をするなど、想像もできないという雰囲気だった。
 それなのに、早苗が言っていることは、自分が知っている飯塚とは明らかに違った人物を想像させることであり、あたかも信じられることではないということだった。
「ああ、だけど、それがどうしたんだい?」
 と、飯塚も敢えて否定しようとはしない。
「輪の中心にいる」
 ということを自覚しているということであろうか?
 今まで控えめなところが、飯塚にはあって、それが田舎者らしくていいと思っていたのだが、ここまで自分に対しての態度と違っていると思うと、
「この人は、二重人格なのではないか?」
 と、感じさせられるのであった
 そんな飯塚に対して、さらに早苗は切り出した。
「どうやら、飯塚君も忘れているのかも知れないけど、ほら、あの中学を卒業した時のことよ」
 と言い出した。
 話を聞いてもまだピンとこないようだったが、高校時代のことではなく、さらに昔の高校時代のことを話しているのだ。
 中学時代というと、卒業がちょうど今から十年前ということになる。十年を機会ということが早苗は言いたいのだろうか?
 川北は、そのことを感じたが、飯塚の方では、ピンとこないようだった。
 それを見て、業を煮やした早苗が、
「ひどいわね。忘れちゃったの? 十年前のあの時のことよ」
 というではないか。
 十年前という発想は、川北にはあったのだが、飯塚にはなかった。川北は、早苗やここでの同級生との思い出も時間の共有もなかったから、言葉だけで判断できたことで、核心に近づけたのかも知れないが、実際に思い出がいっぱいの飯塚にとっては、その思い出が邪魔をして、すぐには思い出せなかったのではないかと思うと、それも無理のないことだろうと感じたのだ。
 だが、さすがにそこまで言われると、飯塚も思い出したようだ。
「ああ、あの時のことか。うん、覚えているよ」
 と、目を輝かせていた。
 飯塚は確かに忘れていたのかも知れないが、思い出してしまうと、それをまるで昨日のことのように思えたのではないかと思った。そして、その時の飯塚は少なくとも意識は中学時代に飛んでいて、もしその時川北が話しかけたとしても、遠いどこかで誰かがしゃべっているというくらいの意識しかなかったかも知れない。
 今の飯塚は、最初にもくろんだ早苗との思惑を超越しているかのような感覚で、気持ちだけがタイムスリップしたかのようだった。
「タイム?」
 と、自分でタイムスリップを思い浮かべたことで、二人の間の共通の思い出が何か分かった気がした。それが、
「タイムカプセルだ」
 ということを感じたその瞬間。まるで図ったかのように和音となり、そのもう一つの声が、飯塚だったのだ。
 彼も同じ瞬間に気づいたので、川北も同じ言葉を発したのが分からなかった。しかし、早苗には分かったみたいで、早苗はビックリしたように、飯塚と川北の顔を交互に見渡していた。高速で首が動いているかのようで、次第にその首の動きが止まらなくなるのではないかと思わせるほどだった。
 よく見ると、早苗の首は他の人の女性よりも長く感じられ、まるで、
「ろくろ首」
 のように見えたのだ。
 妖怪変化とはよく言ったものである。
 タイムカプセルというのは、中学や高校時代に、当時の思い出のものや、将来の自分に書いた手紙は、掘り出す予定の時期の未来予想図などを認めたものを仲良し数人の結束の証として、一緒の箱や缶に入れて、地中に埋めるというものである。
 田舎の方ではそういうことをするのをよく聞いていたが、川北の方ではそういえばしなかった。
 川北の仲間にそういうことをしようということを言い出す人がいなかったからなのだろうが、川北は、タイムカプセルということはしていない。
作品名:謎は永遠に謎のまま 作家名:森本晃次