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後味の悪い事件

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 新婚で入って、すでに子供が中学生になるというような住人も結構いたりするのだ。地区自体は、もう三十年近く経っていて、平成の初期の建築であった。
 そういう意味で、なかなか新規入居者がいない分、長く住んでくれる人が多いのはありがたかった。
 そもそも、この付近に住民が増えたのは、ここ十年くらいで、このマンション以外は、このあたりには、ほとんど住んでいる人はいなかった。
 だから、最初の十年ちょっとくらいは、部屋はぼちぼちと埋まっていたが、それは近隣にマンションがなかったというだけのことだった。
 しかし、そのうち、
「あの街にはいろいろ所業施設やバス、鉄道の駅ができたりして、にぎやかになる」
 というウワサを聞きつけた人や、不動産屋さんが、その情報を、訪れた客に話をしたことで、ここが注目され始めた。
「もうすぐあの辺りはマンションも結構できるけど、正直、新築なので、結構高額になる可能性がありますね。今なら家賃が安い状態で借りられるし、家賃が上がったとしても、それほどではないので、借りるなら今かも知れませんよ」
 ということだった。
「そういうことなら」
 と言って、借りる人が徐々に増えてきた。
 新婚での部屋としては、広すぎるが、価格はまだ不便なところという意味で、都心部のアパートを借りるくらいの価格だった。
「少々遠くても、ここならいいよな」
 と、通勤に支障がなければ、選んで損はないということで、一時期、入居ラッシュになったのだ。
 このマンションの特徴としては、
「ペット可」
 であった。
 室内犬のような静かな犬であったり、猫などのペットは可ということにしている。
 ペットの中には、変わり種のようなものがいて、爬虫類などは、不可であった。
 そういう意味で、ペット可でもいいという人、ペットを飼っている人、新婚を機に、おペットを飼いたいと思っている人が、入居してくるのだった。
 ペットが苦手な人は来ないので、ちょうど、人気が出ても、競争になることはほとんどなかった。
「せっかく、静かなとことに引っ越しするのに、ペット可になんかされたら、落ち着いて暮らせない」
 という人は、最初から来ないし、不動産屋も、紹介したりはしない。
 このあたりに、それから新築マンションがたくさん建ったが、10軒のうちの、2、3軒は、ペット可のところだった。
 街には、ペットショップもあり、新しくできる商業施設には、ペット屋さんの2号店が入る予定になっている。この街のキャッチフレーズの一つに、
「ペットに優しい街」
 という触れ込みがあったのだった。
 このマンションも、ペットを可にしているのだから、防音設備はしっかりとしていた。
 少々犬が吠えたくらいでは、隣に聞こえないほどで、もちろん、音を立てずに、静かにしていれば、隣の犬が吠えた声が聞こえないなどというのは不可能であるが、気になるほどの声にはならないことは、建設時に、何度も検証し、チェック済みであった。
 そのことは、借りる人には十分に説明している。実際に部屋を見に行った時にも、同じようなことをしてみることも一つのマニュアル化されているのであった。
 管理人も、ペット関係での苦情はほとんど聞いたことはない。当然、入居時点で断りを入れているのだから、後から文句をいうのはルール違反だが、どうしても、犬が子供を生んだりして、事情が変わると、少々犬の声が変わったことで、今まで以上に響くこともあるだろう。
 文句をいう方も生活や仕事によってストレスを抱えているような状態であれば、普段なら気にもしないようなちょっとした音や声が、著しく鬱陶しいものになってしまい、耐えられないということになるのがオチではないだろうか。
 そういう意味で苦情はあるが、それも、いくつかの悪条件が重なった場合であり、そんな状況は、想定内の少なさであった。
 マンションの住人の中には、後からペットを飼う人もいて、管理人に報告にくる。
 これは、入居塩ルールであるが、中には、黙ってペットを飼うようにする人もいるようになってきた。
 最初の頃は管理人はすべてのペット状況を分かっていたが、途中から分からなくなった。
特に、途中から入ってきた、
「新興住宅が立ち並び、このあたりが便利になる」
 という話を聞きつけてやってくる人たちであった。
 そう、いわゆる、
「新参者」
 と言ってもいいだろう。
 そんな彼らは、管理人の思惑通りにはいかなかった。最初から入居している人たちは、自分たちの間で、暗黙のルールを決めていて、自分たちだけの時は、管理人も一緒になってうまくやってきたのだが、新しく入ってきた連中は、前の住民とあまり付き合おうとはしなかった。
 むしろ、毛嫌いしているところがあるのか、向こうから挨拶してもらっても、無視する人が多かった。
「なんて無礼な。こっちが先に住んでいて先輩なのに」
 と思われても仕方がない状態だったが、新しく入ってきた人は、そんなのはお構いなしだった。
 なんと言われようと関係ないと言わんばかりで、まるで、苛立ちを煽っているかのようであった。
 だからといって、同時期入居の人たちと仲がいいかというとそういうこともなく、挨拶もまったくなかったのだ。
 ペット可ということでペットを一緒に連れてきているが、それは、人間と付き合うよりも、ペットと一緒にいる方がいいという、
「対人恐怖症」
 なのか、人と一緒にいることでわずらわしさを感じるのが本当に嫌なのかということのどちらかなのだろう。
 他のマンションでも、大なり小なりの近所トラブルというものは、さまざまな理由で起こることであろう。
 こういうトラブルは比較的メジャーなのではないだろうか。先住民と新参者というのは、えてしてそういう関係なのかも知れない。
 松岡君が、クーパーイーツの配達で。このマンションには何度も訪れているので、慣れてはいた。
 その日は管理人がちょうど受付にいたので、帽子の庇を軽くあげて、ニコヤカニ挨拶をすると、いつものように、管理人は頭を下げてくれる。
「今日は、管理人さん、期限がいいみたいだな」
 と感じた。
 ここまで何度も来ていると、管理人がどんな人なのか分かる気がしていた。たまに、宅配便など、留守宅の前においていけないような場合に、預かっているところに出くわしたことがあったが、よく心得ていて、配達員に優しく接していたのだ。
 それを見た松岡君は、
「本当に気さくな管理人さんだ」
 と感じていたのだ。
 松岡君は、管理人さんを横目に見ながら、正面のエレベーターの上りボタンを押すと、両方ともロビー階にいたので、左の扉がひらいた。どうやら優先順位が決まっているようだった。
 エレベータに乗り込んで、5階のボタンを押し、閉まるボタンを押した。スーッと扉がひらき、上昇する時特有の足に圧力がかかったかと思うと、すぐに楽になったが、またすぐに今度は、身体は宙に浮くという、停止状態を感じることで、身体がスーッとしてきたのを感じた。
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次